いろいろとキモすぎるんだが
授業が終わった後、彼女のクラスを覗いてみた。
先程までのディベート(?)はもう行われておらず、教室は和気あいあいとした空気に包まれていた。
すると、背後から突然声を掛けられる。
「おいゴミ陰キャ!どの面下げて学校きてやがる⁉」
とヤンキーAこと嗚呼異鵜繪御が突っかかってくる。
先程までの教室の和気あいあいとした空気は何処へ…。
殺伐とした空気の中、俺は一瞬で空気になることを選んだ。こういう輩は言い返すだけ無駄だと分かっている。
すると、嗚呼異鵜繪御の更に背後から声が聞こえた。
「ちょっとあんた‼その子に何してるのよ‼」
さっきディベートしてた彼女の声だった。
すると嗚呼は、「てめぇにゃぁ関係ねぇだろ」と一蹴する。
が、「あなた、私が風希委員長であることを知らないの⁉…とにかく、ちょっかいかけるのは止めなさい。生徒指導室送りになるわよ。」
生徒指導室という単語が効いたのか、嗚呼は渋々と言った感じで教室から出ていった。それと同時に、嗚呼を追い出した彼女に拍手喝采が送られる。
それはそうだ。彼女はあの嗚呼に真っ向から立ち向かい、その結果撃退することに成功したのだ。彼女は一人の生徒、そして教室の秩序を守ったのだ。
そして、ようやく拍手の嵐が収まったと思うと、今度は彼女から質問攻めを受けた。
一体何があったのか、そしてなぜこの教室に来たのか。
俺はすべて包み隠さずに話す。
「俺はこの教室に用があったんだけど突然あいつが突っかかってきたんだ。」
「ははぁ、なるほどね。だいたいの事情は分かったわ。それじゃ、あんたはその用事とやらを済ませてきたら?」
「俺が用があるのは君だよ。学校じゃ話しにくいから放課後会えないかな?」
「え…」彼女がジト目を突き刺してくる。
だが、俺は後ろめたい事なんて何もないのだからそんなジト目は効かない。
断じて、ショックなど受けていない。
「別にやましいことはないからね?放課後少し確認したいことがあるだけだから。今日が無理なら君の予定が空いてるときでいいけど。」
「まぁ、予定は空いてるけど。その話ってどれくらいで終わるの?」
「本当に確認するだけだから五分もいらない。」
「…分かったわ。放課後少しだけなら付き合うわ。でも、委員会活動があるから少し待っててもらうわよ。」
「ああ、三分間だけ待ってやる。じゃ、放課後校門前で待ってる。」
――放課後ッ。
「…うげっ」放課後、彼女との会話の第一声がそれだった。
もちろん、これは俺ではなく彼女が発した言葉だ。
おそらく本当に待っているとは思わなかったのだろう。
「何だよ、うげって。流石に傷つくだろ。あなたがここにくるまでに5分かかりました。」
俺はマジトーンで言ったが、彼女はそんなこと気にも留めずさっさと歩きだしてしもた。
「どこに行ってるんだ?」
「X珈琲。座って話したほうが楽でしょ?それに私、少しおなか減ったし。」
それもそう…なのか
――X珈琲の隅のテーブルへ俺たちはやってきた。
「で、一体なにを確認するの?」
「それはだな、お前が例の”仲間”の中の一人なのかを確認したくてな。」
すると、彼女は声のトーンを急に下げ、「ストップ、これ以上はここで喋ってはだめ。…取り敢えず私についてきて。」
俺は困惑した。なぜここで言ってはいけないんだ?
別に聞かれたって、普通の人間は気にも留めないだろう。
なぜここで言ってはいけないのか。少し考えていると彼女は自分の珈琲を飲みきり、会計に行ってしまった。そんな彼女に俺も続く。
そして、改めて先程のことを聞こうとしたが彼女は「さっきのことは何も喋るなよ…」と、無言の圧を掛ける。
逆らえば何をされるかわからないので、黙って従うことにする。
恭しく従者のように礼をすると、彼女だけでなく周囲の客からも変な目を向けられた。くそっ。
そんなこんなで歩いていたら、何故か山道を歩いていた。
「…この先にいったい何があるんだ??」
「着けばわかるわ。今はとりあえず付いてきなさい」
…とりあえずは黙ってついていくことにする。
すると、しばらく歩いたところで道が開けるのが分かった。
そして、俺の眼前には驚くべきものが現れた。
そう、それは巨大な秘密基地であった。
いや、秘密基地なんかにくくるのが失礼なくらい、広大な建物だった。
なんだろう、急にそんなもの見せるのやめてもらっていいですか?
と、思ったがとりあえず飲み込む。
「で、ここは一体何なんだ…?」
「ここは、”対魔王軍育成施設福岡”よ」
「うっわ、ダッサ…そんなのより、《サンクタム・ミューズ》とかのほうがいいんじゃないか?こっちのほうが幾分ましだと思うんだが。」
「それはそれでどうかと思うんだけど」
…気まず…
「とりあえず中に入りましょ。」
「そうだな」
とりあえず入ることになった。ぱっと見の印象としては中世ヨーロッパの邸宅みたいだった。
「なぁ、なんでこんな山奥にこんな洋風な邸宅があるんだ?ていうかこれ、育成施設じゃないのか?」
「そんな小さなこと気にしない!それよりあんた、名前なんていうの?」
「本当に今更だな…。山吹遥斗だ」
「そう。私の名前は沖田・S・八重。よろしくねあんたもわかってると思うけど私がサティス様が言っていた転生者の仲間よ。一応もう一人仲間がいるからそっちも挨拶させないとね。」
なるほど、彼女がサティスが言っていた仲間か。
ていうか、名前独特だな。サンクチュアリなんて聞いたことないぞ。…ん?
「…」
「…どうして俺を睨んでるんだ」
「今絶対私の名前いじったでしょ」
…なんでわかった?
「そんなことより、あんたに紹介したい奴がいるからこの部屋に入りなさい。」
そこには暗室があった。
「え・・・」
そして俺は中に放り込まれて…バタンッ!!
「閉じ込められちゃったアル(´;ω;`)」
「ハハハッ!君はノリがいいね!」
すると、暗室の中から青年の透き通るような声が聞こえた。
「ファッ!?」
「紹介がまだだったね。僕は上杉白夜。君の紹介はさっきの会話で聞こえていたから構わないよ。」
「それは反応に困る」
「そんなことより電気つけてくれない?」
「え、無理」
「え」
「ていうか俺、ここに来たばかりだからな?」
「あ、そうだった...じゃ僕の能力使うか。」
白夜はそういって指を鳴らした。すると、闇に包まれていた部屋に明かりが戻った。
「いったいこれは?」
「これは光を操る僕の能力さ。この能力を使って部屋を使って明るくしたんだよ。」
なるほど納得した。これは確実にサティスが言っていた仲間だろう。
そしてこの要領で言ったらおそらく八重もそうなのだろう。
「それで?君の能力はいったい何なの?」
「俺の能力は”努メル者”という、限界突破系統の能力だ。けど…」
「けど…?」
「まだ能力が発現している実感がないんだ」
「それは仕方のないことだよ。」
「と、言うと?」
「そもそもの発現時期に個人差があるのさ。八重はすぐ発現したらしいよ。僕はそうはいかなかったけどね。」
「そういうことか。ありがとう、おかげで少し元気がでたよ」
「それは何よりだよ。」
そこで、勢いよく扉が開かれる。
「二人とも挨拶は終わったわね?」
「「終わった」」
「それじゃ、地下行くわよ」
え…?
「……地下ってなんだ?嫌な予感しかしないんだが。」
「入ってからのお楽しみだよ」
「私も初めて入ったときはトラウマになるかと思ったわよ」
なにそれコワイ…けど、俺にもこの状況を打破する方法がアル!!
「ザ・ワ丸ルド‼時よ止まれ‼」
「何言ってんのあんたwwwwww」
「もしかして君、まだ厨二拗らせちゃってる?……?」
めっちゃ死にたい…
「その、ごめん。とりあえず帰りたくて。両親に何も言ってないし、心配させるかもだから……。」
「そういうことなら仕方ないわね」
「そうだね、どうせ明日学校で会えるんだからここで無理に引き留める必要はないかな。」
「そういえば、白夜は何年何組なんだ?いくら探してもいなかったが」
「あぁ、僕は教師アル。知らなかったアル???」
「俺の語尾パクんな」
「冗談だよ。ま、そんなわけだから。会いたくなったら職員室にね。」
「分かった。それじゃ、また明日な。」
そう言い切ると、なぜか俺の意識がプツリと途切れた。