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人形勇者の憂鬱  作者: まる
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生み出す人形

【生み出す人形】


アンファが考えたヘルトの強化策とは、手元にある以外のコアを見つけると言う事だ。


先ずパーティを組むに当たり大切な事が幾つか存在する。


「親指は自分を表す、小指は相手を指差すの」

「最初は人差し指で相手と、方向を表してましたけど、重なって分かり難いと、相手は小指、方向は人差し指と中指の二本に変更しました」

「斥候者が後ろの人に手を伸ばして掌を見せたら止まれで、掌を下にして小さく上下させればしゃがめ、もしくは伏せろ」

「斥候者が掌を上に向けて、四本指を上下に振れば集まれです」


ハンドサイン。

探索や隠密行動をする際に、一々声に出していては意味がない。


尤も野生動物の嗅覚や聴覚を前に、どれだけ意味があるかといえば懐疑的だが、待ち伏せや罠といった異変に気づいた場合には有効となるのだろう。


「こんな感じだけど、大体分かった?」

「お姉ちゃん・・。大体じゃ困るよ?」

「その通りだ。簡単なものだからとは言え、命に直結する事もある」


簡単なサインを複数組み合わせて使う事もある。

ちょっとした間違いや見落としが、とんでもない事態に発展するかもしれない。




一通りのサインの解説と、練習を行った後、現実的な問題にぶち当たる。


「宿屋の件も然る事ながら、装備品を如何するか・・」


今の僕の装備は、単なる布に穴を開け、貫頭衣として身に着けているだけ。

一通り武器屋や防具屋、鍛冶屋を見てみるが、結構な値段が書かれている。


「(青銅の剣とか鉄の剣って言うのは分かるけど、何だクレイジーディアの剣て?)」


聞きなれない武器の名称を見て不思議に思っていると、話しはドンドン進んでいく。


「だからって、お金に余裕なんか・・、しばらく無理無理。宿屋に寝かせておくの?」

「普通は自分の村で、少しずつ蓄えたり、装備を整えるものですし」


いくら人工生命体とは言え、一応は仲間だし、裸で戦場に放り出す訳には行かないと言う。

とは言え、装備一式を揃えるとなれば、それ相応のお金が掛かる。


「前の主の時は、城の衛兵の装備を流用しましたが?」

「王城ねぇ・・」

「まあ、無理ですね」

「何故でしょうか? アンファ様、エンデ様」


二人の少女が、少々困った顔をする。


「王城の装備は、魔女が独立都市として組み入れた際に、町の人たちがかき集めて、自警団を作ったし、その後も俺達のような冒険者が探しまくって売っぱらった」

「そうでしたか」


アンファとエンデは、自分達の行いが、結果として自分達の首を絞めてしまったと思ったのかもしれない。


「ねえ師匠・・。何か王城に残っている可能性は?」

「はっきり言ってゼロに近いな」


アンファは多分、僕の身体用のコアを見つけた事から、僅かな可能性を問うたのだろうが、師匠は完全に否定している。


「やはりしばらくは、簡単な依頼で金をためてから・・」

「ねえ師匠、やっぱり王城に行きませんか?」

「うん? エンデ? 今話を聞いていたか?」

「聞いていました」


エンデの言葉に、師匠は眉をひそめ、姉のアンファも首を傾げている。


「王城は、ほぼ安全ですよね?」

「まあ多少の例外はあるだろうが、問題はない」

「つまり王城に行く限りは、私たちが守ればなんとかなるのでは?」

「それはそうだが、しかし・・」


安全とは言え絶対ではなく、誰かを守りながら行動と言うのは負担が大きい。

であれば別行動で、旧王都内の依頼をしていた方が良い。


エンデは、本人が居なくてはサイズ違いで、二度手間三度手間になると、師匠に訴えかける。


「最初からコア探しは運が良ければ程度でしたから、装備に関しても同じです」

「それは・・、そうだが」

「ガラクタや鉄くずでも、多少は装備の足しになるでしょうし」

「多少は・・な」


苦笑いする師匠は、エンデの案に懐疑的だ。

エンデも分かっているのだろうが、それでも仲間の安全を優先したいと言う。


旧王都は消費都市の代表格であるが、魔女の管理する、魔王が鎮座する所でもある。


武器や防具の素となる原材料は、全て他の町からの仕入れてくる事になる。

当然、運賃なのが原材料費に跳ね返る。必ずしも良質な原材料が手に入るとは限らない。


ならば良質且つ割安な素材が手に入る、産出地に職人達は流れてしまう。


勿論、日用品として多種多様な金属製品は必要なので、鍛冶屋自体がなくなることはなかったが、良い装備を作れる職人はいなくなってしまった。


ここ数年で、加治屋たちの腕も上がって来たが、如何せん設備はまだまだ手探り状態で、製品に不純物が混ざり、決して良質な装備が出来上がっては来ない。


結果、鉄くずやガラクタは二束三文で買い叩かれてしまう。


「うだうだ言っていても始まらないわ! 行くんでしょ、師匠!」


妹の案を後押しするため、アンファが師匠に王城行きを迫る。


「はぁー・・そうだな。まずは王城探索からだ」

「「はい」」

「分かりました」


結局師匠が折れ、俺達は、コア兼、装備兼、金目のもの探しに、王城へと赴く。




最初に向かうは、当然コアの見つかった、元主にして女魔導師ヘクセ、今は魔女であろう女の部屋からだ。


魔法による仕掛けは、四人にはどうしようもないので、多少の破壊は大目に見る。


「うーん、やっぱり何もないか」

「お姉ちゃん。諦めないで、もっと良く探して」

「とは言え、魔法のトラップも考えられるから気をつけろ」


ヘクセの部屋はもとより、他の場所を物色するが、芳しい成果は上げられない。


「(さて如何したものか・・)」


自分のために、三人が動いてくれているのだからと、何か良い方法はないかと考える。


「(そもそも光魔法が使えれば、装備はほぼ不要。せめて三つの機能が備わったコアがあれば、かなり違ってくるんだけど・・)」


別のコアを見つけるより、安い装備を揃えた方が遥かに早い気はする。


「(となると装備なんだが・・。装備を揃えるまで、自分だけ町の中の依頼を済ますべきか・・)」

・・提案・・


そんなこんなを考えていると、サポートさんからとんでもない提案が出される。


「(何だい、サポートさん?)」

・・現在のコア・・限界使用・・光魔法・・

「(今のコアの組み合わせで、光魔法を使うって言うのか? 何の意味が?)」

・・武装生成・・素材生成・・

「(なっ!?)」


思わず驚いて声を上げそうになるが、何とか目の前の壁の一部を壊して事なきを得る。


「ヘルト! あまり派手に壊さないの!」

「お姉ちゃんが言っても説得力ないよ?」

「だからトラップにも、注意を払え」


三者三様の対応に、安堵する。


「(光魔法の本質は、強制事象干渉能力・・。武器や防具を作ったり、その素材を作り出す事が出来ると?)」

・・限定能力・・低ランク・・武装修理・・素材精錬・・可と予想・・

「(コアの最大出力で稼働時間内に出来る作業に限定か。それで低ランクと)」


サポートさんから、可能性の条件を聞き出し、すぐに作業に取り掛かる。


「マスターズ、お願いがあります」

「どうした、ヘルト?」


三人に頭を下げて、無理な願いをする。


「少々試したい事があり、ガラクタを集めさせて下さい」

「何で、ガラクタなの?」

「いや、お姉ちゃん。それが試したい事に繋がるんじゃないの?」

「本来なら目的が分からない事はさせるべきではないと考える。しかしヘルトのたっての願いだ。今回は許可しよう」

「ありがとうございます」


姉妹で何やら漫才を始めるが、師匠は渋い顔だが許可してくれる。


しかし僕が無作為にガラクタを集めるのではなく、ちゃんと必要か不要かを見ている事が、三人にもすぐに分かる。


「何だろうね?」

「さあ、さっぱりだわ」

「試したいと言っていたから、何かしらの目的があるのだろうが・・」


自分が持てる分だけ集めると、終了した事を告げる。




三人は僕のやりたい事をやらせてやろうと考えているのか、そのまま王城を出る事にする。


「じゃあ、宿屋に帰ろうか」

「マスターズ。あまり人に見られず、作業できる部屋をご存知ありませんか?」

「うーん、宿屋の部屋じゃダメなの?」

「出来れば、あまり物がない方が良いのですが」

「じゃあ、ギルドの会議室とか借りてみる?」

「そうだな、何よりもタダで借りられるぞ」

「では、私は冒険者ギルドへ向かいます」


三人の邪魔や、時間を無駄にしないために、そのように切り出す。


「ちょっと! ここまできて仲間はずれはないでしょう!」

「そうですよヘルト。何をしようとしているのか見せて下さいね」

「うむ、二人の言う通りだ。それとも隠したいのか?」

「いいえ。お時間が許せば、是非三人にも参加していただきたいです」

「じゃあ決まりね!」


四人揃って、冒険者ギルドへと向かい、会議室に入る。


「何をするつもりなの、ヘルト?」

「失敗するかもしれませんが・・」


折れた鉄の剣と、同質の素材のガラクタを床の上に置いていく。


そして魔素吸収コアから、魔力貯蔵、増幅コアに付け替える。


「へぇ!? 何でコアを変えるのよ?」

「ヘルト、私も説明して欲しいなぁ」

「まあまあ二人とも。先ずは静かに待つとしよう」


三人が固唾を呑んで見守る中、サポートさんに話しかける。


「(サポートさん。これで何とかなりそう?)」

・・ぎりぎり・・

「(失敗はしたくないけど・・、やっちゃって!)」

・・光魔法・・武装生成能力・・解放・・

警告、警告・・魔力不足により解放不可・・

・・光魔法・・素材生成能力・・解放・・

警告、警告・・魔力不足により解放不可・・

・・能力の限定解除・・実施・・成功・・

武装生成・・ブリリアンスクリエーション・・

限定・・武装修復・・ライトリペア・・解放・・

素材生成・・マテリアルクリエーション・・

限定・・素材精錬・・ライトスメルティング・・解放・・

・・二つの限定能力・・解放・・成功・・

「(えーっと、ライトリペアとライトスメルティングだよね?)」


先ず最初に、光魔法の武装修復を発動する。


「ライトスメルティング、ライトリペア」


対象にした折れた鉄の剣と、素材が光に包まれる。


「「「なっ!?」」」


三人の驚きの声が重なる。


それぞれの光が、やがて一つとなる。


コアの稼働時間命一杯のところで、光が消え、一本の鉄の剣と不純物が残される。


「ば、馬鹿な!?」


師匠が驚きの声を上げる。


「な、何なの・・今のは?」


アンファが不安そうな声を出す。


「剣が・・直った?」


エンデは呆然としている。


「ヘルト・・。これは一体何だ? 何が起こったんだ? 説明してくれ・・」


三人が直った剣、しかも不純物の少ない良質な物になった経緯を求めてくる。


「前の主人が、私を創った理由に遡ります」

「そう言えば、そんな話しはした事がなかったな」


第四王女トホターが、他の領主たちが魔王の復活をたくらんでいるのではと疑った事。

トホターに命じられて、女魔導師ヘクセが勇者の召喚を試みて失敗した事。

最終的に、人工生命体に、勇者の魂を降霊させる事を思いついた事。


一連の流れを、三人に説明する。


「なる程、それがお前が創られた経緯か。それで剣が直ったこととの繋がりは?」

「勇者の魂の降霊は一部成功し、勇者の記憶と能力が得られました」

「その記憶と能力の中に、剣を直す能力があったと?」

「正確には、光魔法と呼ばれる能力で、装備を作り出す事が可能です。しかしコアの能力限界から、限定的な低ランクの精錬と修理となりました」


光魔法によって装備を作り出せると知ったのは、サポートさんのおかげである。

そもそもの光魔法が、神や精霊、魔王を消滅させる能力に特化していたので、必要としていなかっただけだ。


「でもこの能力あれば、お金がっぽがっぽじゃない!」


アンファが、修復された鉄の剣を振り回して叫ぶ。


「いや、この事は四人だけの秘密だ。基本は自分達の装備だけに使う」

「何でよ!」

「どうしてですか、師匠?」

「あまりにも危険が伴う。こんな金の卵を産む鶏、皆が大人しくしていると思うか?」

「うっ!? それは・・」

「そういう危険ですか・・」


奪い合いから、殺し合いに発展する可能性は十分にありえる。


「それにヘルト。さっきも言っていたが前提条件が幾つかあるのだろう?」

「はい。コアの稼動時間内で可能である事。現時点では低ランクとなります」

「低ランクって、どのくらい?」

「金属で言えば、青銅や鉄ぐらいです。鋼は無理でしょう」

「なる程です」


低ランクイコール、安価な物と言える。


「あくまでも修復なので、元となる装備品が必要になります」

「金属屑だけだと、剣の形にはならないのね」

「不純物を取り除く場合、かなり大目の素材が必要となります」

「折れた剣の他に、かなりの鉄くずがありましたね」


精錬を併用しなければ、それ程素材の料は必要にはならないはずだ。


「何にせよ、この事は他言無用だ。ヘクトは急いで残りの作業に取り掛かってくれ」

「分かりました」


コアを再び付け替え、コアへの供給を始める。


「ねえねえ、ヘルト」

「何でしょうか、アンファ様」


作業前の時間に、ふと浮かんだ疑問を聞いておこうと思ったのだろう。


「コアを修復する事はできないの?」


師匠とエンデがハッとした表情になる。


「可能です。ただあくまでも修復と言う事なので一度破壊する必要があり、修復品はかなり低ランクの物となるでしょう」

「ちなみに、今持っている二つのコアのランクは?」

「金属で言えば、鋼以上のランクと思われます」

「そっか・・、結構貴重品と言う事ですね」


今のコアを元にして、上級のコアは作れない。

上級のコアがあれば、コアを作り出す必要はない。

中々、事は上手く運ばない用にできている物である。


「何時までもギルドの会議室にいる訳にはいかん。やる事をやって撤収するぞ」

「「はい」」

「分かりました」


魔力を蓄えては装備を修復するを繰り返し、一揃いの装備が出来上がる。


鉄の剣、革鎧、右手が革の小手、左手が青銅で補強された木の盾、右足が青銅の脛当て、左足が革のブーツである。

もともとの装備がバラバラなので、装備がバラバラなのは仕方のない。


そしてこの能力が優れているのか、不思議な事に、青銅で補強された木の盾は、青銅と木の盾に分かれる事はなく修復された。


またつま先が大きく開いた革のブーツの修復に、金属が必要だった時は何故かと思ったが、本来は踏み抜き防止の鉄板入りの、底にはスパイクが付いている物と知り、ここまで修復されるのかと感心した。


「ヘルト、今日のところは如何する?」

「このまま冒険者ギルドの資料室へ行こうと思います」

「分かった」

「じゃあヘルト、また明日ね!」

「何時ものように、宿屋の前ですよ」

「はい」


不可思議な光景の、夢から覚めやらぬ三人は、それでも一旦宿屋へと戻る。


得るべき情報は得てしまって必要はないが、宿代を浮かせるために資料室へと向かう。





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