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試着した限り、一番似合っている。エルフリートはロスヴィータに絶賛の言葉を送った。ロスヴィータが肩の力を静かに抜いたのに気付いた。ほっとした様子を見せる彼女は緊張していたようだった。
これだけ“似合わない”ドレスに囲まれていれば、そしてそれを何日にも渡って試し続けていれば、また似合わないかもしれないと身構えてしまう気持ちも分からなくはない。エルフリートはそんな事を考えながら、彼女に笑みを向ける。
「ロス、このドレスデザインを基準にしてウェディングドレスを仕立ててもらう、で良いかい?」
「ああ、このデザインで頼もう」
よし、決まりだ。エルフリートはエマに向けて頷いた。きっとこれからは、今までの試着地獄が嘘かと思うくらいに順調になるに違いない。
ロスヴィータのドレスの完成が着実に近付いている。エルフリートは期待に目を輝かせるのだった。
エルフリートの願望通り、順調に進んでいる。ドレスの次の打合せまで時間が開く事になったから、心に余裕もある。普段の訓練の合間に騎士学校の様子を見て、と忙しく活動しているがそれでも。精神的なきつさも、肉体的なつらさもないって、こんなに楽だったなんて。
エルフリートはこの幸せな日常に浮かれていた。
「フリーデ、今日はルッカのところか?」
「ブライス」
移動中に声をかけてきたのは、アイマルと別行動中らしいブライスだった。ひと汗流してきたのだろう彼は、額に浮かぶ汗を拭っている。男くさい仕草を眺めながらエルフリートは微笑んだ。
汗臭くはないから、お風呂上がりかな。そんな事を思いつつ口を開く。
「時間があるならブライスも一緒に行く?」
「あー……どうすっかな。まぁ、行くか」
歯切れの悪い返事に小さく首を傾ければ、ブライスは困ったように笑った。
「アイマルの奴がな、俺が予定外の行動を取ると拗ねるんだよ」
「ふぅん?」
「懐いてくれたのは良いんだが……ちいせえ犬っころみたいになりやがった」
エルフリートは思わず小さい犬の姿になったアイマルを想像し、ふふっと笑う。犬種は何だろう? 小さくても猟犬みたいなのっていたっけ……?
エルフリートが架空の犬と戯れるブライスの姿を妄想しようとしているのにすぐさま気付いた彼が、エルフリートの額を指先でつつく。
「おい、今変な事考えたろ」
「えっ? そんな事あるけど……ふふ。二人とも可愛いんじゃないかな」
「勘弁してくれ」
言うんじゃなかった、と苦々しく言うブライスと共にルッカのいる魔法士塔へと向かう。その研究室に入れば、試作品を義手を取り付けた彼女の姿があった。
ルッカの安全を確保する為か、すぐにでも対応できるようにジュードが側に立っている。いつも通りの二人の姿である。そこから少し離れてジークが椅子に座っていた。
穴を見つけるのが得意な彼を呼ぶという事は、ルッカはまだまだ改良を加えていくつもりなのだろう。
「こんにちは、お二人とも。ちょうど良いタイミングですね。これから動作確認をするところです」
ルッカが気合いの入った笑みを浮かべている。今期中に完成を目指したいという意気込みを聞いていたエルフリートは、きっとうまくいくに違いないと確信していた。
「始めます。まずは、重さの確認。腕を真っ直ぐに伸ばします」
ルッカは宣言した通りに腕を動かし、その感想を口にしていく。普通の腕と同じような重さにはできなかったと嘆いていただけあって、やはり気になる重さらしい。
その重さは精神魔法の類で誤魔化す事はできるが、人体の損傷に繋がる可能性がある。残念ながら、重さについては我慢するしかないようだった。
ルッカが重さの問題以上に難しいと言っていたのは、指先の器用さの維持である。魔法具は時計のようなものだ。弾力のある肌を再現する事はできない。ただでさえ関節と同じように動く機構を作り上げるのも難しいというのに、動くだけでは意味がなかったのだ。
それこそ最初はトングの方がマシといった風で、何も掴めなかった。ルッカが悪態をつきながら掴みやすそうなミニクッションを落とす姿を見た事のあるエルフリートは、辛抱強く挑戦し続ける彼女に尊敬の念を抱いたものである。
因みに、こちらはクリアできたようだ。エルフリートの目の前で、ルッカは万年筆を手に取ってみせた。
その後、彼女は力加減のチェックと称して卵を義手で割ってみせる。かなりの進化ぶりにエルフリートは思わず拍手を送った。
一通りの確認は、何事もなく終わったかのように見えた。
「ボールドウィン副団長」
「私、感激しちゃった!」
「お願いがあるのですが」
「うん?」
「これから手合わせしていただけませんか?」
手合わせ。それ自体は聞き慣れた言葉だが、今ここで口に登るものではない――はずだ。エルフリートは瞬きを繰り返して首を傾げた。
すぐに、ルッカは自分の言いたい事が通じていないと気が付いた。
「最後の動作確認として、騎士としてこの手が使えるのか試したいのですよ」
「あ、ああ! なるほど!」
確かに騎士の為の義手であって、料理人の為の義手ではない。卵をうまく扱えるだけでは意味がないのだ。
そうとなれば、エルフリートの返事は決まっている。
「喜んで!」
エルフリートのはしゃいだ声に、ルッカはゆっくりと目を細めて笑むのだった。




