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人形勇者の憂鬱  作者: まる
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エゴと人形

【エゴと人形】


冒険者には決まった仕事と言うのは存在しない。


野盗や害獣などから村や町を守るのは自警団。

肉や皮、薬草、素材などを求めるのはハンター。

遺跡とその宝を探し求めるのは探険家。

建物の解体から、ドブ掃除から失せ物探しと言った雑用一般の人足。


ギルドと言う組織は、あくまでも同業者の相互扶助が目的である。


そんな中、雑多な仕事をこなす冒険者達のギルド、冒険者ギルドは少々異質だろう。


「マスターズ、一つ質問があります」

「なあに?」

「何でしょう?」

「何だ?」

「冒険者ギルドは、他のギルドと違うように思われます。当初の目的とも」


資料室には、冒険者ギルドの歴史・・と言うか、紹介みたいな記録があった。


「他のギルドと・・違う?」

「当初の目的・・ですか?」

「あーあ、そう言う事か」


アンファとエンデが首を傾げる中、師匠一人が訳知り顔で頷いている。


「何か知ってるの、師匠?」

「どういう事か教えてください、師匠」

「まあ待て、落ち着け。三人に話してやるから」


四人が宿屋の前に揃い、何時ものお祈りをしてから、朝食のためテーブルに付く。


「三人は、そもそも冒険者ギルドの興りって知っているか?」

「そう言えば、知らないわね」

「考えてみれば、気にも留めませんでした」

「一応歴史の部分であれば、資料室に一部ありましたが」

「じゃあ、ヘルト説明してみてくれ」

「はい」


資料室にあった冒険者ギルドの紹介を聞かせる。


「冒険者ギルドの前身は、屯田兵ギルドでした」

「えっ!? そうなの?」

「初代勇者が、魔王を全て倒した後、国を治める際には、あまりに多くなった兵士は仕事がなくなりました」

「分かる気がします」


戦乱の世だからこそ、兵士と言う仕事は存在する。


「初代勇者は、兵士を解雇し放り出せば、国が荒れるのではないかと懸念しました」

「ふむふむ」

「魔王はいなくなりましたが、田畑は荒れ、人間を襲う獣はまだ存在しました」

「そうですよね」

「田畑を耕し、有事の際に戦う者として、兵士を各地に送りました」

「それが屯田兵ギルドの始まりだ」


師匠が一旦、話の区切りをつける。


「興りは分かったけど、屯田兵ギルドが、何で冒険者ギルドになったの?」

「おいおい、まだ話の途中だぞ」

「あ、そう。じゃあ続けて続けて」


アンファは話の区切りが、話の終わりと思ったのだろう。


「各地によって、屯田兵の必要性が違っていました」

「どう言う事でしょうか?」

「必ずしも田畑が荒れている訳ではありませんし、狩人や伐採で暮らす場所もあります。そんな事よりも、害獣の恐怖が目の前に迫る場所もありました」

「当然・・ですね」


エンデが当時の事を偲んでか、少し悲しそうな表情を浮かべる。


「その場その場での役割が違い、求められる能力も違いました」

「各地の屯田兵ギルド同士が連携して、人のやりくりを始めたんだ。更には他のギルドとも協力を始め、今の冒険者ギルドの基礎になってきた」

「「なる程!」」


師匠が最後までと、顎をしゃくり合図をしてくる。


「更に国として落ち着いてくると、領主が派遣され、きちんと各地が管理されるようになりました」

「ほぉ!」

「そして領主の持つ兵と、兵士や他の職業が入り混じった屯田兵ギルドを区別するために冒険者ギルドと名前を変えたそうです」

「へぇー、そうだったんですね」

「名前に関しては、紆余曲折あったようだが、その辺りはもう良く分からん」


資料にも、冒険者ギルドと名を変えました、で結ばれていた。






朝食が終わり、冒険者ギルドに仕事の感謝と成功を魔王に祈りつつ入る。


「さて、今日は・・」

「討伐だね!」

「むぅ・・」


アンファは、師匠の言葉を遮って討伐を一押する。


やはり討伐は実入りが良いと、師匠を慮って積極的に行きたがる。

師匠的には、預かった遺児を危険な目に合わせたくないとの思いがある。


確かに、僕に掛かりっきりの時は、パーティに収入は殆どなかった。


「装備も揃いました」

「そうだな・・」


エンデも姉を後押しする。


僕の装備は、必要な箇所は覆われているが、バラバラである。


余程お金に余裕がなければ、揃いの装備の片方が壊れたからと言って買い直さない。

壊れた方だけ中古で買うので、駆け出しはバラバラの装備が当たり前だ。


装備を取り扱う店は、それを見越して下取りをするのである。


「ランクアップには必須です」

「お前達の時は特例を使ったし、実際の戦闘は訓練と違うからヘルトにも必要か」

「そうそう」


また高ランクになればなる程危険が伴い、どうしても戦闘経験が求められる。


「はぁー、分かった分かった」

「「やったぁ!」」

「しかし、先ずはヘルトに合わせてランクFの依頼の物を選ぶぞ」

「「了ー解!」」


二人の少女は、あれやこれやと考えて依頼を選びだす。






フィールドに出る前に、師匠が三人におさらいを兼ねて説明する。


「俺達冒険者の討伐対象は、主に害獣指定された種だけとなる」

「質問よろしいですか、師匠?」

「何だヘルト?」

「この間の話ですと、害獣以外は存在しないように思われますが?」


魔素による環境適応力の向上した動物は、常に餌不足で人間を襲うため、討伐依頼がある。

しかしこの世界には、スライムやゴブリンと言った特異なモンスターや、魔素から直接生まれる仕組みもない。


「待て待て。誤解があるようだが、結果として人間を襲うんだ」

「結果として・・? どう言う事でしょうか?」

「確かに環境適応力によって、繁殖力や成長力、凶暴性は増すが、当然の如く生態系や食物連鎖は存在する・・した」


師匠は、少し難しそうな顔をしている。


「生態系や食物連鎖が壊れているから、人間を襲う?」

「壊しちまったが、正解だろうな。誰かは知らんがな・・」

「なる程」


人の目には動物だけに見えるが、魔素は等しく植物にも環境適応力の影響を与えているはずだ。

食べられないように棘や毒を持ったり、とんでもない繁殖力や再生力、成長力を持つと言うような形で。


人間を襲わなくてはならない事態が、生態系や食物連鎖の中に起きている・・


「戦争・・、いや、人間こそが害獣を生み出していると?」


生態系や食物連鎖を、短期間で破壊する方法と言えば、人間の欲望に他ならない。


「多分な。依頼をこなす事が、壊れた部分をより壊しているのか、治す事になっているかも分からんよ」


環境適応力が存在する生態系の破壊が、人間に跳ね返ってきている。


「しかし今は生き延びるために、食料や素材を得なくてはならん。生き延びるために害獣以外の動物を狩る依頼が、拍車をかけている可能性もある」


戦争で生態系が狂えば、極端に増えたり減ったりする種が出てきてあたりまえだ。


討伐依頼で害獣を狩れば、生態系に影響を与え増えてしまうのだろう。


肉やアイテムを得るために、害獣以外の動物を過剰に搾取すれば環境適応力で増える。


「一番良いのは、生態系が落ち着くまで人間がどこかに行く事だろうが、そうも言っていられんからな」


師匠は肩を竦め、首を力なく横に振る。


「では、私達が討伐する害獣とは・・」

「どこにでもいる、変哲もない、ただの動物たちや、魔素によってモンスター化した存在の中でも・・」

「田畑を荒らし、家畜を襲い、家屋に侵入して色々食い荒らす物たち・・」

「そう。一度襲った動物は害獣認定され、積極的に狩りに行く」

「それが討伐依頼ですか」

「その通りだ」


一々調査している余裕も時間もないので、人間の領域に踏み込んだ動物は、生態系から弾き出されたと、かなり強引な解釈と決定をしているとの事だ。

例え害獣を作り出している原因が、人間だとしても・・




師匠は一つため息を吐いて、意識を変えてから依頼の話に戻す。


「それで今回討伐するのは、ヒュージラットだ」

「「はーい」」


難しい話で、かなり退屈していた二人の少女が元気に手を上げる。


「そうだな。先ずはヘルト、依頼書を読んでくれ」


師匠は、僕に依頼書の内容を読むように言う。


「はい。『ヒュージラット十体討伐。それ以上は一体に付き報酬上乗せ』とあります」

「ヘルトはどう思う」

「ヒュージラットと言う害獣を、十対以上倒せばよいのでは?」


どう思うの真意を掴みかねず、依頼書の内容を繰り返して言う。


「まあ、そう答えるよな。そう答えて当然だと思う。じゃあ、二人は?」


アンファとエンデに、話しを振る。


「何か知っている、お姉ちゃん? っ!?」

「うーん、特段何も・・っぎゃ!?」


師匠の拳を妹はさっと避け、考え中の姉はもろに喰らう。


「はぁー・・、お前たち。いくらランクFの依頼とは言え、それはないぞ? 何時も口を酸っぱく、情報に敏感になれって言っているだろう」

「「うっ・・」」


二人は思い当たる節があるのか、思わず視線を漂わせる。


「街中で傷ついたヒュージラットが発見され、退治されている。結構な量だ」

「えっ!? それって・・」

「本当ですか!?」


二人は慌てたように、師匠の情報に耳を傾ける。


「ヘルト、ここまで聞けば二人でさえ気づく事態なんだ。実はこの依頼は」

「どう言う事でしょうか?」


今の話の流れだけでは、さっぱり分からない。


「アンファ、エンデ。続きをヘルトに聞かせてやれ」

「「はい」」


これも勉強なのか、二人に説明をさせる。


「ヒュージラットに限らずモンスターのの習性なんだけど、餌に困ると親兄弟であっても、自分のテリトリーからから力ずくで追い出すのよ」


その情報だけでピーンと来る。


「傷ついたヒュージラットが町に現れると言う事は、数が増えているか、餌が不足していると言う事ですね」

「そう考えるのが自然ね」


そして町の近くに、かなりの数のヒュージラットが生息している可能性がある。


「では、この依頼、かなり危険なのではありませんか?」


ランクFから受けられる依頼とは言え、数と言う暴力は馬鹿に出来ない。


「勿論、コミュニティそのものを潰そうとは考えていない。コミュニティを潰すには、きちんと討伐隊が組織される」


顎をしゃくって、二人に続きを促す。


「実はヒュージラットが、ランクEに相応しい特性があって、それが攻撃方法なのよ」

「攻撃方法?」

「猪系のモンスターと似て、角を使って真っ直ぐに突っ込んでくるの」

「かなり危険な攻撃方法では?」

「角は横に向かっていて、こちらに向けるためには真っすぐ向くわ。走る速度は早いけど、一直線に向かってくるの。そして毛皮は柔らかいので、竹槍でも構えると、自分から串刺しになってくれます」

「どう言う事でしょうか?」


理由を聞けばランクEに相応しい、とても間抜けな害獣である事が分かる。


ヒュージラットは角が横向きと、一直線攻撃なので、やわらかい喉が丸出しだと言う。


似たような害獣に、ジャイアントラビットと言うのがいるが、角が上を向いている。

攻撃する際は頭を下げるため、頭蓋骨があり竹槍では貫けない。


例えに上がったジャイアントラビットも、実は哀れな害獣だったりする。


下を向いて助走をつけて、ジャンプして攻撃してくるため、簡単に相手を見失う。

木を背にタイミング良くかわすと、木に刺さった衝撃で首の骨が折れたり、そのまま宙ぶらりんで、気道が塞がれ窒息とか・・


「後は素材に、僅かですが価値があります」

「肉や毛皮ですね」

「それもありますが、角や牙、爪、骨が取れます。害獣の多くの種には、これらには金属のような特性があります」

「金属・・? もしかして火で溶けるのですか?」

「その通りよ! 単体の種の素材で創ると混ざり物も少ないの」


装備を揃える際に、鍛冶屋などに有ったクレイジーディアの剣とかそれだろう。


「まあ、ランクFやEで取れる素材など、早々値は付かないがな」


それでも混じり物が少ないだけでも、強度は上がるので重宝しているらしい。

高ランクの素材ともなれば、鋼の剣に勝るとも言う。


「そしてオレたちが討伐した数によって、ギルドでは討伐隊を検討する」


今回の依頼は単なる討伐以外にも、コミュニティの有無を判断する目安となるらしい。






依頼の内容の、裏表の情報を確認すると、実際に討伐依頼の開始である。


流石に昔の王都だけの事はあり、東西南北の四つの方向に街道が伸びている。

その一つを適当に選んで、田畑を抜け、草原や森のエリアに差し掛かる。


伐採などで、少し開けた場所から、森の中へと入っていく。


「マスターズ、何故このような場所から入るのですか?」


堂々と入っていけば、害獣たちは逃げてしまいそうである。


「うん? どういう意味?」


アンファが首を傾げる。


「お姉ちゃん。ヘルトは討伐が初めてですから分からないのです」


エンデが、僕が何が分からないか分かったと言う。


「害獣に限らず、動物はテリトリーに入ってきた者を無差別に攻撃します」

「逃げないのですか?」

「傷ついて、勝てないと分かるまでは逃げません」


そう言えば、凶暴性が増していると言っていた事を思い出す。


「そのため、いきなり動物達のテリトリーに踏み込まないように、こうやってある程度人間の手の入った場所から、探索を始めていきます」

「分かりました」


前の世界とはルールが違う・・異世界である事を思い知らされる。


「(サポートさん、探索能力を使用して)」

・・『探知』『探索』『鑑定』・・能力使用・・

警告・・魔力不足・・範囲限定・・

警告・・『鑑定』・・対象の指定・・失敗・・情報不足・・


どうやらヒュージラットと言う情報がなくて、鑑定、探索できないようだ。


「(じゃあ、生き物と言う括りでやってみて)」

・・了解・・対象範囲拡大・・

「(・・えっ!?)」


突然目の前、いや周辺に現れたマークを見て驚く。


「マスターズ」

「どうしたの、ヘルト。まだ何かあるの?」


先に進もうとする三人に声をかけ、歩みを止めさせる。


「何かに囲まれています!」

「「「えっ!?」」」


『探知』と『探索』によって明らかにされたのは、非常な現実であった。





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