逃げ去った外法衆
青白い光が爆ぜる。
芙美子はあまりのまぶしさに目を腕で覆った。
しばらくして光が収まったあと、おそるおそる目を開くと、あれほどいた船幽霊たちは一体もいなくなっていた。
鼻と口から煙を立ち上らせながら、海難法師がゆっくりと沖の方へ去っていく。
「終わったの……でしょうか」
芙美子が首をかしげていると、南が砂を払いながら戻って来た。
「なんとかなったようだ。海難法師を討伐するまではいかなかったが……メリーは捕えた」
見れば、濡れネズミになったメリーがむすっとした顔で槍毛長に引っ張られてきている。
「あ、あの……メリーさん……」
「ふん、これで勝ったと思わないことね!」
「あの、そうではなくて」
「知らないわよ! あたしはなにも知らないし、知ってても教えないわ」
メリーはそう言って、手に持っていた毬を腕に放り投げた。
「新たな魔物を呼ぶ気ですか!?」
芙美子と南はとっさに身構えた。
槍毛長もメリーを放し、芙美子のそばに駆け寄る。
しかし、毬から出てきたのは魔物ではなく、真っ白い煙だった。
その煙はあっという間に海風に流され、霧散してしまうが、その一瞬でメリーの姿は消えていた。
「め、メリーさん!? 一体どこへ……」
芙美子はあわてて周囲を見回すが、それらしい姿はない。
と、不意に後ろから車輪の回る、ガラガラという大きな音がした。
振り向くと、牛車の姿をした魔物が陸側に方向を変え、走り出そうというところだった。
その後ろの御簾ごしにメリーと兎丸、千々古が乗っているのが見える。
「じゃあね、芙美子! いつか必ず、しかえしをしてやるから、楽しみに待っていなさい!」
「また会おう、芙美子嬢。さらば」
『じゃあね! また遊ぶのよー』
三者三様の捨て台詞を残して、魔物は走り出す。
「あっ、待ってください!」
芙美子の呼びかけに答えるわけもなく、メリーたちを乗せた魔物はぐんぐん速度を上げて、闇の中へ走り去ってしまう。
青白い、特殊弾の曳光が二発、三発と魔物を追うが、うまく当たらなかったようで、結局取り逃してしまった。
「ここまでか」
「ええ……。外法衆を捕らえることができればよかったのですが」
「だが、この海水浴場ではもう、海難法師に悩まされることはないのだろう?」
「それは大丈夫だろうと思います。魔物を回収せずに引き上げるということは、メリーさんは海難法師の制御を失ったか手放したと見るべきでしょう」
芙美子は自分の魔物たちを小瓶に戻すと、着替え小屋の影で待っている春美のところへ行った。
春美はふらり火を抱きかかえたまま縮こまっていたが、芙美子の姿を見るなり、立ち上がって駆け寄ってきた。
「芙美子っ! 大丈夫だったの!?」
「ええ、なんとかなりました。おそらく、これで海水浴場に黒波が現れることはないと思います」
春美は大きく息を吐きだした。
「良かったぁー……それなら、明日はゆっくり海水浴ができるのね!」
『こけっこ!』
春美の声に、かかえられたままのふらり火も翼を広げて声を上げる。
「そうですね。メリーさんもなんだか元気そうでしたし……私が気に病むことはなかったのかもしれません」
芙美子は外法衆の逃げ去った方を振り向きながら言った。不思議と、口が笑みの形になっていく。
メリーたちとは、この先も何度も出会って、対立することになるだろう。
それがわかっていても、なぜか心が軽くなるのだった。




