押し寄せる船幽霊
船幽霊たちはゆらゆらとゆらめきながら南の方へと近寄っていく。
しかし、南はその船幽霊たちには目もくれず、両手でしっかりと拳銃を構えて海難法師に狙いを定めている。
一体の船幽霊がその南の肩に手を伸ばしたその時、槍毛長が手にした毛槍を振るい、その船幽霊を突き飛ばした。倒された船幽霊は泡の塊となって崩れ去ってしまうが、すぐに次の船幽霊が南に近づいてくる。
「ほらほら、船幽霊たち、やっておしまいなさい!」
海難法師の頭の上で、メリーが邪悪に笑う。
「メリーさん……」
芙美子は南の傍らから、胸を押さえるようにしながらメリーを見上げた。
空気の爆ぜる音がして、青い光が一筋、海難法師の方へ走っていく。
光が命中した海難法師は鬱陶しいというようにわずかに身をよじるが、効果があったようには見えない。
「御自慢の特殊退魔弾もそんなものなの? 帝国陸軍もたいしたことないのね」
「くっ、これでは無理か……」
南はうらめしげに海難法師の方をにらむと、芙美子に向き直った。
「芙美子くん、作戦は失敗だ。君は逃げろ」
「えっ? でも、少尉……」
「いいから、行くんだ。僕だけならもう少し粘れる。早く」
南は芙美子を逃がそうとしたが、そこにふらりと白い背広姿の伊達男が現れた。
「これはこれは、またお目にかかりましたね」
「あなたは、外法衆の」
「ええ、俺は外法衆の甲斐兎丸と申します。お見知りおきを」
芝居がかった動作で挨拶をした兎丸はそのままふところからカードを取り出した。
「どうやら、海難法師と眷属の対処に手一杯の様子。ここでもう一つ手を加えてやったらどうだ?」
兎丸のカードから瘴気が立ち上り、手毬を抱えた少女の形となる。
「千々古、あの男を狙え」
『わかったのよ』
千々古が手にした毬を南めがけて投げつけた。
芙美子はとっさに南を背中から突き飛ばす。
二人の間を飛びぬけた毬は、地面に当たる寸前で瞬間移動した千々古に拾われる。
「なるほど、千々古か。厄介だが……使えるか?」
南はなにかを思いついたのか、すぐに走り始めた。
つかまえようと手を伸ばしてくる船幽霊を、飛ばされてくる水弾をかわしながら円を描くように千々古の背後へと回り込む。
「なにを考えているかは知らないが……千々古、逃すなよ」
兎丸に命じられた千々古はこくりとうなづいて、南の方に目を向ける。
「南少尉! 槍毛長、行ってください!」
芙美子の声を受けて槍毛長が南のあとを追う。
千々古が投げた毬は、南の背中めがけてまっすぐ飛んでいく。その軌道に槍毛長が強引に割り込んだ。
甲高い音がして、千々古の毬を受けた槍毛長が吹き飛ばされる。
『あら、はずれたのね』
千々古が落ちた毬を拾った時、走っていた南が足を止め、千々古の方に振り向いた。
「さあ、投げるなら投げてみろ。どんなに強く投げても、受け止めてみせよう」
『人間にこの毬が止められるわけがないのよ』
見え透いた徴発だったが、千々古はすっかり乗せられたようで、先ほどよりも明らかに力のこもった投げ方で毬を投げた。
毬は軽く風をまとうように強く回転しながら、南をめがけてまっすぐに飛んでいく。
しかし、その毬が当たる刹那、南はさっと身をかわした。
避けられた毬は、そのままの勢いで真っすぐに飛び、南の後ろにいた海難法師の右目に命中する。
当たるとは思っていなかったのだろう、右目を打たれた海難法師はものすごい絶叫をあげてめちゃくちゃに身をよじった。
その激しい動きは頭の上に乗っていたメリーにも伝わる。体勢を崩したメリーは海面に放り出され、大きな飛沫を立てる。
海難法師が指揮どころではなくなったためだろうか、あれほどいた船幽霊たちは一体、また一体と姿を消していく。
「よし、今だ!」
南は弾を再装填した拳銃をしっかりと構え、怒りの咆哮をあげる海難法師の口を狙った。
五振りの村正から鋳造されたという特製の拳銃から発射された退魔弾は青白い光の尾を引きながら海難法師の口から体内へ入り、そこで爆ぜた。




