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人形勇者の憂鬱  作者: まる
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ダンジョンと人形

【ダンジョンと人形】


真っ白な空間に、二枚の透明な板が浮かんでいる。


その後ろには何もないのに、まるでリクライニング可能な椅子に、ゆったりと座る姿勢の壮年の世界管理者。


片方の透明な板には、何時ぞやの研究者風の天使が映っている。

もう片方には、自分の管理する世界の色々な場面が映し出されている。


「てな訳なんだよ・・、どうしたら良いと思う?」

「おいおい、それを俺に相談してどうする? どうなる? それを考えるのが世界管理者の務めだろう?」

「勿論そうだけど、実験中だろう? どの程度の影響が懸念されるかと言う面でね」

「・・嫌な事を思い出させないでくれ」


二人は最高議会、何よりも あの方 に目を付けられている。


本来であれば、この上ない名誉なのだが、二人にとっては地獄の方がまだ温い。

まあ二人とも、まだ地獄を知らないが・・


「助言できるとすれば、実験とは分けて考えるべきだろう」

「・・何故だ?」

「世界管理者として当たり前の事をして、勇者の魂たり得るかと言う実験であり、勇者の魂を気にしながら、世界管理者が判断するべき事ではないからな」

「・・そうだったな」


そもそものこの実験は、『勇者共有計画』が中核になっており、何度も異世界を転生を繰り返しても、魂は劣化しないかという研究なのである。


「助言に感謝する」

「感謝は不要だ。最悪・・、自分たちにとっては最良のパターン、勇者の魂の劣化を期待しての事だ」

「・・尚の事、感謝する」


勇者の魂が勇者の魂である限り、この実験は続けられる。

ならばとっとと勇者の魂を劣化してもらえれば、この実験は終了・・のはずである。




通信を切ると、新たに透明な窓を幾つか展開する。


旧王国派の軍幹部の一人が映り、何やら部下に指示を与えているようだ。

他の幹部の動きを見ると、他の場所で、やはり同じように部下に指示を与えている。


部下たちは、一般人に紛れ、複数のルートに分かれて移動を始める。

遠回りをしながら、徐々に徐々に、ある一国、ある町へと向かっている。


軍幹部達は、表立っては軍の訓練を行って、これから戦争するぞをアピールしている。


「やれやれ・・。もしこのまま未来が進むとすると?」


透明な板を操作すると、幾つかの透明な板が展開する。


「この中で一番最悪なのが・・、これか」


魔女の暗殺成功率九十六%・・

管理者の死亡による魔王の暴走率百%・・

魔女の身代わり人形の報復率九十九%・・

人形勇者へのコア移譲一%以下・・

人類の滅亡率九十九%・・


とんでもない数値に、往年の世界管理者は溜息を吐く。

悲惨な未来を確認すると、反対側の透明な板を操作する。


「この町の近く・・、人工生命体を研究している人物・・。うむ、この老人が良い。だとするとこのダンジョンが一番近いし、無害かな?」


直接介入率を上げないように、特定ではなく、周囲に無作為に啓示をばら撒く。


「啓示を受け取った人が、このダンジョンに近づくのがトリガーと。ダンジョンに一度入って、出ると消える仕組みにして・・」


ダンジョンに、何やら仕掛けを施していく。


「これで事前策は良いとして、これでも彼の手に渡らない場合は・・」


直接介入もやむなしかと呟いて、魔女の研究室の未来を見る。

そこには、その部屋には似つかわしくない、黒く塗り潰され、ご丁寧に猛毒の塗られた刃が浮かび上がり、一人の女性の背に真っ直ぐ伸びていく。






五人組のパーティが、野山を掻き分け、木々と同化した、かつては村と思しき場所へと足を踏み入れる。


「調査隊が入ったのに、何でこんな草だらけなの先生?」

「フホォ? それはじゃなあ、だーいぶ昔の話ですからじゃ」

「調査隊は何度そのダンジョンへ行ったのですか?」

「うむ、一度っきりですじゃ」


先生と呼ばれた老人の言葉に、アンファとエンデが顔を見合わせる。

師匠の話では、調査は一度では完了しないはずだからだ。


「ここがその目的地?」

「個々は村人の居住区、もう少し先にダンジョンがあるんですじゃ」


先生は額から頭頂部まで見事に禿げ上がった、白髪白髭のかなりのご老体。


「遺跡系のダンジョンは、村から少し離れた場所に多いと聞きます」

「ホォ! 妹嬢ちゃんは詳しいですのぉ」


生徒よりは、まるで孫達と接するかのような先生は、ご満悦である。


「でも何でだろう?」

「通説では、人々の住む俗世と、神や精霊の住まいし地を分ける事で、より神聖さを増すためと考えられておるですなぁ」


その考え方は良く分かる。

自分達とは違う特別な存在ゆえに、自分達の祈りを聞き願いをかなえてくれると人は思うのだ。

この行動は複合型祈祷事象干渉システムに、より効果的に働きかけたのだろう。




前回の調査隊が作った道の痕跡を辿りながら、目的の場所へと向かう。

少し進むと、森を抜け、ポッカリと開けた場所に出る。


「何でここだけ草木が殆どないの?」

「うむー、逆ですじゃのぉ」

「逆ですか?」

「他とは違う場所ですから、土地神を祭る場所に選んだというべきですか」


人が作り神や精霊に捧げた場所と言う特別さもあれば、その場所自体が特別なので神や精霊が宿り、住んでいると考える事もある。


前者は町や大きな村の祭壇や神殿、後者は正に神や精霊の生まれた場所となる。


「ここに間違いないのよね?」

「うむ、間違いないですのぉ」


アンファがわざわざ確認したのは、本当に何も目立ったものがないからだ。

掘り返したような跡があるが、たぶん前の調査隊によるものだろう。


「うーん、お宝何もなさそう・・」

「お姉ちゃん・・、そんな事言わないの」

「フォフォフォ」


アンファを諌めるエンデも、少々ガッカリしている様子ではある。


反対に先生は、興奮してあっちこっちを走り回りながら、前回の調査隊に憤慨している。


「調査隊にも二種類あってですのぉ。片や遺跡そのものに価値を見出し、片や財宝的価値を見出すんですのぉ」

「「ぎっくーん」」


先生の指摘に、二人は明後日の方向を向いて誤魔化そうとしている。


「前回の調査隊は後者だったのですじゃな。これだけの遺跡の価値を見過ごすとはですのぉ・・」

「何か特別な事があったのですか?」

「ほれ、見てみぃです」


皆の視線が、先生の指差した物に集まる。


「ただの石ころ・・よね?」

「でも、何か書いてあるような?」

「見た事のない文字じゃから、儀式文字か・・、古代文字か? この周りの石と関連があるのか? 今となっては分からんですじゃろ」

「確かに・・」

「そうですね・・」


壊される前であれば、より詳細に情報が集められ、過去の伝承や神話と照らし合わせながら色々な事が分かってきたはずだろう。


それでも先生は必至に、今ある文字や位置を書き記していく。


「しかし耳が痛いわね」

「私達が遺跡の価値を壊している可能性があるだなんて」

「先生が言っていたように、調査隊にもよるからな」


自分たちは間違いなく、お宝に期待していた。先生は歴史的価値を求めていた。


僕達はそんな先生の後姿を見つめながら、発端となった依頼の話しをする。






師匠から説明を受けた直後と言う事もあり、アンファとエンデは、僕が見つけた依頼に一も二もなく飛びついてしまった。


二人にリーダーを任せた以上、依頼に関して師匠は、よほどの物で無い限りは、あまり口出しをするつもりはないようだ。


依頼主に会うと、二人は元より、師匠でさえ唖然とするものだった。


指定された町へ向かい、家を確認し扉をノックすると、一人の老人が姿を見せる。


「冒険者ギルドから依頼を受けたものですが」

「ダンジョンの調査に関する依頼です」


挨拶する二人を無視して、老人は驚いた表情で、僕を上から下まで嘗め回すように見る。


「お主・・、人工生命体ですか?」


あまりの突然の質問に、一応マスターズの了承を得るために視線を巡らせる。

三人がアイコンタクトの後、頷いたのを確認して返事をする。


「そうですが、それが何か?」

「ホォ! まともに喋ですわい。これは天啓ですか! うむうむ、入ってくれです!」


扉の先には、部屋と言うよりも、研究施設のように、至る所に置かれていたのはダンジョンに関するものではなく、人工生命体のパーツだった。


「「ええっー!?」」


訳が分からないと二人が驚きの声をあげ、師匠も目を見開いている。


「えーっと、あなたはどのような研究をされているのですか?」

「あん? 見ての通り人工生命体ですよ?」


何とか声を絞り出したエンデに、何故そんな事を聞くと言わんばかりに答える。


「あのー、私達、ダンジョンの調査の依頼で来たんですけど?」

「分かっておるですよ? そう依頼したんですから」


アンファの素朴な疑問にも、何故当たり前の事聞くのかと答えてくる。


「人工生命体を研究される方が、何故ダンジョンに?」


エンデが意を決して、スパッと聞いてみる。


「インスピレーション、と言うのは分かるですかのぉ?」

「えっ!? ええ、分かります」

「正直、人工生命体の研究が、最近マンネリしておったです。何か別の方法や角度からのアプローチを考えた末に、古代のダンジョンはどうじゃろか、と思いついたんですよ」

「な、なる程・・」


言わんとする事は分かる。しかし全くの畑違いで得るものがあるかは甚だ疑問だが。


「しかもこのような出会いを引き起こしてくれたですしのぉ」


僕の肩をバンバンと叩く老人の言葉である。

確かにこの驚くべき出会いに頷くしかない。


三人は旧王城のダンジョンで、僕のコアを発見したは良いが、研究者を見つけるのが難しいとコアを売れず、僕を動かす切欠となった。


その研究者が目の前にいる。


「ダンジョンに向かう前に、ちーっとお前さんの体を調べさせて欲しいですが?」

「条件があります」

「何ですかな」


老人の申し出に、エンデが師匠とアンファがに合図を送り、了承を得る。


「実はこの人工生命体、ヘルトと言いますが、コアを作っていただけませんか?」

「コア・・ですと? 何を言っておるです。コアの取り出しは不可能ですよ?」


アンファとエンデは、僕を得るまでの経緯を話して聞かせる。

そして、今現在もコアを付け替えて行動している事も。


「何と! コアを外部に付け、取り外し交換可能としてあるですと!? しかも元はフランケンシュタイン型? そんな馬鹿なです!? そんな跡は何処にも・・」


後は老人の独壇場、ひたすら質問しまくり、僕の体を調べまくり、情報を書き留める。

それが終わるまでは、依頼の話しは一切出来なかった。


「お主を作ったのはよほどの天才ですか? どうやって作り出したかご教授願いたいですわい。このヘルト、譲って欲しいです・・が、無理は言うまいですな」


アンファとエンデが、僕の両手を取って首を振る姿に諦める。


「コアをどうこう出来るか分からんですが、もう少し調べさせてくれんですか? 先に依頼をこなしてからで構わんですから」


そう言ってやっと依頼の話しを詰める事になったのである。






アンファとエンデが旧王城で経験してきたダンジョン探索と、今回のダンジョン探索の大きな違いを話し合っている。


「ダンジョン探索にも、かなりの違いがあるんだね・・」

「遺跡そのものの価値と、財宝的価値の違いって行ってたね、先生は」

「うーん、遺跡そのものの価値なんかさっぱりよ」


アンファに限らず、冒険者が求めるのは、罠を見破り、溢れる財宝を見つけ出す事だ。


しかし先生は、遺跡の周りの雑草を毟り、ハケで積み重なった砂埃を掻き分け、限りなく元の遺跡に戻そうとしている。


「本来はこのような仕事は、一緒の研究助手の役割で、冒険者は罠の対応や護衛役に回るもんだが、人手不足この上ない状況では、こういった手伝いもするぞ?」


ダンジョン探索と言っても、目的や方法、人手によって千差万別である。


報酬や依頼の内容で折り合いがつかないようであれば、断ることも出来るのだが、僕のコアの研究をお願いする事もあって、無碍には出来なかった。


さほど広くないダンジョンとは言え、丁寧に掃除をするには丸一日かかった。


今回の調査で少々粗野なアンファが、意外にも鼻歌を歌いながら地道な調査をする。

逆に普段冷静なエンデが、時折溜息を吐きつつ、森に怒りをぶつけに行く。


「二人の力の抜き方の違いだろう。これだけでも良い収穫だったな」


師匠は二人の姿を感心しながら、したり顔で頷いていた。




今回のダンジョン探索で掛かった日数は四日。


着いた初日は現状を確認する意味も含めて、遺跡に全く手をつけず情報収集。

二日目に掃除を行ったのだが、日も落ち始め、見落としがあるかもと調査を中止。

三日目に本格的調査となり、四日目に先生の住む町へと戻ってくる。


「やっと帰ってきたぁー」

「ふぉっふぉっふぉっ、皆ご苦労じゃったですな」

「こちらにサインをお願いします」

「うむです」


エンデは先生に依頼書を渡し、依頼完了の証明をもらう。


「ヘルトからも、ダンジョンからも、インスピレーションを受けたから研究も進むですわい」

「出来れば、ヘルトのコアの作成もお願いします」

「分かっておる分かっておるです。気長に待っておれですのぉ」

「「はーい・・」」


今まで長年携わってきた分野に、新しい知識や発想が得られたからと言って、早々飛躍的な進歩は期待できないし、それこそ今日明日では無理だろう。


ここは先生に託して、連絡を待つか、時々進捗を確かめに来るしかない。


「しかし本当に摩訶不思議な縁じゃったですのぉ」

「縁って?」

「お主たちに初めて会って言ったですじゃろう、天啓と?」

「はい、覚えています」


感慨深そうに言う先生に、二人は頷いている。


「人工生命体の研究者が、急に思いつきでダンジョンに興味を持つですか? あなた方も疑問に思った通り、普通ならあり得んですな」

「うん、そう思う」

「依頼を出せば、未知の人工生命体と出会う。こんな事がある得るのですか?」

「確かにそうですね」

「全くのど素人がダンジョンに、遺跡に価値を見出せるものですか?」

「ふむ、それで天啓と言われたのか」


偶然・・、確かにその一言で片付けるには無理があるように思われる。


この場の五人はこの時点では知りえない事があった。


次に誰かがあのダンジョンに行っても、二度と文字がきれいに消されている事に。




僕たち四人を送り出した後、ダンジョンで入手した文字の配列を一人先生が見続ける。


「本当に不思議な文字と配列じゃて・・。見れば見るほど、頭の奥底から何かが湧き出しそうになるですわい」


人間の目と脳は、思っている以上に高性能である。

ホンの一瞬の映像から、違和感を感じ取れる。


上下左右に斜めなど、色々な角度から眺めている内に、スルッと手から紙が抜け落ちる。


「おっと、いかんいか・・」


先生の動きが止まる。

抜け落ちた紙がクルッと一回転をしたのである。


「何じゃ今のは・・、まるで魔方陣のようだったですが?」


紙の中心点を変えながら、くるくると回していく。

瞬きを繰り返し、一瞬の映像を作り出しては、書き留めていく。


「な、何じゃこの魔方陣は・・」


出来上がった図は間違いなく魔方陣。見たことも聞いた事もない物。


丹念に調べて、魔法陣を解きながら、間違いを修正していく。

修正箇所でさえ、知識と言うよりは閃きに近い感じだった。


「・・正しく天啓ですかのぉ。ワシの残りの人生を、これを作るために使えと言う神の思し召しですのぉ」


彼は自分の頭に浮かび、こびり付いて離れない画像・・、一つの答えに辿り着く。

この魔方陣は、人工生命体用のコアを作り出すものである事に。





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