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 最近は調子が良い。エルフリートは慌ただしくも自分の時間を得る事に成功していた。頭を悩ませていた存在も完全に大人しくなったし、騎士学校の運営もうまくいっている。アイマルの件も落ち着いてきていて、徐々に彼が単独行動できる事も増えてきた。


 すっかり忘れていたが、アルフレッドの件で大きな企み事をしていたカールスが盗んでいたあの魔法具もルッカが見つけてくれた。どうやら魔法具を探す為の魔法具を忙しい間に作り出していたらしい。普段の活動(義肢型魔法具の開発)の他に魔法具探しを頼んでいたのに、女性騎士団の指導まで頼んでしまっていた。

 アルフレッドとカールスが動けなくなって緊急度は下がっていたとはいえ、放置するわけにはいかない。ルッカは忘れずに、ちゃんと仕事をしてくれたのだ。

 エルフリートがカルケレニクス領に出張している間に見つけ、国王へ返却したということだった。本当に仕事が早い。


 騎士学校の方は生徒が育ってきている事と、周囲の認知も進んだり手を差し伸べてくれる人も現れた事から、どんどん運営も楽になっている。何よりも、教育者として手を貸してくれる人も現れた。

 ルッカが義肢型の魔法具を開発している事を知った負傷で退役した騎士が、何らかの支援ができないかと手を挙げてくれたのだ。

 支援の手はもちろんありがたいが、優秀な人材がいてくれた事にも感謝した。


 女性騎士団の方は、自分達の力だけでやろうとするのをやめた途端に楽になった。自分の力だけでやろうとするのは、無理があったのだ。他者に頼るという事を覚えるだけで、こんなに楽になれるとは思ってもいなかった。

 今までの事を振りかえったエルフリートとロスヴィータはお互いに苦笑したものだ。




 と、いうことで。何もかもが順調って気持ち良い! 晴れやかな気分で日々を過ごしているエルフリートはロスヴィータのウエディングドレス選びに入っていた。自分用のドレスは自分でレースを編む事にした為、問題ないが、彼女の方はそうはいかない。

 先日、エルフリートが選んだデザインのドレスを身にまとったロスヴィータが王族のお茶会に向かったところ、大盛況だったらしい。この調子ならば結婚式のドレスも楽しみだという評判をもらったからには、エルフリートも気合いを入れなければならない。

 もともとロスヴィータを飾りたてる機会を得てうきうきしているところに、外からの期待がかかる。よりいっそう励みたくなるというものだ。


「ロスはドレス、本当に嫌ではない?」

「……どうした? 今更。私はドレスが似合わないから着たくないだけで、別にドレスが嫌いなわけではないよ」


 前にも言ったと思うが……と彼女の言葉が続き、エルフリートは慌てて頭を縦に振った。今日のロスヴィータはドレスの試着ができるように、と着替えやすい男性装をしていた。

 長身にすらりと伸びた四肢にフィットしたジャケットにパンツがとても似合っている。色は濃い青でラピスラズリを想像させる深い色をしている。そこに散りばめられているのは草花の刺繍。派手になりすぎないように、刺繍糸は落ち着いた金色のものがベースになっていた。

 その加減のせいで、ロスヴィータの美しい金糸が目立つ。彼女の髪に視線がいく仕組みだ。とてもセンスが良い。

 エルフリートは会話をしていた内容も忘れ、彼女に魅入った。


「……フェーデ?」

「あ、あー……すまない。その姿がとても似合っていて」

「あぁ…………」


 この姿の時(・・・・・)には普通にしていようと思ったのに。エルフリートは自分の気持ちが抑えられなかった事を後悔する。両手で顔を隠してため息を吐けば、視界の外からくすくすという笑い声が聞こえてくる。


「良いよ。私はそんなあなたも含めて好きなのだから」

「そ、そういう事は外では言わないでくれるかな」

「そうかい? 私はなるべく積極的に口にしていこうと思ったところなのだがな」


 いつからそうなったの!? エルフリートは驚いてぱっと手を放した。目の前には、にやりと笑むロスヴィータの姿がある。冗談か。驚いているとロスヴィータは楽しそうに笑った。

 うう、その笑顔、眩しい。


「本気だが」

「そうなの!?」


 エルフリートがうっかりとエルフリーデの姿をしている時のような声を上げる。ますます面白くなってしまったのか、彼女は口を押えて笑い続ける。


「ははは、だってこうしていられる時間は限られているんだ。私にだって口説く権利があるとは思わないか?」

「……もう、それくらいにしてくれる?」

「良いだろう。そろそろ呼ばれるだろうしな」


 ロスヴィータはそう言って視線を移動させる。エルフリートがその視線についていくと、その先にある扉がちょうど開いた。この前のドレス選びの時にも頼んだ、エマが現れた。


「お待たせしました。それでは今日もよろしくお願いします」

「ああ、頼むよ」

「よろしく」


 いつもと変わらぬ微笑みをたたえたエマに、エルフリートとロスヴィータは笑顔を向けて立ち上がった。さぁて、腕が鳴るぞ!

 まずはどんなドレスを提案されるのかな。エルフリートは並んで移動するロスヴィータの横顔を覗き見て小さく口元をゆるませるのだった。

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