第2話 覚醒した転生者への対応
「クロ、今日は朝から『覚醒』した転生者の予約が入ってる」
ギルドに出勤して早々、ギルドマスターからそう言われて、クロは思わず「うげぇ」と顔をしかめた。
「また転生者ですか……ゲンダイニホンってとこは、どんだけこの世界に人を送り込んでるんだか」
「まあ、そのへんはアレだ。カミサマとやらのご意志だからな。じゃ、あとよろしく」
マスターは完全に他人事のような言い草だ。いつもクロに仕事を押し付けてくる。
それがクロの転生者を苦手としている理由のひとつだった。
――まったく、俺の仕事を増やさないでほしいよ……。
「そもそも、転生者を見極めるのはギルドマスターの役目だろうに……」
ため息をひとつ。
この上司も転生者だったらしく、かつては中堅冒険者だった男だ。
しかし、転生した記憶を思い出した――『覚醒』したことで、冒険のモチベーションを失い、ギルドマスターに収まったそうだ。
彼のいわく、「なんで異世界にまで来て、面倒な仕事なんぞしなきゃならんのだ」らしいのだが……。
――ゲンダイニホンって、どんな場所なんだろう。
クロは詳しいことを知らないし、興味もない。
ただ、彼らの嘆きを聞く限り、ひたすらキツい仕事をやらされていたようだ。
仕事なんて、モンスターを狩って、その肉をギルドに納品するだけでその日一日の糧は得られるのに……。
クロは内心首を傾げている。
もしかしたら、奴隷のような暮らしを強いられている人間が、カミサマの手でこのネイバーランドに送られてるのかもしれないな。
その意味はよくわからないが……まあ、カミサマのお考えなんて、俺達人間に理解できるはずもないか。
予約の時間になって、面談室で転生者だという男に面会する。
男は黒髪に黒い目をしていた。全てではないが、転生者に多い特徴だ。
「はじめまして。それでは早速ですが、あなたが『覚醒』した転生者ということで、ギルドに登録したい、ということですね?」
「はい。転生者って、優遇制度があるって聞いたんですけど」
「ええ。異世界から転生してきた者は、『転生者優遇法』により保護されます。このネイバーランドにおいて、身分を保証され、生活保護年金を支給されます」
転生者がにやりと口の端を上げるのを、クロは見逃さない。
「それでは、あなたが転生者である証拠を見せていただきましょうか」
「え? しょ、証拠とは?」
「何でも構いませんよ。例えば、転生者であれば『チートスキル』を持っているものですし、前世の記憶を詳細に語れるのであれば、それでも構いません。なにか提示できますか?」
「え、えっと……僕はゲンダイニホンという世界から来て……」
転生者はしどろもどろに話し始める。
「ふむ。記録を取りますね。その世界は具体的にはどんな世界なんですか?」
「えーっと……ハンバーガーとか米とかがあって……」
「それは転生者がよく世間話で語っていることですね。他には?」
「あー……っと……」
「思い出せませんか? おかしいですね。前世の記憶が蘇ったから転生者として登録したい、という話でしたよね?」
クロは鋭い目つきで転生者を見据えた。目の前の男が思わずたじろぐ。
「では、スキルを見せてください。チートスキルはお持ちですよね?」
「いや……それはその……」
「ひとつ、ご忠告を」
クロの目に影が差した。
「もし、転生者登録が虚偽だった場合、あなたは多額の罰金を払うことになります。悪質な場合は懲役刑もあります。――あなたは本当に『転生者』ですか?」
「うっ…………す、すみませんでした!」
頭を抱えて椅子に座ったままうずくまってしまった男に、クロはため息をつく。転生者を名乗っていた男は、魔法で髪と目の色をいじっていた。このくらいなら、受付でしかないクロでも見抜ける。
「僕、どうしても生活に困ってて……転生者って言えば生活保護が受けられるって聞いて……」
「真面目にギルドで仕事をすればいいでしょうに」
「アイツらが! 転生者がチートスキルで依頼を根こそぎ持って行くから、現地人に仕事がないんでしょうが!」
……まあ、言ってる事自体はわからないでもない。
この世界では、転生者を巡る問題が山積みだ。
転生者優遇法が原因の差別。転生者自身の問題行動。そして、現地人から寄せられる苦情。
その処理が、全部クロの仕事である。
……そりゃ転生者が嫌いになるのも当然だ。
だから、クロは転生者に極力関わりたくない。仕事の性質上、それは難しい注文ではあるけれど。
偽物の転生者を「俺は何も聞かなかったことにしておきます」と帰し、通報はしないことにした。
「……さて、あとは書類の事務処理を……」
「おーい、クロ! 受付で転生者の冒険者登録! 急いで!」
……またか。
「……今日も俺の魔王は倒せなかったか……」
彼にとって、倒すべき魔王とは残業必至の書類の山である。
がっくりと大きなため息をつきながら、クロは受付に向かって速歩きを始めたのだった。
〈続く〉




