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魔祓令嬢、駆ける ~駆け出しですが、がんばります~  作者: 野崎昭彦
第四夜 魔祓令嬢 対 海兵団の亡霊
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30/30

逃げ去った外法衆

 青白い光が爆ぜる。

 芙美子(ふみこ)はあまりのまぶしさに目を腕で覆った。

 しばらくして光が収まったあと、おそるおそる目を開くと、あれほどいた船幽霊(ふなゆうれい)たちは一体もいなくなっていた。

 鼻と口から煙を立ち上らせながら、海難法師(かいなんほうし)がゆっくりと沖の方へ去っていく。


「終わったの……でしょうか」


 芙美子が首をかしげていると、南(みなみ)が砂を払いながら戻って来た。


「なんとかなったようだ。海難法師を討伐するまではいかなかったが……メリーは捕えた」


 見れば、濡れネズミになったメリーがむすっとした顔で槍毛長(やりけちょう)に引っ張られてきている。


「あ、あの……メリーさん……」

「ふん、これで勝ったと思わないことね!」

「あの、そうではなくて」

「知らないわよ! あたしはなにも知らないし、知ってても教えないわ」


 メリーはそう言って、手に持っていた毬を腕に放り投げた。


「新たな魔物を呼ぶ気ですか!?」


 芙美子と南はとっさに身構えた。

 槍毛長もメリーを放し、芙美子のそばに駆け寄る。

 しかし、毬から出てきたのは魔物ではなく、真っ白い煙だった。

 その煙はあっという間に海風に流され、霧散してしまうが、その一瞬でメリーの姿は消えていた。


「め、メリーさん!? 一体どこへ……」


 芙美子はあわてて周囲を見回すが、それらしい姿はない。

 と、不意に後ろから車輪の回る、ガラガラという大きな音がした。

 振り向くと、牛車の姿をした魔物が陸側に方向を変え、走り出そうというところだった。

 その後ろの御簾ごしにメリーと兎丸(とまる)、千々古(ちぢこ)が乗っているのが見える。


「じゃあね、芙美子! いつか必ず、しかえしをしてやるから、楽しみに待っていなさい!」

「また会おう、芙美子嬢。さらば」

『じゃあね! また遊ぶのよー』


 三者三様の捨て台詞を残して、魔物は走り出す。


「あっ、待ってください!」


 芙美子の呼びかけに答えるわけもなく、メリーたちを乗せた魔物はぐんぐん速度を上げて、闇の中へ走り去ってしまう。

 青白い、特殊弾の曳光(えいこう)が二発、三発と魔物を追うが、うまく当たらなかったようで、結局取り逃してしまった。


「ここまでか」

「ええ……。外法衆(げほうしゅう)を捕らえることができればよかったのですが」

「だが、この海水浴場ではもう、海難法師に悩まされることはないのだろう?」

「それは大丈夫だろうと思います。魔物を回収せずに引き上げるということは、メリーさんは海難法師の制御を失ったか手放したと見るべきでしょう」


 芙美子は自分の魔物たちを小瓶に戻すと、着替え小屋の影で待っている春美(はるみ)のところへ行った。

 春美はふらり火を抱きかかえたまま縮こまっていたが、芙美子の姿を見るなり、立ち上がって駆け寄ってきた。


「芙美子っ! 大丈夫だったの!?」

「ええ、なんとかなりました。おそらく、これで海水浴場に黒波が現れることはないと思います」


 春美は大きく息を吐きだした。


「良かったぁー……それなら、明日はゆっくり海水浴ができるのね!」

『こけっこ!』


 春美の声に、かかえられたままのふらり火も翼を広げて声を上げる。


「そうですね。メリーさんもなんだか元気そうでしたし……私が気に病むことはなかったのかもしれません」


 芙美子は外法衆の逃げ去った方を振り向きながら言った。不思議と、口が笑みの形になっていく。

 メリーたちとは、この先も何度も出会って、対立することになるだろう。

 それがわかっていても、なぜか心が軽くなるのだった。

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