戦争と人形
【戦争と人形】
僕たちが、四人がかりでえっちらおっちらキリングシープを、何とか町まで運ぶ。
はぐれの害獣は、時折現れ討伐されるので、町の人たちからは特に何もない。
しかしギルドに着いてからは、大騒ぎとなる。
師匠がランクD、姉妹が共にランクE、僕がランクFである。
何の準備もなく、このパーティ構成で上位種のはぐれに出会って無傷はありえない。
本来なら抱えてくるのは獲物ではなく、傷ついた仲間のはずと思われたからだ。
それでもここまでは、ギルドでも稀にある事なので特に問題はなかった。
ヒュージラットとジャイアントラビットの討伐数・・こちらは大問題であった。
町にも現れている傷ついたヒュージラットから、某かのコミュニティの存在は危惧されていた。
ここへ来て二種類目の害獣の目撃諜報に加え、大量討伐と言う実績である。
すぐに調査隊が組織され、同時に討伐隊の募集が行われる。
その間僕たちと言えば、ギルドマスターから、より詳細な聞き取り調査を受けていた。
「先ず森の中に入って、その人形より、害獣に囲まれている事が報告されたと」
「そうだ」
二人の少女は、僕を人形と呼ぶ事に抵抗したが、師匠は記録の性質上必要と判断して、そのまま聞き取りを続行させている。
「その人形の能力は確かか?」
「討伐数が物語っている。すべて人形の案内による物だ」
「なる程な」
師匠の言葉を信じるかどうかは分からないが、結果は目の前にある。
「行けども行けども減らない害獣の中に、二種類目が確認されたと」
「その通りだ」
「コミュニティの調査中に、キリングシープのはぐれに出会い、人形が単身で撃退の上撤退した、で間違いないか?」
「うむ、間違いない」
ギルドマスターの傍らで記録していた職員に視線を送る。
職員も聞く事はないと言わんばかりに首を振る。
「そうか、無事で何よりだった。報酬も用意してある、ゆっくり休んでくれ。出来れば討伐隊への参加も検討して欲しい」
「ああ」
曖昧な返事から師匠としては、妹夫婦の遺児を危険に晒すつもりはないようだ。
ギルドマスターの執務室から退席し、報酬を受け取ると、一旦宿屋の部屋へと戻る。
「ヘルト」
「はい」
ドガッ!
師匠は振り向きざま、僕の頬を殴りつける。
「なっ!? 師匠!」
「ちょっと止めて下さい!? 師匠!」
二人の少女が、師匠の腕を押さえるが、一発以上殴るつもりはないようだ。
「ヘルト、何故勝手な行動をした!」
「師匠! ヘルトは私達の事を思って・・」
「そうです、そうです!」
「三人共・・正座!」
ふぅーっと、息を吐き出すと、僕達に正座をさせて、師匠はお説教を始める。
「良いか? 危機的状況に一人先走れば、パーティ全体の危機に直結する」
「待って、師匠!」
「ヘルトの方法が最善だった・・」
「それは結果論だ!」
厳しく二人を戒めると、小さくなる。
「確かにヘルトの行動は最善で、最良だったかもしれん。自らを犠牲にして、オレたちの逃げる時間を作ってくれようとしてくれたのは感謝している」
「「だったら・・」」
「その後の最悪の責任を誰が取るんだ?」
「・・えっ!?」
「・・あっ!?」
二人は師匠が何を怒っているのか分かる。
「万が一アンファかエンデが犠牲になってヘルトを許せるか? ヘルトだけが犠牲になって、お前達は自分を許せるのか?」
「「師匠・・」」
「ヘルトをオレが行かせたなら、オレだけが恨まれれば良い。オレの判断ミスで、どちらかを失ったとしても、オレだけを恨めば良い」
「勝手な行動をして申し訳ありません」
師匠の二人を愛する思いに、自然と謝罪の言葉が出てくる。
「三人にはっきり言っておく。オレの指導下である限り俺の指示に従え」
「「「はい」」」
「もう一度だけ言っておく・・。ヘルト、感謝している。そしてお前達と、万が一の行動を決めてい無かった事を詫びよう」
三人の前で、師匠は深々と頭を下げた。
かなりの額の報酬と、キリングシープの素材の販売で、パーティの懐は暖かい。
僕の部屋を確保しようとしてくれたが、調べる事があるとギルドの資料室に行く事にした。
「(はぁー、僕は浅はかだなぁ・・)」
自己犠牲の精神は尊い、しかし残された者達は、それに希望を見出せるだろうか。
「(冒険者は、自分の行動に責任を持たなくちゃいけない)」
無責任な冒険者も多い中、自分の取った行動が後々どうなるかを師匠は考えている。
「(誰が責任を取る? 重い言葉ですよ、師匠・・)」
前の世界で助けたサラリーマンの家族・・。
前の世界に居たはずの両親・・。
この思いに縛られる危険性・・、生前の世界の事に係らせないと言う、世界管理者の措置が妥当だと思われてくる。
そんな事をボーっと考えていると、夜なのに部屋の外が騒がしくなる。
「(ん? 何だ?)」
思わず聴覚の能力を高めて、聞き耳を立ててしまう。
「旧王国派が、兵を集めている。ギルドに依頼をかけてきた・・」
「魔女に、・・魔王に勝てるのか?」
「独立国と連合? 独立を承認を餌に・・」
非常にキナ臭い話しが聞こえてしまう。
「(おいおい仮初とは言え、平和なのに戦争か? これは三人に相談すべきか?)」
やがて今のコアの限定の聴力向上では、話し声が聞こえなくなる。
翌朝いつものように、四人揃って朝や食事の感謝の祈りを魔王へ捧げる。
今回の騒ぎでチラッと話題に上ったのが、アンファとエンデのランクアップの話だ。
「そろそろ、お前達もオレから卒業かぁー」
感慨深く師匠が呟くと、二人は手と首を横に振って答える。
「無理無理、師匠」
「そうですよ」
「何でだ?」
「正直今回の一件は、ヘルト一人の活躍じゃないですか」
「本当本当、ただ見てただけだし。正確には動きが分からず固まってただけー」
「まあ、そうなんだがな」
キリングシープに関しては、ギルドマスターには、僕一人でと報告されているが、ギルドの中ではパーティで倒したとなっている。
ギルドマスターからストップは掛かると思うが、周りからはランクアップの声が上がるのは仕方がないことだろう。
「師匠こそ、ランクCの試験受けないの?」
「そうですよ」
「うーむ、オレは何度も落ちているからなぁ」
師匠曰く、若い頃は何度も受けたのだが、その都度落ちており、自分には才能がないと見切りをつけて、小さな依頼で細々と暮らそうと思っていた所へ、二人を預かったと言う。
「ランクアップの試験は、厳しいのですか?」
三人の会話の中に入って、質問してみる。
「前にも少し話ましたが、ランクGからFは依頼をこなせば上がります」
「ランクFからEは、戦闘系の依頼をこなしていて、ギルドから合格をもらうのよ」
「特例として、少し上のランカーの指導の下って言う条件で無試験もあるがな」
「ランクEからDは、公正を喫するために、複数の試験官のテストを受けます」
「試験官によって、実技だったり、依頼だったり、面接だったりね」
確かにここまでは、以前に話を聞いていた。
「その他にもランクアップには、成果を示すと言う方法がある」
「成果ですか?」
「パーティではなく、単身で格上の害獣を倒す」
「ヘルトがキリングシープを倒したみたいに?」
「そうだ」
「それなら、ヘルトはランクアップするのですか?」
「パーティでは出来ない。あくまでも単身でだ」
「むぅー、ヘルト一人で倒したのに」
実際に見ている訳じゃないから、客観的に公正に判断されて当然だ。
キリングシープの場合も、エンデの囮があったと言えるだろう。
「それでオレが何度も落ちているランクCだが・・」
「師匠が落ちるなんて、超難しいんじゃあ?」
「そうですよね・・」
「うーん、試験官・・ランクBから一本とるって言う物だな」
「「・・はぁ!?」」
アンファとエンデが素っ頓狂な声を上げる。
「いやいや、無理でしょう。そんなの!」
「ランクDですよ!? 何でランクBに勝てるんですか!?」
二人のクレームも尤もだろう。
「その辺が才能の差なんだろうな・・」
同じ日に試験を受けた者の大半が、ランクBの試験官に一撃を入れていたと言う。
「えっ!? 一撃入れるだけで良いの?」
「一本取るって、勝つって言う意味ではないのですか?」
「すまんすまん、言葉が足りなかったな。制限時間みたいなものがあって、試験官をヒヤッとさせると言うのが正しい試験だ」
今までの集大成を見せ、試験官に自分の可能性を示す・・
失礼な話だが、それであれば、師匠の才能や実力が足りないと言えるかもしれない。
それが分かってしまったから、ランクCになる事を諦めたのだろう。
「ランクCになれるのかなぁ・・」
「私も不安です」
師匠の話を聞いて、自分の力不足を想像してしまったようだ。
「おいおい、その前にランクDにならなくちゃならんぞ?」
萎縮してしまった二人に、師匠が苦笑いする。
「それもそっか」
「そうでした」
二人がてへへと笑う。
ランクアップの話しが一段落したので、自分が聞いてしまった話を切り出してみる。
「話しは変わりますが、一つお伺いしたい事があります」
「うん? 何か聞きたい事があるのか?」
「マスターズは、不穏な噂を耳にしたことがありますか?」
「不穏な・・噂? 例えば?」
「戦争です」
少女達が顔を見合わせ、師匠は表情厳しく、言葉を選んで聞いてくる。
「以前話したが、魔女国、旧国王派、独立国が乱立し、こう着状態の今の状況を差しているのではなく、か?」
「違います」
「二人は?」
「いやいやいや、知らない知らない」
「聞いた事はないです」
師匠は二人に視線を送ると、二人は共に首を振る。
「ふむぅー、いずれは戦争が、と言う話しは聞いている。それだけだ」
溜息を深くついて、師匠の持っている情報を明らかにする。
「それで、ヘルト。お前は何処で、何を聞いたんだ?」
「深夜ギルドで。ギルドに兵士を募集する依頼を出してきたと」
「「なっ!?」」
「何処がだ?」
「話の流れからすると、旧国王派。独立を認める条件に連合するらしいと」
昨晩、資料室で手に入れた情報を伝える。
「戦争の噂はあった訳だから、今更驚かないけど・・」
「ギルドに兵士の募集って、可能なのでしょうか?」
「・・微妙だな。無理だとしても、魔王討伐と言う名目になら可能になる」
二人の質問に、難しい顔をした師匠が答える。
害する存在・・、人間なら野盗や強盗の討伐は冒険者ギルドの仕事の一つである。
広い意味で取れば、人間の討伐も冒険者ギルドが請け負える事になる。
しかし冒険者ギルドは、国に縛られない自由な組織を掲げている。
つまり原則としては、国家間の争いには加担しない。
国を滅ぼす魔王と言う人類の危機であれば、国とギルドが共同して戦う事はある。
取り方によっては、どうとでもなってしまう・・、正に微妙な状況である。
師匠はほんのわずかな時間で、考えを纏めて二人に尋ねる。
「アンファとエンデ、お前達は戦争に参加したいか?」
「ま、まさか・・」
「絶対に嫌です」
二人は先程より激しく掌と首を横に振る。
「そうか・・。ならばこの町を出る必要があるな」
「私の言葉を信じるのですか?」
出会って間もない人工生命体の言葉を真に受ける理由が知りたかった。
「お前の言葉だけじゃない、常に戦争の噂はあった。そして昨晩の話もあり得る話だ。総合的に判断して、戦争の可能性が高いと判断する」
「なる程」
師匠の言葉に納得する。
「どうして此処を出るの?」
「ここは王都だった場所。旧王国派は、必ずここを取り返そうと躍起になるだろう」
「そうですね・・」
ここで国王一族は滅ぼされ、一人東の離宮に残った第四王女トホターが王女となり、離宮が新王都となっている。
ここを取り返すのが、旧王国派の悲願だろう。
旧王国派はここに攻めた後、解放を宣言、魔女国との戦争と言う流れを予想する。
師匠の持つ情報から、これからの戦争のがどうなるかを問うてみる。
「師匠。冒険者を含め、旧王国派は兵力を整えられると思いますか?」
「精々、頭数を揃えるに過ぎないだろうな」
「他の独立国は、旧王国派と連合すると思いますか?」
「多分しない。あまりにも独立国がバラけ過ぎているし、軍神が居るからこそ、魔女の侵略に耐えられると考えるなら、領地から離れさせるとは思えん」
軍神を持つであろう国同士は、離れすぎて連携が取り辛い。
魔女国との対抗手段である軍神を、わざわざ自国から出すはずがない。
しかも旧王都には、数体の魔王が配置されており、旧王国派が勝てるとは思えない。
魔女がどれ程の情報網を持っているか分からないから、急襲を仕掛ける序盤戦は旧王国派が勝てるかもしれない。
しかしすぐに反撃され、悪戯に住民達とその生活を壊すだけ壊し、兵の無駄な犠牲を出して終わりになる公算が大きい。
「それであれば魔女国の一人勝ちですので、魔女国へ逃げた方が良いと思われます」
「余程の馬鹿じゃない限りは、そう考えて当然だよな」
師匠も僕と同じ考えに至っているようだ。
「魔女の勢力下へ、拠点を移す事にしよう」
「でも、良いのかな・・」
「私達だけで逃げて・・」
二人の少女が、この町の住人達に後ろ髪を引かれる。
「この町には思い入れもあるし、助けたいとは思うが、オレたちの手には余る。俺たちの言葉を聞き流すならいいが、パニックが起きる可能性もある。オレたちの命と生活を守るので精一杯だから逃げるんだ」
「「うん・・」」
師匠はパーティのリーダーとして全責任を負い、全員に旧王都脱出の計画に取り掛かる。




