ランクアップと人形
【ランクアップと人形】
依頼の三日間、四人は村の周辺で害獣を狩りに狩りまくる。
「昨日話した通り、オレとアンファ、エンデの三人と、ヘルトの二チームに分かれる」
「「はい」」
「ヘルトは夜間の実績があるとは言え、初めての場所だから無理はしなくて良い」
「分かりました」
そう言うのは、三人が休んでいる間に、既に僕が夜間の間にかなりの数を狩っていて、村人達を驚かせているからだ。
村長を除く村の人たちからの情報収集の際、事前に害獣の解体などの処理と肉や毛皮を渡す代わりに、食事を提供してもらう事で話がついている。
途中で村長が、それは自分のものだと言い出してきた。
素材収集の依頼ではなく討伐の依頼の場合は、素材は冒険者持ちであり、契約に素材を渡す事は含まれていないないと突っぱね、お帰りいただいている。
ある程度の数、持ちきれなくなるちょっと前に村へ戻り、村人達に渡す事にする。
村人達の取り分が多いと恐縮していたが、自分達には捨てるしかないと言って納得してもらった。
「アンファとエンデは、オレの左右で展開し、それぞれ狩るように」
「「はい」」
師匠たちの班も、師匠と連携は取りながらも、アンファとエンデは別々に動く。
ひたすら効率的に狩りを行うために、今回はこのフォーメーションで行動する。
そして約束の三日間が過ぎると、苦々しげな村長から報酬を受け取る。
逆に村人達は、滅多に手に入らない肉が食べられた上に、干し肉と言う保存食まで手に入れられた機会にホクホクであったのが対照的だ。
依頼を終え、村を後にしながら、師匠は二人に話しかける。
「まあ以上が、あこぎな村長との渡り合い方だな。毅然とした態度、自分達の命が一番であり、手ぶらも辞さないと言う心構えだ」
「あんな事やりたくないわ・・」
「単に討伐の方が楽です・・」
「好き好んでやる必要はないし、あんなのに捕まった時の経験と思えば良い」
「「はーい」」
冒険者ギルドも、要注意の村は事前に教えてくれるし、相談にも乗ってくれる。
「今回は村長だけだったが、村全体でああ言うのもある。きちんと話し合って、依頼料を払ってくれる村もある」
「やっぱり面倒臭い」
「本当です・・」
安心確実な依頼をきちんと見つけようと、二人は決意を新たにしている。
「勘違いするなよ? ギルドが保証する村だからと言って、交渉が不要な訳じゃない。村長や村の人たちと良好な関係は必須だぞ」
「そうね、あったかいご飯はありがたかったぁー」
「干し肉分けてもらいました」
良好な関係を築ければ、お互い色々な恩恵を得る事ができる。
冒険者にとっては、あたたかい食事や、きれいな寝床や風呂だったりする。
村の人たちにとっては、滅多に口に出来ない食材や、ちょっとした労働サービスだ。
「そんな中、定住してしっかり腰を据える元冒険者になる事もある」
師匠は交渉一つから、冒険者は多くの未来の選択肢を得られると言って締めくくる。
それから僕達は拠点の町を中心に依頼をこなす。
アンファとエンデは、ランクDへの昇格試験を受けるための資格が得られた。
ちなみに僕は、師匠がランクアップの手続きをすっかり忘れていたため、ずっとランクFのままだった。
「「師匠・・」」
「すまんすまん。まあオレが指導役と言う事で、無試験でランクEになれるんだから勘弁してくれ」
僕のランクEの手続きと合わせて、二人の少女のランクアップ試験の手続きをする。
「うぅー、緊張する・・」
「お姉ちゃん、どうしよう・・、落ちるかも」
「嫌な事言わないでよ・・」
ランクDの試験は、複数の試験官により、複数の種類の試験を受ける。
内容は試験官に一任されており、実技や依頼、面接など色々ある。
試験官の準備が出来次第、随時試験をこなしていく事になる。
三人は師匠のランクアップを受付嬢に申し出るが、試験資格が得られていなかった。
「ごめんなさい、師匠。私達に合わせていたから、試験資格がまだ・・」
「最低でもランクDで行える、採取、討伐、ダンジョン探索、調査、護衛と言った依頼を一通りこなす必要があるからな」
「じゃあじゃあ、私達がランクDに合格したら一緒にやれるね」
「そうだね、お姉ちゃん!」
二人の少女の盛り上がりに、師匠は苦笑いを浮かべるしかなかった。
そして二人の試験は、珍しい事に全ての試験官が実技となる。
「・・な、何で全ての試験官が実技なの?」
「お姉ちゃん、ちゃんと説明受けたでしょう?」
「オレの存在が裏目に出たか・・」
指導者がいるパーティは、安定性があり、依頼の達成率も高く、生存率も高い。
その反面、ランクアップに関して、養殖と言う考え方が根強い。
養殖とは、指導者、高ランカーが、代わりに依頼をやってしまうと言うものだ。
試験内容によっては、依頼を代わりに済ませたり、面接も事前練習ができてしまう。
試験中に監視のため人手を割くというのは、時間も人材もお金も無駄となる。
そのためギルドとしては公平を期すため、依頼と言う試験内容は取れなかったと言う。
「さあ、お前達の全力で掛かって来い」
「「はい」」
試験官の言葉に、アンファとエンデが、一人ずつ仕掛けていく。
「師匠、大丈夫でしょうか?」
「二人か? 問題ないだろう。ランクDの試験は、最低ランクEの実力がある事が証明できれば良いんだから」
「そうなるとランクDとランクCの差が大きすぎると思われるのですが?」
「ランクDから、受けられる依頼の幅がグーッと広がるからなぁ」
ランクDまでが上がり易く、ランクDから上がり難い仕組みとなっている。
依頼の種類が増える事もさることながら、危険度も大幅にアップするので試験も厳しい。
師匠曰く、ランクCから一流の冒険者と認められる理由でもあるらしい。
二人は何人かの試験官の実技試験を経て、見事にランクDに昇格した。
色々な人工生命体のパーツが、所狭しと並べられた部屋にノックの音が響く。
「入りなさい」
「失礼いたします」
「何か分かった?」
「はい」
虹色に輝くコアを持った、自分そっくりの人形が、手にしていた資料を差し出す。
「最近、この町に拠点を移した四人組のパーティのようです」
「そう」
「少女二人がつい先日ランクDとなり、人形の方がその少し前にランクEとなりました」
「どうやって手に入れたのかしら?」
「ランクの事でしょうか?」
「ああ、ごめんごめん。独り言独り言、気にしないで」
「差し出がましい事を」
資料に目を通しながら、つい先日、本当に偶然からありえないものを見つけてしまった。
自分が生み出した魔王の目に映るものは、自分も見る事ができる。
しかし何十体と言う魔王を作り出し、それが目にする詳細を見て回るのは不可能だ。
パッパッパッと人々の営みを眺めている時、自分が創り出した人形を見つけた。
見間違えるはずがないのに、わが目を疑った。
確かにあの時人格を壊したのに、何故動いている!?
コアに関しては、隠しておいた物を偶然見つけたのだろう。
壁を崩せば、簡単に見つかるものだし。
では何故、人格を破壊された人形が動く?
考えられる事は、あの三人の内誰か、もしくは全員が人工生命体の研究をしている。
それは先ほどの報告から、単なる冒険者であると否定された。
三人の他の人間の手によって動くようにされたのか?
「この四人組をお招きして」
「畏まりました」
人形にそう命じると、退出するように促す。
静かに扉が閉められた後も、暫く目を瞑って物思いに耽る。
「あなたに会えるのが本当に楽しみ。あなたは何者になったのかしら、プッペ?」
魔女ヘクセは、どこかの魔王を通じて見える四人組みに向かって呟く。
折角合格したのだからと、宿屋の食堂ではなく、ちょっと豪勢な食事をと外食をする。
ある程度宴が進むと、師匠が話しを切り出してくる。
「さて、お前達もランクDになった事だし・・」
「師匠の下を卒業と言う話しはなしよ?」
「そうです。少なくともランクCになるまでは」
その件は分かっていると、苦笑いする。
「とは言え、半分は当たっている」
「半分?」
「どう言う事ですか?」
「三人はランク的に対等になった。俺の指導的立場は終わったと言っても良い」
「「それで?」」
二人が少し警戒しながら聞き返す。
「お前達がリーダーをやれ。俺は何も言わん。自分達で何をすべきか考え、計画し、そして失敗や苦い経験から学べる事がある」
「例えばどんな事をしたら良いの?」
「それを自分達で考えるんだ。今までのように、オレにお伺いを立てるのではなく」
「私達の計画を師匠は認めてくれますか?」
「オレだけじゃない。パーティのメンバーを納得させる根拠を示せ」
いきなり自分達へのハードルが上がった事に、二人は困惑気味である。
「まあ、いきなりは無理だろうから、ヒントをやろう」
「「是非!」」
ものすごい喰い付きに、師匠も若干引き気味である。
「先ずこのパーティの目的を決めろ。例えば世界最強のパーティにするとか」
「ふむふむ」
「最強ならば、ランクSは最低ラインになる。SになるにはAがあり、B、Cを目指す」
「そうですね」
「世界最強なら、世界中を旅して、その力を示す必要があるかもしれない」
師匠が言うには、自称で世界最強はありえないだろう?と言う言葉に頷く二人。
「他にもまったりゆっくりとした冒険生活というのもあるだろう」
「いいの? それを選んでも!?」
「ちゃんと根拠を示せばな」
「ここに繋がる訳ですね」
「それは自分達にあった定住地を見つけるための旅があり、その定住地で必要とされるランクがあるだろう?」
いくら自分達が良くても、住人達が求める冒険者像があるはずだ。
「何よりも、お前達の目標だぞ?」
「どう言う事?」
「世話になったオレに恩返し? 俺が死んだらどうするんだ。 ヘルトのコア探し? 見つかった後はどうする?」
「それは・・」
「誰かじゃない、自分達のための目標を探すんだ」
目標に誰かのためには尊い考え方ではあるが、最後の最後は自分達がどうなりたいか、どうあるべきかにならなくてはならないと説く。
「そして目標とは別になるが、リーダーとしての態度が求められる」
「あの村での、村長とのやり取りみたいに?」
「そうだ。割と良い手本になっただろう?」
「あの時のような毅然とした態度を保つのですね」
「その通りだ」
君達? 威嚇をしたり、常に気を張っている事はないと思うよ?
師匠もピリピリ二人の姿に眉をひそめて、肩の力を抜くように言う。
「いきなりは難しいだろうから、フォローはする。先ずは常にその心構えは持っているように意識すればいいからな」
「「はい」」
「女子供と言う事で、リーダーに限らず、セクハラ紛いな事もあるからな」
「「はーい」」
どこかで見た事があるのだろうか、二人は忌々しそうな表情を作る。
「ヘルト」
「はい」
「こちらの態度に逆上する輩がいるが、その対応はオレたちの役目になる」
「分かりました」
仲間を馬鹿にされた上に逆上する馬鹿は、力ずくで排除させてもらおう。
師匠と話しの最中も、二人は自分達の、パーティの目的の事でウンウン唸っていた。
「目的ねぇ・・」
「目標ですよね・・」
今までの生活が、師匠に頼りっきりの生活だった二人にとって、すぐに目標を決めるのはは難しいようだ。
「ゆっくり悩んで決めると良い」
そんな二人を見て、追々なという事で話しを締めくくり、皆で宴を楽しむ事にする。
目的や目標がないからと言って、パーティとして活動できない訳ではない。
翌日から、個々の目標や、パーティの目的は二人の宿題として、目下は皆のランクCと、僕のランクDへの昇格を目指す。
「前にも少し話したが、ランクCの昇格試験の資格を得るためには、最低でもランクDで受けられるようになる依頼は一通り受けて、達成しておく必要がある」
「一回受けておけば良いの?」
「そんな事はない。ただ依頼の種類によっては、中々発生しない依頼もあるだろうから、その辺は考慮されるぐらいだ」
「なる程です」
例えば旧王都なんかでは、他の地域と断絶されており、護衛の依頼は数が多かった。
これは自分たちの身は自分たちで守る必要性からだ。
逆に魔女国内では流通は活発な上、魔王という存在が大きく、野盗や強盗の数は少なく、護衛の依頼は少ない。
こういう依頼必要性の差が、考慮の対象となるのだろう。
「ランクDから受けられる依頼は、調査、護衛、ダンジョン探索がある。また討伐依頼も変わってくる」
「討伐依頼が変わるって?」
「ランクEまでの討伐依頼は、常時依頼の弱い害獣が対象だったが、ランクDからは、通常依頼が多い、つまり大型や肉食、素材採取を目的とした討伐になる」
「危険度が大きく変わりますね」
高ランカーが高収入なのは、危険度の高さにも比例している。
「どの依頼からこなした方が良いですか?」
「消去法になるが、調査は避けるべきだ」
「何で?」
「村人だって良く見かける害獣は分かっている。未知の害獣と言う事だ」
「「それは・・」」
「その準備として、先の通常依頼をこなしていくんだ」
調査の危険性と、通常依頼をこなす事の関係を説明してくれる。
「通常依頼で大型や肉食の対処法を研究し、技術や知識を蓄積していく。その経験則と照らし合わせて、襲い方や喰い方、歯形に爪の跡、分泌物、足跡、臭い、鳴き方、テリトリーの広さなど調査依頼へと生かして予想を立てながら進めていくんだ」
「「なる程!」」
ランクDの依頼であっても、調査はかなりの経験を求められる依頼となる。
「護衛だが、襲ってくるのはモンスターばかりじゃない」
「へっ!? 他には何があるの?」
「野盗や冒険者崩れ・・、つまり人間だ」
「人間と戦う、人を殺せるかと言う事ですね?」
「覚悟が決まるまでは、避けた方が良い」
覚悟が出来ているつもりでも、いざその場になると躊躇う者も少なくない。
その場で殺す事ができたとしても、心に大きなしこりとして残る事もある。
後にそれが足枷となり、咄嗟に体が動かなくなるのだ。
「「分かりました」」
こればかりは言ってどうなるものでもないし、人切りの練習をする訳にもいかない。
「となると、通常依頼かダンジョン探索かぁ・・」
「どちらかならば、迷わずダンジョン探索を選ぶべきだ」
「どうしてですか?」
「ダンジョン探索には、三つのタイプがあるのを知っているか?」
「「いいえ」」
ダンジョンと言っても、摩訶不思議な力で作られたものではなく、その昔、具現した神や精霊を祭った遺跡を指す。
「新規ダンジョンを見つける、調査の終わったダンジョンを再探索する、調査中のダンジョン調査隊に参加するの三つだ」
「へぇー」
「新規ダンジョンは、見つかればデカイが、殆ど運任せだな」
「研究者でさえ、一生の内に見つかるかどうかと聞きます」
ダンジョンは初代勇者の時代の産物で、大体村の近くに遺跡が作られるから、既に多くの遺跡が明らかにされてしまっている。
では全部見つかったのかと言えば、そうとも言い切れず、捜し求める人は後を絶たない。
「調査の終わったダンジョンだが、時間をかけて情報を集めたり、準備をすれば良い」
「ふむふむ」
「では調査中のダンジョン調査隊と言うのは?」
「ダンジョンって言うのは、一回の調査で完結する事はあり得ない。資金や食料、資材が尽きたら戻って再度準備して調査って言うのを繰り返すんだ」
大当たりのダンジョンに当たれば、調査隊の規模もどんどん大きくなり、期間もどんどん伸びる。
盗掘やモンスターから調査隊を守る護衛の仕事も増えてくるのだ。
「それでダンジョンの探索の依頼を受けるべきなんですね」
「その通りだ。依頼の数そのものが少ない事もあるし、殆どの準備は向こうが用意してくれるからな。リスクの大きさは、調査隊メンバーにも左右されるが」
あまりにも野外を舐めて、危機管理のできない調査隊も少ないくないと言う。
そんな話の中、何気なくランクDの依頼ボードを見る。
「マスターズ」
「どうしたヘルト?」
「ここに、それらしき依頼があります」
「「「・・・何ぃ!?」」」
僕が指で指し示した先には、調査隊募集の依頼が貼り付けられていた。




