2
2
さっきまで、真っ暗で何も聞こえず感じもしなかったのに、突然強い風が吹き、纏めていた髪がほどけた。
髪が長く量も多いので無理やり纏めて留めていたが、とうとう長年愛用していた髪留めが壊れてしまった。
星が散りばめられたようなデザインで気に入っていたのに
何処かへ飛ばされてしまった。悲しい。
纏めていた髪は直毛なのでほどけても真っ直ぐサラサラ。
仕事終りにもかかわらずシャンプーのいい匂いがするなぁと呑気に思ってしまったのは驚き過ぎて現実逃避という悪い癖が出てしまったから。
けれど、次の瞬間視界が開けて私は頭をフル回転させなければならなくなった。
それと同時に着地した感覚があったのに何故か高いところにいる。
真っ暗から夜の月明かりの明るさになった。
そして、気がついた。
私の周りの空気? がダイヤモンドダストのように細かくキラキラしている。
でも、そんなことに構っていられないこの状況。
「ひぇっ」 記念すべき一言目。
ここどこ!? 周りを見渡すと塔? というかお城!? の屋根が下に見える。
どうやらこのお城のような建物の一番高い三角屋根のてっぺんにつま先立ちしているようだ。
なんで!? まずい! 風が強いしバランスが取れない! 落ちる!!
と思った瞬間私は走り出した。 ダッシュだ。
結局バランスを崩して1歩を踏み出してしまった。
こうなったら走るしかない。
あまりのスピードに足がついていけず転びそうになりながら必死に足を動かした。
どちらにしろ屋根がどこまでも続いているわけはなく終わりが見えてくる。
このスピードでは止まることはできないし屋根の端にしがみつくこともできない。
だから屋根が途切れる瞬間、私は跳んだ。
それはもう走り幅跳びの選手がごとくスピードを利用して踏切ってできるだけ、遠くへ!
気持ちいい!! 空中を3歩くらい歩けた手応えがあった!
なぜそうしたのか、どうしようもない状況の中現実から目を背けつつ足掻いた結果、ただ落ちて行くのが怖かったのだ。
人生で一番の大ジャンプを披露したその後、奇跡なんて起こるはずもなく私は私の周りのキラキラと共に頭から落下していくのだった。
異世界ならそろそろ神様とかお助けキャラが登場してもいいんじゃないかなぁ……とか思いながら。
確実に死んでしまう高さからの落下なのに気絶できるわけでもなかった。
未だにどうにかならないかと考えながら落ちていると、バルコニーが見えてきた。
大怪我はするけど助かるかもしれない。
でも、人生一番の大ジャンプのお陰でぶつかることはなさそう。どちらが良かったのかわからない。
バルコニーに人が出てくるのが見えた。
落ちる私を見てしまうのは相当怖いのでは……
トラウマになってしまうのではないかと、いろいろ考えてしまう。
助けを求めることよりも如何に相手を怖がらせないかを考えてしまう。
自分の状況はさておき、人の事を思いやれる大人なのだ私は。
しかし……これはかなりのホラーだ。
どうしよう、どうしようもないけどどうしよう……
バルコニーにいる人物と目が合った。
瞬間、私は満面の笑みを浮かべて小さく手を振った。
そして落ちていく。
何か……王子っぽかった。
一瞬でもわかるロイヤルなオーラのあるイケメンだった。
驚いた顔をしていたけど大丈夫だったかな…少しでも怖くないようにと思ってとっさに笑って手を振ってみたけどそれはそれで怖かったかも。
しかし王子って。このお城風な建物とかやっぱり異世界なの?それともタイムトリップしてしまって時代が違うの?それなら何故日本では……殿ではないのか……考えている間も落下中である。
とにかく、人生最後に目があったのがあんなイケメンで良かった。
生きているのか死んでいるのかもよくわからないけど、きっと地面に着いたら終わりだろう。
そう覚悟を決めた時また強い風が吹いた。
目をつぶると一瞬の浮遊感の後、地面に座り込んでいた。
恐る恐る目を開けるとさっきまでとは全然違う景色。
転落死は免れたようだけど……森。
お城は?王子は?鞄斜め掛けしておいて良かった。偉いぞ自分!
振り出しに戻るようだが、一旦落ち着こう。
どうやってかわからないけれど森に移動したみたい。
私の周りのキラキラもここにきてから徐々に消えていった。
神様説明プリーズ。神様じゃなくてもいい。
誰かわかる人ぉ――――――――――!!




