122 アトラス王宮のナーディアとイレーヌ
宰相とイースデン公爵は、軟禁されている王の前に書類を出していた。
「殿下がデセウス王国軍の特使として、休戦の申し出があったのです。
さらに言えば、デセウス王国軍として戦場に出ていました。
これはアトラス王国への背信行為です。どれほどの情報をデセウス王国に与えたかわかりません。
殿下が逃避した時に通達を出してありますが、正式に廃嫡のサインをお願いします」
丁寧に言っているが、立場は逆転しており命令にちかい。
全ての権限をユークリッドに移さねば、戦争終結の調印ができない。
その準備をしているのだ。
「バーミリオンは、ただ一人の息子だ」
情報を遮断され軟禁されている王は、何十年も年を取ったように力なく座っている。
だが、宰相は知っている。
これでも王だ、油断してはいけない。
王と王太子の全ての権限を取り上げても、王家派の旗印としてまつり上げられる可能性も残っている。
監禁している王妃の存在も、危険要因である。
書類が完成し、扉の前に立つ騎士に厳重に警備するように言い残して宰相室に戻ると、ナーディアとイレーヌが待っていた。
王宮にいるイレーヌはともかく、ナーディアはアルチュールが連れて戻って来たようだ。
「宰相閣下」
イレーヌは立ちあがった。
「ユークリッド様が戦場にいらっしゃる今、婚約者というだけでは頼りないのでしょうが、ユークリッド様の代理としてできる範囲の決済をいたします」
震えるイレーヌの手を、ナーディアが握っている。
これは、二人で決めた事だ。
ナーディアはアルチュールと共に、王宮のイレーヌを訪ねて話し合った。
アーニデヒルトの欠片を拾いにいくためには、早く戦争を終わらせないといけない。
その為にも、王宮の指揮体制を早急に改革して安定させねばならない。
その為に自分達ができるのは、待つだけじゃない。
大事な人が無事に戻ってこれるように、早く終結させたい。
イレーヌの言葉に一番驚いているのは、父親のヴィスタル侯爵であろう。
「イレーヌは実践が足りてませんが、子供の頃から僕がだした及第点をクリアしています。
知識は十分にあるはずです」
アルチュールがイレーヌの能力を補足する。
アルチュールの及第点という言葉に眉をひそめたのは、宰相と同僚である補佐官達だ。
アルチュールが他人に厳しいというのを、身をもって知っているからである。
「私も手伝います」
王太子の婚約者となった時から、王妃教育を受けていたナーディアである。
世界は違うが、アーニデヒルトの王妃としての記憶もある。
「僕達が完全な草案を作るから、未来の王妃様は印を押してくれたらいいよ」
「お兄様は、私にめくら印を押せとおっしゃるの?」
こうやって妹を教育してきたのだな、と思わせるヴィスタル侯爵家の兄妹である。
イースデン公爵も娘の姿を見て、成長を感じていた。
バーミリオン王太子の婚約者だったころより、自分の意志がかたい。
戦争終結に向かって進んでいるが、それと同時にアトラス王国の新体制を整えなければならない。
ナーディアとイレーヌは、オブザーバーとして貴重な存在となっていった。
読んでくださり、ありがとうございました。
ナーディアとイレーヌは、自分達だからできることを考えたのです。




