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恋人ごっこ~彼女と彼の一ヶ月間の勝負~  作者: 天音 花香


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初めての手作り弁当、刻の反応に涙がでました

「あらあら、どうしたの? 亜貴がキッチンに立つなんて」


「お母さん、おはよう。今日、お弁当自分で作るから。今日だけ、ね」


 亜貴は頬をほんのり赤く染めて言う。


「ふーん。例の彼に作ってあげるの?」


「本当は嫌なんだけど、仕方ないから作るの!」


 亜貴は昨日刻と帰りに書店で購入した料理の本を開いた。


「何を作るの?」


「おにぎりと卵焼きと、肉じゃが」


「彩いろどりが地味ね。せめてレタスをしいて、ミニトマトぐらい入れなさいね」


「なるほど! 分かった!」


 亜貴はおにぎりの具を梅干しとおかかに決めて、にぎる。


「あらあら、にぎる前に手に水につけないから手が米粒だらけになるのよ?」


「先に言ってくれたら良かったのに!」


 不恰好な三角形になったが、自分の分より綺麗なものを選んで海苔を巻いて刻用の弁当箱に入れる。


 卵焼きは少し焼き過ぎて断面が茶色の渦になってしまった。形も綺麗な楕円ではない。味見をするとやや甘めで、少し焦げた味がした。


「うーん。料理って難しいのね」


「普段しないからよ。たまには練習のために作ったら?」


「……」


 肉じゃがが一番苦戦した。じゃがいもの形は崩れるし、中まで味はしみなかったし、美味しそうに見えなかった。


「初めて料理するのに、肉じゃがはハードルが高かったわね」


 奈津がくすくすと笑う。


「でもいいんじゃない? 亜貴が作ったということに意味があるのよ」


 亜貴は学校に行く前からヘトヘトになって、家を出た。そして、毎日弁当を作ってくれる奈津に今更ながら感謝した。




「おはよう、刻。今日、雨降らなかったわね」


 前を歩く刻に亜貴は声をかけた。


「お、なんだ、早いな」


「お弁当作るために早起きしたのよ」


 亜貴はふいとそっぽを向いて言った。その頬が少し赤い。


「ちゃんと作ってきてくれたんだな!」


 刻は声を弾ませた。


「大きな声出さないで。


約束したからには作るわよ。でも、今日だけだからね!」


「はいはい、今日だけでも有難いですよ~!  弁当、今もらっといた方がいいか?」


「そうね。雨は降ってないけれど、これから降ったら困るから……」


 亜貴は刻に弁当の一つを渡した。できれば雨が降って欲しい。自分の作った弁当を自分の前で食べられるなんて恥ずかしすぎる、と亜貴は思っていた。


「確かに頂きました!」


 刻は弁当をちょっと持ち上げ、わざとらしく頭を下げた。


「もう! ほんとにやめてよ! きっとがっかりするんだから」


 亜貴は顔を真っ赤にしてそっぽを向く。そんな亜貴に刻は、


「それはないな」


 と言い切った。亜貴は急に真面目な顔になった刻に戸惑う。


「亜貴が朝から早起きして作ったんだろ? がっかりなんてしないさ」


 不覚にも刻の言葉に胸が熱くなり、亜貴は潤ませた目を空に向ける。


「そ、そう? ならいいんだけど」


 その後二人は無言で校舎にまでの道を歩いて歩いた。


「それじゃ、昼、な」


 校舎に入ると刻が口を開いた。


「雨が降ってきたら教室で食べてね」


「分かった」


 刻は亜貴より一足先に下駄箱で靴を履き替えると階段を上って行った。




 空は昨日とは違ってどんより曇っている。雨が降りそうで降らない。亜貴の願いは叶わなかったようで、結局亜貴は曇り空の下で刻と弁当を食べることになった。


 お揃いの弁当はなんだかそれだけで恥ずかしいと思った。


「いただきます!」


 いつものように声を揃えて言うと、弁当の蓋を刻は幸せそうに開けた。


「お! おにぎりだけじゃねえ!」


「お、おにぎりだけじゃあんまりかなと思って作ってみたの! でも、家庭科以外で初めての料理だから見た目も味もよくないの! 不味かったら残していいからね!」


 亜貴は一気にまくし立てた。その頬がほんのり赤い。


「バーカ! 残すかよ!」


 刻はおにぎりをまず口にして、


「うん、大丈夫、うまいうまい!」


 と言い、さらに卵焼きを食べて、


「甘めだな。俺は好きだな、この味」


 と言い、最後に肉じゃがを食べて、


「薄味だけど美味しいぜ!」


 と言ってまたおにぎりを食べた。


 亜貴は最初恥ずかしくて刻の方を見られなかった。刻の言葉を聞いて今度は別の意味で顔があげられなくなった。自分の下手な手作り弁当を本当に美味しそうに食べた刻。亜貴はいつしか涙を零していた。


 それに気付かずに弁当を食べ終わった刻は、満面の笑みで、


「やっぱり、彼女の手作り弁当っての、美味しいんだな! 俺、今すげえ幸せな気分!」


 と言って、やっと亜貴が泣いているのに気付いた。


「お、おい! なんで泣いてんだよ!」


 弁当箱を置いて、亜貴の肩を刻は揺すった。


「俺、なんか悪いこと言ったっけ?」


 刻は困り果てて、自分のポケットを探るが、ハンカチがないのに気付いてさらに焦った。


「あ、亜貴? 亜貴さーん?」


「刻のバカ! ちっとも美味しくない弁当をそんなに嬉しそうに食べるなんて、本当にバカよ! もう、本当にバカ!」


「だって、本当に美味かったんだぜ? なんでバカバカ言うんだよ~」


 刻は亜貴の前にかがんで亜貴の涙を手で拭った。


「ほら、弁当食わないなら俺が食っちまうぞ?」


「ダメ。こっちは不恰好な方を入れてるから」


「料理は見た目じゃねーぜ? 心がこもってるかだ。亜貴の心、めちゃくちゃ伝わった。おにぎりもらうからな!」


 刻は言うと亜貴のおにぎりを一つパクリと食べて、


「ほら、やっぱり美味い!」


 と笑った。

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