第48話 俺の彼女だ
やっと美少女サンドイッチから解放された俺は、荷物番をしている操ちゃんのところまで戻ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ……キツい。もう理性の限界だ」
前と後ろから美少女に密着されるとか、これどんなハーレム展開だよ。
「ぬっへへぇ♡ 俊、もしかして○っちゃった?
メアリー先輩の口から下ネタっぽいセリフが出たが、聞こえなかったことにしておこう。
「何だよぉ。あたしで興奮してたくせにぃ♡」
「くっ、何も言い返せない……」
スルーしたいのは山々だが、メアリー先輩の肉の圧力には屈せざるをえない。あの包まれるような安心感と圧迫感。何か搾り取られそうなゾクゾク感。
もう存在そのものが女王様だ。
「メアリー先輩、もう少し抑えてくださいよ。恥じらいというものがですね」
軽く注意してみたが、かえってメアリー先輩を調子づかせただけかもしれない。
「ぬっへぇ♡ やっぱり○ったんだ?」
「そんなエロい体で密着されたら、健全な男子なら我慢できませんって!」
「むふふぅ♡」
くっそ! 完全に遊ばれてるぞ。
しかもさっきから、瑛理子先輩が凄い目力で俺を睨んでいるのだが。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!」
「あ、あの、瑛理子先輩?」
瑛理子先輩に声をかけてみたものの、彼女は両手をブンブン振って駄々をこね始めた。
「もうっ! もうもうっ! ズルいわ、黒森さんとだけ楽しそうにして! もっと私に構いなさい!」
「構いなさいって、子供じゃないんですから」
「う、うるさいわね! それじゃ私が駄々をこねる子供みたいじゃない!」
駄々をこねる子供みたいなのだが。
「瑛理子先輩って、見た目は超絶美形女王様みたいなのに、意外と子供っぽいですよね」
「はぁ! 子供じゃないわよ! 大人の女よ! はぁ!」
そういうところです、瑛理子先輩。
「そもそも瑛理子先輩は、自分の可愛さを自覚してください。水着姿で男に密着とか、そんなの夜のオカズを増やすようなもんですよ」
自分で話していながら、自爆したと気づいてしまった。俺は何を言っているんだ。
かぁぁぁぁぁぁ――――
俺のセクハラ発言で、瑛理子先輩の顔が真っ赤だ。
「ふ、ふーん♡ つまり大崎君は、私の肌の感触で自○をするのね♡ ふーん」
「うっ、すみません……。それ以上は勘弁してください」
「勘弁できないわね♡ 自○するの? どうやって? 教えなさいよ♡」
何だこの小悪魔先輩は。興味津々で俺の自○を聞いてくるのだが。
この人って、純情だったりエロかったりギャップが激し過ぎないか?
「はぁ、もう付き合っちゃってくださいっスよ。じれったいっスね」
雅先輩が爆弾発言し、俺と瑛理子先輩とメアリー先輩が同時にツッコむ。
「つつつ、付き合うとかじゃないから!」
「つ、つつ、付き合うとかじゃないわ!」
「付き合うならあたしとだろ!」
ん? 今なんか変なセリフが聞こえた気がするけど。気のせいか?
「おい、お前ら、いい加減にしろよ。アラサー独身女教師の前でイチャイチャしやがって。終いにゃキレるぞ」
さっきから黙って聞いていた操ちゃんが、ドスのこもった声で言い放った。
ちょっと顔がやさぐれている。
◆ ◇ ◆
「あれ、瑛理子先輩は?」
もうひと泳ぎした後、皆で昼食をとることにした。操ちゃんの奢りで。
分担して買い物に行くことになり、俺は焼きそば担当となった。しかし、買い物を終えた俺が戻ってみると、瑛理子先輩の姿が何処にもない。
「あれっ、瑛理子先輩は?」
「まだ戻ってないぞ」
俺のつぶやきに、操ちゃんが答えてくれた。
瑛理子先輩は飲み物を買いに行ったはずだ。もうとっくに戻っていると思っていたのだが。
「メアリー先輩は知りませんか?」
「トイレかな? 小なら海ですれば良いのにさ」
メアリー先輩がとんでもない暴露をした。いつも海でしてるのかよ。
すぐに雅先輩が口を挟む。
「所かまわず漏らすのはメアリー先輩だけっスね」
「こらっ、所かまわずは漏らしてないぞ。プールではしてないからな」
「プール以外ではしてそうっスね」
メアリー先輩……いつもその辺でしているのか?
「こら俊! 今、変な想像をしただろ!」
「い、いえ……」
速攻でメアリー先輩にバレた。
いつも電信柱にしているのでは……とか、そこまでは思ってないぞ。
「こ、こら! あたしを変態扱いするんじゃない。まるであたしが野外でするの大好きな変態みたいじゃないかぁ!」
「男子に上履きの臭いを嗅がせる女子は、十分変態だと思いますが」
「あれは別なんだよ! 好きに人には嗅がせたいだろ」
ん? 好きな人? 今、とんでもないワードが聞こえたような?
友達としてって意味かな。そうに違いない。
「それにな、海外の水泳選手は、プールにするのが普通なんだよ。てか、あたしはしてないからな!」
プールに……って、今はそんなのどうでもいい。瑛理子先輩を探しに行こう。
あの人って見た目は完璧美人だけど、実は対人関係が壊滅的にダメなポンコツだからな。ナンパされて、トラブルに巻き込まれでもしたら大変だ。
「ちょっと瑛理子先輩を探してきますね」
商店が並ぶエリアに向かっていたら、瑛理子先輩はすぐに見つかった。あの人、やたら美人でオーラが凄くて目立つから。
「瑛理子せんぱ――」
声をかけようとして伸ばした俺の手は、途中で止まった。
瑛理子先輩の周囲には、見るからにチャラそうな男たちがたむろしていたのだ。
「何だあのヤカラは? くそっ、やっぱりナンパかよ!」
俺は全力で駆けだした。
近付くにつれ、会話内容が聞こえてくる。
「姉ちゃん、すげぇ美人じゃねえか!」
「俺たちとイイコトしようぜ」
「楽しませてやるからよ」
いかにもヤリモクっぽい男たちを、瑛理子先輩は鋭い目で睨みつけた。
「は? 何を言っているのかしら? 邪魔よ」
「んあぁん! っだとゴラぁ!」
「汚い顔を近づけないで。下品なのが移るわ」
「舐めてんのか、このアマぁ!」
ヤバい、一触即発だ。何でわざわざ怒らせてるんだよ。
だから言ったのに。瑛理子先輩って、対人関係がポンコツだって。
「やっちまうぞゴラぁ!」
ヤカラ男の一人が、拳を振り上げた。
「脅せばモノにできると思ったら大間違いよ」
「う、うっせえぞ! 俺をバカにしてんのか! おらぁああ!」
ヤカラ男は、握りしめた拳を瑛理子先輩目掛けて振り下ろした。
俺は飛び込むように間に入る。
ドガッ!
「危ない、瑛理子先輩っ、い、痛っ!」
瑛理子先輩に当たりそうなパンチを、俺はギリギリで防いだ。
代わりに俺の顔に当たったけど。
「痛ってえ! いきなり暴力はヤバいだろ」
「な、何だテメエは!」
ヤカラ男のターゲットが俺に移った。
ここは一芝居うつしかないか。
「何だって言われても、この子は俺の彼女ですけど」
「んああぁん! テメエみたいな男が、こんな美人と付き合えるわけねえだろ!」
悪かったな。つり合ってなくて。
「俊君!」
ぎゅうう~っ!
突然、瑛理子先輩が俺の腕に抱きついてきた。
良かった。話を合わせてくれたのか。
「な、なんだと……マジかよ」
「あり得ねえ……こんな良い女と……」
「ちくしょう!」
ヤカラ男たちが絶望的な表情になっている。俺に負けたとでも思っているのか。
何だこの優越感は。
しかしこのままでは危険だ。この手の男は、やたらメンツにこだわるからな。ここは冷静に。
「今、殴りましたよね? この辺りは警官がパトロールしていますよ。トラブルが起きると、すぐ目を付けられましてですね。暴行に傷害がつくと、懲役の実刑になる確率が……」
俺の話でヤカラたちが怯み始めた。
小説のネタで刑法を調べておいて役に立ったぜ。
「ヤバいっすよ」
「お、おう」
「行くぞ、お前ら」
ヤカラたちは一目散に逃げだした。見た目だけのイキりクソ野郎のようだ。
「瑛理子先輩、大丈夫ですか?」
震えている瑛理子先輩に声をかけてみたけど、まだ俺に抱きついてギュッと目をつむったままだ。
「あ、ありがとう……。助かったわ。しゅ、俊君♡ 大丈夫?」
瑛理子先輩は心配そうな表情で、俺の顔を覗き込んできた。
「少し赤くなってるわ。私を助けようとして……」
「まったく、瑛理子先輩は世間知らず過ぎます。世の中には危険な男がいてですね……って、あれっ?」
何だか瑛理子先輩の様子がおかしいような? 蕩けたような目で俺を見つめている。
「んっ♡ 俊君♡ わ、私っ♡ 私が彼女に……ううっ♡ わ、私も……す、すす……すき……」
「瑛理子先輩、もう演技しなくてもいいですよ」
「は?」
急に瑛理子先輩の表情が固まった。
「えっと、だから、彼氏とか嘘ついてすみませんでした。ああ言えば場が収まると思いまして」
「んんんんぅ~ん! ぐぬぬぬぬ!」
「俺と瑛理子先輩が付き合うはずないですよね。全然つり合ってない……って、何か怒ってます?」
いつの間にか、瑛理子先輩の威圧感が急上昇していた。
どうしてこうなった。
「もうっ! 紛らわしいのよ! 本気かと思っちゃったじゃない! 大体あなたはねえ、いつも私の心を掻き乱してばかりで! もう知らない!」
プリプリと怒った瑛理子先輩は、一人でズンズン歩いて行ってしまった。
やっぱり瑛理子先輩の様子がおかしい。




