5年目の3人
大人になった3人
2人は店員に案内され、席に座る。
「なに飲む?」
「俺、ウーロンハイ」
「俺はカシオレ」
「飯は?」
「適当に頼んで」
「オッケー」
翔太はタッチパネルを手に取る。
画面を操作し終えると、元の位置に戻す。
「…で、どうしたの?聡一郎から飲みに誘うって珍しいじゃん」
「そうか?」
「しかも健抜きで」
「……」
「…健となんかあった?」
2人の間に沈黙が流れる。
「…最近」
「うん」
「健が足りない」
「…奇遇だね。俺もそう」
2人の視線が合う。
「ここ1ヶ月、ずっとよそよそしいし…避けられてる」
「あと絶対なんか隠してる」
テーブルにグラスが運ばれる。
2人はグラスを片手に一口飲む。
「しかもさぁ…最近女の人とよくいるじゃん」
「同じ学部の?」
「そう!その人!」
「たまに見かけるけど…仲良いよな」
「…見てるとなんかイラッとする」
沈黙が続く。
「…あいつほんと何隠してんの」
「あれほど、もう避けない!隠し事しない!って言ってたのにね」
「もう5年か」
「…そういえばそうだね」
口元が自然と緩む。
「明日の夜…いける?」
「いけるよ」
「健と、話そう」
「…オッケー」
2人の瞳に光が宿る。
「…野菜は?」
「枝豆」
「枝豆って野菜?」
「いいから!食べよ!」
それぞれ箸を取り、料理に手をつける。
酒を追加して、皿も空になり、2人は店を出た。
ーーーー・・・
大学の正門を過ぎる。
「だんだん寒くなってきたね」
「だな」
「…あれ絶対健だよね?」
「…健だ」
「いくぞ」
「おー!」
身をかがめる。
静かに、近づく。
「おはよう」
「おはよ!」
「うわっ!…びっくりした」
「今日さ、講義終わったら健のアパート行っていい?」
「…あー…」
目が泳ぎ、少しの間が空く。
「6時…いや7時以降なら大丈夫」
「わかった」
「じゃあ7時頃に遊びにいくね」
「オッケー!じゃ、俺これからゼミだから!」
健は早々に立ち去り、2人はその背中を見つめる。
「…怪しい」
「…逃げないように手錠でも買う?」
「ありだな」
健の背中が見えなくなるまで、2人はじっと見ていた。
ーーーー・・・
ボタンを押すと電子音が鳴る。
『はーい』
「健、俺だよ」
『…え!?翔太!?まだ6時だけど…』
「俺もいる」
『聡一郎も!?早すぎない!?』
予想通りの反応に2人は目を合わせる。
表情は険しい。
「早く来ちゃった。入れてー」
『いや、ちょっと…その辺ぶらぶらしててくれない?部屋片付いてなくて…』
「別にいいよ」
「俺たちの仲じゃん」
『えー…今、足の踏み場無いっていうか…』
「俺らも片付け手伝うよ」
インターフォン越しに沈黙が流れる。
『…7時なったらもう一回来て』
「なんで?」
「誰かいるの?」
『…誰もいないよ』
「じゃあ入れてよ」
「最近避けてるでしょ」
『うわ…その流れか…』
鍵を開ける音。
ドアが開くと、健が顔を出す。
「今回は俺を信じてください」
「じゃあ部屋入れて」
「なんか隠してるでしょ」
「7時になったら教えるから!マジで!」
健の必死の形相に、2人はわずかに狼狽える。
「今日1個だけ、なんでもいうこと聞くから!」
「1人1個?」
「そう!だからまたあとでね!」
ドアが力強く閉まる。
鍵がかかる音。
2人はドアの前に立ちすくむ。
「…近くのカフェで時間潰すか」
「…そうだね」
2人はその場を離れた。
ーーーー・・・
ドアが開き、健が顔を出す。
「入って入って!」
「「……」」
2人は不満げな表情で、部屋の中に入る。
「寒いから!先に部屋行って!」
健は2人の背中を力強く押す。
「おい、健…」
「ちょっと!なになに!?」
「いいから!ドア開けて!」
部屋のドアを見つめる。
聡一郎がドアノブを押すと、2人の目が大きく見開く。
「…え?」
「…なにこれ?」
カーテンは閉じられ、部屋の中は薄暗い。
その中で間接照明やキャンドルの灯りが、やわらかく空間を照らす。
白い壁の中央には、「5」の形をしたバルーンが飾られており、その周りを囲むようにカラフルな風船があちこちに置かれている。
背後からパアンと弾ける音が聞こえる。
後ろを向くと、健がクラッカーを手にしていた。
「今日は2人と付き合って5周年のアニバーサリー!」
「…そういうことか」
「…隠してたのってこのこと?」
「そうだよ!お前ら何変なこと考えてんだよ!」
健は軽く2人を睨みつける。
「避けられてたし」
「準備で忙しかったからね」
「部屋に入れてくれないし」
「入れたら速攻バレるじゃん」
「「……」」
2人は腰が抜けたように床に座り込む。
「はあ…」
「よかった…」
「お前ら考えすぎ!」
健はおかしそうに笑う。
「腹減ってる?飯作ったんだ」
健はキッチンに立つと、次々と料理を運び出す。
テーブルの上に料理が揃うと、翔太が目を丸くする。
「これ2人が弁当作ってくれた時の…」
「ほんとだ…すげえ…」
テーブルにはおにぎりと唐揚げ、肉団子、焼き野菜の甘酢漬けが並ぶ。
「2人とも覚えてたんだ」
「当たり前じゃん…」
「全部健が作ったの?」
「そうだよ!めっちゃ頑張ったから!」
健は腰に手を当てて、無邪気に笑う。
「おにぎりもちゃんとでかい」
「中身も鮭と昆布だよ」
「え〜?え〜?俺、泣いていい?」
翔太は両手を口元に当てる。
「泣いてもいいけど、ご飯冷めちゃうよ」
「泣きながら食え」
「ぐすっ…うん、食べる」
3人はテーブルを囲むように座ると、料理を食べ始める。
「うまい」
「…やばい、これ…」
「うん、我ながらおいしい!」
3人の箸は止まらない。
途中で泣き出した翔太を慰めつつ、思い出話に花が咲く。
「そうそう、2人にプレゼントがあるんだよね!」
「プレゼント?」
「え、そんなのも用意してるの!?」
健は一度部屋を出ると、分厚い本のような物を持ってきた。
「これ!中見てみてよ」
2人は健から受け取ると、床に置いて表紙を開く。
「うわ…」
「懐かしい…」
高校生時代の写真が目に入る。
ページをめくるたびに、文化祭や修学旅行の思い出が次々と現れる。
さらにめくると、高校から大学へ…時代が移り変わるように写真が並んでいる。
「健が作ったの?」
「うん。こうしたら、いつでもみんなで見れて楽しいかなと思って」
「俺また泣いちゃう…ティッシュ…」
「俺も泣きそう」
「はい、どうぞ」
2人がティッシュで目を押さえる。
「アルバム見終わったらさ、デザート食べない?」
「食べる」
「もしかして手作り?」
「そう!今持ってくるね」
健は冷蔵庫を開くと、中から白いホールケーキを取り出す。
「じゃーん!ショートケーキだよ!」
「え、これマジで手作り?」
「お店のケーキみたい…」
ケーキの上には、赤いイチゴが並んでいる。
その中央には、「いつもありがとう」と書かれたチョコレートプレートが添えられていた。
「同じ学部で、お菓子作るの得意な女の子がいてさ。教えてもらったんだ」
「なるほど」
「だから一緒にいたんだ」
「え?なんだと思ってた?」
「「浮気相手」」
「バカじゃないの!?俺って信用ない!?」
「…ぶっちゃけ嫉妬してた」
「…俺も」
「はあああ?」
苛立ちと困惑が入り混じった表情で、2人を見る。
「ちなみに相手の部屋には行ってないから!ちゃんとしたレンタルキッチン使って教えてもらったからね!」
「疑ってすみませんでした」
「ごめんなさい」
「…まあ、俺もお前らを心配させたわけだし…ごめんね」
3人は視線を合わせ、ふっと笑う。
暖かい空気が流れる。
「…この5年間すごく楽しかった」
「俺と翔太は来年から就職だし…だから今日、2人に感謝したくて」
「いつもありがとう…俺とずっと一緒にいて」
最後の言葉に全身が熱くなる。
「…俺らも健に感謝してる」
「健がいたから、3人がいいって思えたんだよ」
「聡一郎…翔太…」
健の視界が滲む。
「いつもありがとう」
「これからも一緒にいようね」
「…うん」
「じゃあ、ケーキ食べよ!フォークそのまま刺していい?夢なんだけど」
「いいんじゃない?聡一郎は?」
「作り手がいいならそれで」
「よっしゃー!夢に見たホール食い!」
翔太はフォークでケーキを大きく切り取ると口に運ぶ。
「うま!2人も早く食べて!」
「うれしー」
「いただきまーす」
翔太に続いて、2人もケーキにフォークを入れる。
3人で笑いながら食べていると、ケーキはいつの間にか空になる。
聡一郎と翔太はキッチンに立つ。
「いいのー?俺もやるよ?」
「今日の功労者は休んでて」
「…はーい」
健は立ち上がる。
つま先に何かがコツンと当たった。
「なにこれ?」
健は手に取る。
黒い合皮製の腕輪が2つ、銀色のチェーンで繋がれている。
誰が見ても拘束具だった。
「あ」
「やべ」
「…なんで持ってきた?」
健は2人に冷ややかな視線を向ける。
「いやー、なんか隠してるっぽいし?ちゃんと話したいから逃げないようにと思って…」
「翔太が買いました」
「はあ!?お前もありだなとか言ってたじゃん!」
「はあ…」
健は片手でそれをつまむ。
「どこで買ったんだよこれ」
「アダルトショップのSM「うわあああ!」」
翔太は聡一郎の口を手で強く抑える。
「……」
「そ、そういえば、健!高校生の時、こういうの使ってる本読んでたよね!」
「はあ!?まだ覚えてんの!?」
「俺も覚えてるよ」
「めちゃくちゃ激しいやつでしょ?」
「やめろ!!!恥ずかしい…」
健は頬を熱くしながら、テーブルの上に投げ捨てる。
翔太はすぐにそれを手に取る。
「ほんとは興味あるんじゃないのー?」
「はあ!?ないない!ないから!」
「顔赤い」
ベッドに座る健の両隣に聡一郎と翔太がそれぞれ腰掛ける。
「…今日、泊まっていい?」
「俺も」
「…いいけど、2人とも顔近い」
「ふふ」
「察してよ」
健の瞳が揺れる。
「…2人はきついって」
「なんでもいうこと聞いてくれるんでしょ?」
「…あ」
「はい、決まり」
「これもつけてね!」
「…とりあえずシャワー浴びさせてください」
2人は笑顔で頷く。
健は立ち上がると浴室へ向かう。
……今日絶対やばい。
背後から聞こえる2人の楽しそうな声に、苦笑が漏れる。
観念したように肩の力を抜く。
浴室のドアを開ける。
パタンと閉まる音が、静かに響いた。




