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人形勇者の憂鬱  作者: まる
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力を試す人形

【力を試す人形】


有名どころの薬草を、一通り採取して、僕の冒険者ラングがGからFに上がる。


ランクGとFで受けられる依頼に殆ど差はないが、ランクEから戦闘が必須のため、ランクFの依頼には戦闘を必要とする仕事も含まれる。


そして戦闘を必要とする依頼をこなしていないと、ランクEに上がる事はできない。

薬草採取や、町の中の雑事、例え重労働と言えど関係なく、あくまでも戦闘に関わる依頼を達成しておく必要がある。


これからどんな依頼をこなそうかと、アンファとエンデが相談している中、こちらから提案してみる。


「マスターズ、これらの依頼をやってみたいのですが?」

「うん? どれどれ?」

「力仕事・・ですね」

「ふむ、何故この依頼なんだ?」


僕が指し示した依頼は、プッペの時代になかった依頼の幾つかである。


一つは先にもあった瓦礫運び。崩れた城壁から、使える石材を、今築き直している城壁の所へ持っていったり、使えない石材で堀を埋めたりする仕事。


今一つは、使われなくなった家屋の解体撤去である。これは同じく使わなくなって久しい貴族の屋敷に人々が移り住んだ結果である。


都市機能のギルドが移り、スラム街の人々が移り、宿屋暮らしの冒険者が移りと、人々は王都の中心に移り住む。


そして残された家々を潰して、土地を確保して新たな農地として開墾する。


魔女の影響で、王都でありながら完全に孤立した町として、今まで外の町から入ってきた物資を、町で生産しなくてはならなくなったからだ。


「今までやった事がなかった事と、これらの作業で、どれほど魔力を消費するのか、どれ程稼動に影響するか知っておきたいと考えました」

「なる程、そいつは大切だな」


立っているだけや、資料を調べる、薬草を採取するなどの軽作業であれば、今のコアで特に問題なく無期限の稼動ができる。


では石材を運ぶ、家屋を解体すると言った重労働はどうなのか? 実際の戦闘ではどうなのか? この二つはまだ試していない。


「とは言え、アンファとエンデを参加させるのは、少々無理があるな。しかし、ヘルトを監視させるだけと言うのも無駄ではあるし・・」


流石に僕も、少女二人と一緒とは考えてはいない。


「ここいらで、ヘルトの忠誠度を試す、一つの機会でもあるか・・」


師匠は二人を見ると、少女達は黙って頷く。


人工生命体が何か問題を起こした場合には、自分達の責任になる、自分達が責任を取ると言う確認である。


「分かった、ヘルト。お前に任せよう」

「ありがとうございます」


マスターズとであってから、初めての単独での依頼をこなす事になる。






早速、家屋の解体や瓦礫運びの現場で作業に取り掛かる。


とは言え、僕一人で全てを行うわけではなく、仕事の内容によって、一人だったり、何人か一組だったりと、現場監督の指示で動く。


複数の重労働をこなす中、徐々にの魔力消費が分かってくる。

しかも今取り付けられているコアは、魔素吸収も遅く、魔力変換率も悪いようだ。


「(このコアの魔素の吸収と魔力変換だけで、重労働をこなせていないんだよな?)」

・・本体にある魔素吸収・・変換・・貯蔵・・増幅・・併用中・・

「(数年間この身体を、ギリギリ維持できるだけの機能はあるはずだもんな)」


元からある機能と、今付いている魔素吸収コアで、今回の重労働は何とかこなせそうだ。

ただ今回のような仕事をたった一人で、短時間でこなすのは難しいと、サポートさんからの回答もある。


この身体への負荷が、魔力使用量に直結している。

勇者クラスの能力を有する身体なのだから、本来の性能を発揮するには、かなりの魔力量が必要になるだろう。


「(となると、戦闘はかなり厳しい物になるか・・)」

・・時間制限・・能力の使用制限・・


魔素吸収コアが供給できる範囲での戦闘、例えばランクの低い討伐しか出来ない。


「(しかし周囲の魔素の濃度は、若干の違いはあってもほぼ一定。魔素吸収コアがいくら優秀でもこの原則は超える事はできない)」

・・魔力貯蔵コア・・魔力増幅コア・・必須・・


どんなに大容量を高速で吸収でき、少量の魔素で大量の魔力に変換できても、魔素量の上限が環境に影響する以上、魔力貯蔵や増幅のコアが存在するのだ。


「(魔素吸収コアにも、ランクがあるのか?)」

・・ランクと言う定義なし・・魔素吸収速度・・魔力変換率に差・・。・・コアの取り外しは例外・・完成体としての評価・・

「(ふーん、なる程)」


コアによって品質の差はあるのだろうが、一度起動した人工生命体からコアを取り代える事はなく、完成した人工生命体として総合的に判断されるらしい。


「(そうなると、実際の戦闘をやっておいたほうが良いな)」


プッペのときに取り付けられていたコアなら、勇者クラスの運動性能を叩き出した上で、光魔法まで使いこなせていた。


では、今ある二種類のコアは?となると、未知の領域である。


「(勝手にやるわけには行かないから、あの三人にお願いしないとな)」


そのようなことを考えながら、先ずは目の前の仕事を片付けていく。






冒険者ギルドで、今日一日の仕事の報告をして、報酬を受け取ると、討伐系の依頼をチラ見する。


「(えっ? あれ? 何で? どう言う事?)」


貼り出された依頼を全て見た訳ではないが、あるべき依頼が存在しなかった。

慌てて外に飛び出すと、三人が戻ってくるのを待つ。


「ヘルト早かったね。瓦礫運びの仕事はどうでしたか?」


優しく笑顔で話しかけるエンデの言葉に応えず、質問を投げかけてしまう。


「マスターズに、お伺いしたい事があります」

「うん? 何?」

「討伐依頼を見ました。何故魔素系モンスターの討伐がないのですか?」

「・・魔素系モンスターって何?」

「ゴブリンやスライムと言ったモノです」

「へっ!? 何それ? ゴブリン? スライム?」


三人は、僕の言葉に眉をひそめて顔を見合わせている。


やはり・・と思う。


「(そう言えば、プッペの時も魔素系モンスターの話しはなかったよな・・)」


初代勇者の時代の記憶が封じられて分からないが、二代目勇者の時点では、魔素系モンスターに該当するような種族の討伐は見当たらなかった。


「ドラゴンは存在します」

「えっ!? ええ、爬虫類の最上位種のね」


女魔導師ヘクセは、漆黒のドラゴンを生み出していたから、元となる種族はあったはずだ。


「うむ・・、ヘルトは何やら誤解、もしくは誤情報があるようだ。少し整理をしよう」


一旦話しを打ち切り、それぞれの依頼の報告を済ませ、食事をしながらとなる。




食堂のテーブルに付くと、師匠が話を切り出してくる。


「先ずヘルト、お前の言っていた魔素系モンスター、ゴブリン、スライムとは何だ?」

「この世界には魔素があります。魔素を吸収すると動植物は、体内に魔石という物が生成され、モンスターと呼ばれる存在となります」

「うーん、それで?」

「更に魔素の濃い所では、普通では存在しないはずの、ゴブリンやスライムと言った種族が自然発生します」

「うむー・・」


三人は渋い顔を顔を突き合わせている。


「ヘルト、魔素系モンスターのような存在はこの世界には居ない。想像でしかないが、お前の創造主が何らかの研究の情報が入ったんじゃないかと思う」

「分かりました。情報の変更をいたします」


考えてみれば、初めてこの世界に来た時は魔王とと戦いだったし、プッペの時も討伐の依頼をやっていない。


ここに来る前の世界観を、勝手にこの世界に押し付けていただけかもしれない。


「魔素は、俺達人間にとって魔力の源であり、魔法に必須の物だが、動物達にとっては別の形で働く」

「どのような事でしょう」

「現在分かっているのは、環境適応能力だ」

「簡単に説明をお願いできますか?」


言葉から大よその予想はつくが、念のため確認しておこう。


「環境適応力だが、長い年月でその場その場の環境に慣れていくのに、早ければ一日で適応する。寒ければ毛が生え、岩場ならば跳躍力、砂漠なら水を蓄え、少量で済むとかな」

「亜種が生まれ易いと言う事でしょうか?」

「そうだな・・そう言えるだろう」


師匠は少し首を捻って、自分の考えとして答える。


「そして環境適応力が、問題を引き起こしている」

「問題ですか?」

「ああ。分かっているのは、繁殖力、成長力、凶暴性の三つだ」

「環境適応力によって、その三つに影響を及ぼしていると?」

「うむ」


少々苦々しそうに説明してくれる。


「繁殖力って言うのは、概ね人間は一年に一人を生めるのに対して、一ヶ月に一匹とか、種によっては一週間で十匹とか生むものもある」

「それが繁殖力」

「成長力は、人間が十年、二十年、百年と長い年月で成長するのに対し、一ヶ月程度で成獣になったり、二、三日で成獣となる種もある」

「それが成長力」

「繁殖力や成長力が高い結果、餌を得るため、攻撃性が増し、ダメージをより与える角や爪、牙といったものを身に付け、どんな草食動物も、逃げず、平気で襲ってくる」

「それが凶暴性」


動物達から、人間が一番弱い存在と思われている、と疑いたくなると言う。


「俺も学者じゃないから、知っているのはこの程度だがな」


世界管理者は、人間と動物達への魔素の影響の仕方をこのように設定したのだろう。


「その結果、モンスターの中でも、人間のテリトリーに平気で入ってきて畑や家畜を襲う物を害獣と呼び、冒険者が討伐するのは、主にこの害獣となる」

「なる程」

「害獣とは言え、肉は食えるし、毛皮やそのほかの素材も取れる」

「一石三鳥と言うわけですね」

「その通りだ」


もちろん素材採取のため、害獣指定されていないモンスターも狩る場合はある。


一通り話が終わると、今度はアンファとエンデが話に入ってくる。


「ねえねえ、どうしてヘルトは討伐の事が気になったの?」

「そうですよね。そもそもの切欠はそこな訳ですから」

「瓦礫運びの仕事をやって、自分の身体と魔力の消費量の関係を調べました」

「うむ、そう言っていたな」


実際に重労働をした際の魔力消費の状況を、三人に聞かせる。


「ふーん、常に一定の力を出す訳じゃなのね」

「仕事量に応じて、出す力を調整できる。人間と同じですね」

「必要じゃない時にも、エネルギーを使うのは無駄だしな」

「「それで?」」


二人の少女の声が重なる。


「日常的であれば、それで問題ないでしょうが、実際の戦闘となると出し惜しみできる状況ではないと考えます」

「確かにね」

「しかし弱い敵にさえ、過度の攻撃を加えるのは無駄とも考えます」

「その通りですね」

「実戦闘ではどうなるかを、試しておきたいと思った次第です」

「ヘルトの懸念は尤もだな」


今のコアであれば、長時間戦えるのは、どの程度の戦闘力なのか?

コアの組み合わせで、最大どの程度の戦闘力があるのか?


これを知っておくか否かは、大きな差となってくるだろう。


「じゃあ明日は討伐行ってみよう!」

「そうですね」

「待て待て、二人とも。いきなり実戦は早すぎる」


先走る二人を、師匠は押し留める。


「先ずは模擬戦をやってからだ」

「「模擬戦!?」」


そう宣言する師匠の言葉に驚く少女達と、納得する僕が居た。






翌日、冒険者ギルドの裏手に用意された訓練施設を、四人は訪れる。


「アンファとエンデは、ここを使った事がないよな」

「うん」

「はい」


二人は現在ランクEであるが、師匠が居た事で、模擬戦をせず、戦闘系の依頼をこなしランクEに上がれたと言う。


だから模擬戦と言っても、ピンと来なかったらしい。


「本来であれば、ランクFからランクEに上がる際、実技試験みたいなものがあるんだが、ランクDのオレが居た事で、二人は免除になっている」

「へぇー、知らなかった」

「ただし、ランクEからランクDに上がるには、流石にそんな特例はない」

「昇格試験があるのですね」

「実力を示すための実技試験が、模擬戦と言う訳だ」


師匠は木剣を手にすると、練習用の武器や防具の置かれた場所を指差す。


「ヘルト、好きな装備をしろ。先ずはオレが相手をする」

「分かりました」


プッペの戦い方から思うに、光魔法で全身を防御、両手剣で攻撃していた。

ならばと、木剣を二本取り出し、師匠と対峙する。


「二刀流・・か。まあ、いい。こい!」

「はい」


魔力の供給と消費が、プラスマイナス零になる戦いから始める。

師匠は最初、防御一辺倒だったが、徐々に攻撃を仕掛けてくる。


「ふむ、少なくともランクEの戦闘力はありそうだな。全力か?」

「もう少しだけ。一撃に込める力を上げられます」

「やってみろ」

「はい」


魔素吸収コアで、過稼動すれば一瞬で動けなくなる。

しかしこの身体に元から備わっている、貯蔵と増幅を利用すれば、不定期に一撃のみ威力を上げられる。


通常の攻撃の中に強力な一撃を織り交ぜた、緩急をつけた戦い方をする。


「ほう! 苦肉の策なのだろうが、良いほうに出ているな。じゃあ次のコアを試すか」

「はい」


一通り魔素吸収コアでの模擬戦のあと、魔力貯蔵、増幅コアに付け替える。


「じゃあ、来い!」

「行きます」


このコアでは、この身体に元から備わっている魔素供給能力では、補充が追いつかない。

最初に貯蔵してある魔力で、短期決戦である。


一気に踏み込み、強力な攻撃、瞬時に離脱と、ヒットアンドウェイを繰り返す。


「むっ!? これは強いな!」


師匠に肉薄する戦闘力を見せるが、三百を数えるか否かで動きを止める。


「どうした?」

「魔力の残量が十パーセントを切りました。これ以上の戦闘は、行動不能となります」

「そうか・・。二つのコアの運用をどう使うかが鍵だな」

「魔力貯蔵、増幅コアのフルチャージには多少時間を要します」

「ある意味必殺技、切り札と考えた方が良いか・・。交換のタイミングも隙を生む」


師匠と僕が、今後の戦い方の相談をしていると、アンファとエンデが聞いてい来る。


「で、で、ヘルトはどれくらいの力なのよ?」

「そうです、討伐には行けるのですか?」

「総合的な戦闘力なら、ランクCの下はあるだろう」

「「へえー、凄い!」」


師匠の太鼓判に、二人の少女は感激するが、彼はすぐに釘を刺す。


「おいおい? ただそれは勝つための戦い方であって、生き延びるための戦い方じゃないぞ?」


一対一や、その場だけの戦いなら高い戦闘力を叩き出せるかもしれない。


では魔力切れの状態で、戦いが終わったらどうなるのか?

それは人間も同じで、大怪我を負った状態と言う事になる。


「では、パーティでお互い助け合えば問題ないですよね、師匠?」

「その辺をちゃんと理解できていれば大丈夫だ」


エンデが、ヘルトとの討伐の依頼に行きたいと言ってくる。


「その前に、ヘルトの強化作戦をしようよ!」

「強化・・作戦?」


アンファの一言に、師匠が眉をひそめる。


きししし、と笑う彼女の視線にあるモノは・・





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