第七十六話 再会と
「おいおい、こりゃどういう事だ」
「皆!」
ルークとセレナの目の前には自分達の仲間だった者がそれぞれ地に伏している。
「まさかやられたのかよ、ガウェイン家まで」
「ひどい・・・・」
「十二魔騎士の面汚し共め・・・・」
「ルークッ!」
「へいへい、固いなぁ」
「まずは犯人を捜しましょう」
セレナは感情を抑えるように腕を抱く。
ドゴォン!!
「何!?」
「王城か!」
大国アヴァロンを治める者が住まう城、国民達が見て必ず安心感を与えていた威厳のあった見た目は今や見る影もなかった。
「なっ」
「ッ!」
セレナは脇目もふらず駆け出した。
暮れ始めた夕日が王城を照らし出し流血を思わせた。
王城の中にある大聖堂。その中に一人の青年が佇んでいた。
「見つけたわ!」
「・・・・」
青年は振り向き相対する。
「貴方・・・・」
「こんばんは、セレナ。ランスロット家の麒麟児はどうした?」
「ルークなら」
「俺ならお前の後ろだ」
ブォン!
ロストの後ろから声がし、首があった場所に剣が振るわれた。
「おいおい、躊躇いがないな」
「貴様はそれだけの事をしたのだ、覚悟は出来ているな?」
「湖の聖剣、ハッお前が持ってるのかよ」
かつて相対した勇者の姿を思い出す。
「彼の者に風の祝福を、風の衣!」
「ほう、支援付きか」
「だから何だ!」
「いや、自分の力でこないのかと思ってな」
「ッ!」
支援を受けたためか速度が乗った剣を振るうルークだったが、その全てが当たらない。
「馬鹿にするな」
ルークの持つアロンダイトが蒼く光る。
「セァ!」
「ッ!」
ヒュオッ
剣先から水が伸び振るわれる。
「む」
「そのまま切り裂いてやる」
バンッ!パシャッ
「どんな攻撃をしたかは知らないが、意味がないな。水にそんな攻撃が通じるとでも?」
「なら、こうする」
右手に持っていた銃を手放し腕に水の刃を形成する。
「水の刃?」
「随分と久しぶりに使ったが、鈍ってないな」
ロストは右手を開いたり閉じたりして感覚を確かめる。
「まず先に支援をする者から排除させてもらうか」
「え?」
ロストは一瞬でセレナとの距離を縮め吹き飛ばす。
「セレナッ!」
「先ずはお前との決着を付けなきゃいけないよな?」
大聖堂の中心でルークを見つめる。
「なめるなよ!」
剣を振りかぶってくる。しかしその全てをロストは見抜く。腕に纏った刃で受け、弾き、逸らす。
「そこだ!」
「どこだ?」
腕を振り払った姿勢を隙と見たのかルークは脇腹を狙ってきたがその剣を片足で踏みつける。
「この!」
「甘い!」
踏みつけられた剣を無理矢理に上げ、体勢を崩そうとしたルークだがロストは驚異的なバランス感覚を見せ剣の上に立つ。
「くっ」
「らぁ!」
ロストは腕に展開させた水の剣をそのままルークに向け突き刺す。
「くっ」
かろうじて首を動かし頬を切り裂くにとどまった。
「よくも俺に傷を付けたな・・・・痴れ者めがっ!」
「随分と威勢が良いな、紛い物の名を持つのに」
「何だと?」
「紛い物の立場、年、そして何より名前」
「お前は何を言っている」
「そうだろ?」
ロストは一つの名前を呟く。
「その名前・・・・何故、知っている」
「どうだった?かつての俺の名前を背負った気分は、かつての俺の立場を奪った気分は」
「まさかお前」
「俺だよ、ルーク。かつて見下されて、傷つけられて、追い出されて、それでもお前達を殺すために生き延びてきたぞ」
そのままクツクツと笑う。
「で?どんな気分なんだよ、本来別の人間のがいたはずの場所に自分が居座るというのは?誰もがお前本人じゃなくてランスロット家次期当主って立場にしか目を向けられなかったんじゃないのか?」
「何だと」
「誰にも本当の名前で呼ばれなかっただろう?本来の立場を捨てて、俺が元々いた立場に今お前はいる。確かに俺には魔法や剣の才能なんてなかった。それでも適正検査の日までは愛情を貰っていた。いつも俺にばかり注目が集まって、セレナの関心は常に俺に向いていて、それがお前は羨ましかったんじゃないのか?」
「うるさい」
「お前は俺の贋作」
「うるさい!」
ルークはアロンダイトを地面に叩き付けた。
「おいおい、図星か?」
「黙れ!俺は強い!羨ましいだと!?ふざけるな!俺はお前とは違うんだよ!!剣の才能も、魔法の才能も、弓だって扱える。それなのにお前はどうだ?剣も、魔法も使えなかっただろうが!それなのに言うに事を欠いて俺はお前の贋作だと?馬鹿を言うなよ!」
「なら何故お前は名乗らない」
「ッ」
「まあ確かにお前はここまでやってきた。それは認めよう、だから・・・・チャンスをやろう」
「チャンス、だと?」
ロストは銃をルークの方に放り投げる。
「その武器かお前の持つ聖剣、好きな方を選べ。一撃は貰ってやるよ。まあ対処はさせてもらうが。大チャンスだな、ルーク。確実に殺せると思う物を選んだ方がいいぞ」
「なっ」
「ほら、早く選べよ」
「言わせておけば・・・いいだろう、乗ってやる!」
あいつは何を言っているんだ。羨ましかった?贋作?立場?何を言っているんだ・・・・。俺はここまでやってきた、誰が十二魔騎士を纏めてきたと思ってる、俺以外に誰も出来なかったじゃないか。俺は俺だ、ルーク・ランスロットだ。それ以外の何者でもない。
「まあ確かにお前はここまでやってきた。それは認めよう、だから・・・・チャンスをやろう」
「チャンス、だと?」
「その武器かお前の持つ聖剣、好きな方を選べ。一撃は貰ってやるよ。大チャンスだな、ルーク。確実に殺せると思う物を選んだ方がいいぞ」
「なっ」
攻撃を、させてやるだと?それに武器も捨てやがった。ふざけやがって、何だその余裕は・・・・
待て、あいつは今なんて言った。攻撃させてやると言ったか?これまでの十二魔騎士の死に方を思い出せ。どのようにして殺されたか。死体からは小さかったが鉄の塊のようなものが出てきていた。あの小さかった鉄の塊が人間の体にあそこまで深く刺さるためには相当な速度が必要のはずだ。恐らく弓のような武器なのだろう、つまり今あいつが放り投げた武器は高速で矢を撃ちだすボウガンのようなものだが未知の武器。だから対処法が無かったんだ。それならば奴が他の奴らを殺せた理由も頷ける。いや、そうでなければいけない。ならば答えは決まっている。あいつが扱っていた武器だがあいつが扱えて俺に扱えないはずがない。
「ほら、早く選べよ」
「言わせておけば・・・いいだろう、乗ってやる!」
お前は間違いを犯した。唯一俺を殺せる機会を失ったんだよ、ルーク!
バンッ!
「だから、お前は俺に勝てないんだ」
俺は目の前で銃口を構えこちらに向けるルークを見て悟った。こいつは木偶人形だということに。ただ嫉妬に溺れている哀れな人形だ。何故今湖の聖剣を手に自分の力で向かってこなかった。自分の力を信じていれば俺にある程度の攻撃は通っていただろうに。
正直に言えば俺は捨てられた当初に復讐心以外の感情があった。目の前のルークを羨ましいと思っていた。だってそうだろう?目の前の奴は子供が憧れる英雄そのものだった。力があって、ヒロインがいて、羨ましかった。だが目の前の人形はなんだ。子供の癇癪にしか見えない。何のための才能だ。目の前には弾丸が迫るが所詮考えもなしに放たれた弾丸、がむしゃらに胴体を狙っているだけにすぎない。そんな物、当たったところで俺に致命傷を与えるとは思えない。
ドスッ
「確かに一発、貰ったぞ」
「な、何故・・・・何故生きている!」
「所詮人形の一撃だ、こんなもので死ぬかよ。俺を殺せるのはたった一つの手段のみ」
そのまま木偶人形を目指して歩く。
「待て、何をするつもりだ」
「・・・・」
「止まれ」
「・・・・」
「止まれよ、来るな!」
「・・・・」
「来るなぁ!!」
そのまま木偶人形を踏みつける。
「最後の最後まで自分を見失っただけだったな。じゃあな、人形」
「止め」
言い終える前に首を刎ねた。
「残り一人・・・・」
そのまま先程吹き飛ばした少女の方に首を向ける。
「うう・・・・」
どうやら私は侵入者に吹き飛ばされて気を失ってしまっていたらしい。少し意識が朦朧としているようで、何があったのか記憶を探ってみる。
「そうだっ!侵入者!」
そうだ、今はそれどころではなかった。国に侵入者が攻めてきたのだ、何とかしなくては。そのまま瓦礫だらけの大聖堂を進む。そして見つける、適性検査の間でルークの首を刎ねた侵入者の姿を。
「そんな、ルークをたった一人で・・・・」
また私は一人助けられなかった。かつて一人の少年を失ってから私が決めた一つの誓いをまた破ってしまった。それでも、絶対に何とかする。この誓いだけは裏切れない!そう思った私の腰に一本の矢が目についた。
「この矢」
そう、あの侵入者手ずから渡された矢だ。
「これは確実に君の願いを叶えてくれる矢だ。いざという時に使うといい」
いざという時、それは・・・・
「今っ!!」
もはや手段に構っていられない、今ここであの男を、射抜く!矢を弓に番える。その瞬間、矢は色を変えた。
全ての優しさを集めたような暖かい、日向のような純白に。
ヒュンッ!
矢は凄まじい速度で侵入者に向かう。侵入者は私が矢を放った瞬間こちらに振り向いた。しかし遅い。
そのまま矢はそこが自分の居場所というように容易く侵入者の胸に突き刺さった。
「ハハハ・・・・復讐はここに成った」
そして十二魔騎士を圧倒した侵入者はたった一人の十二魔騎士の少女が放った矢の前に容易く崩れ落ちた。
「やったの?」
私は現実が理解出来ず呆然としていた。ここまで神のような強さを誇ったあの男がたった一本の矢を胸に受け倒れたのだ。更に矢を男は目視していたはずだ、何故避けなかったのか。理解は追い付かないがとにかく男の正体を知ろう。ここまで強いあの男は何者なのか、骸骨の面を取れば分かるだろう。
そして
私は
男の骸骨の面を
外す
「ルー・・・・・・・・ク・・・・?」
「久しぶりだな、セレナ」
何故、どうして・・・・意味が分からない。私は何をした?最愛の人を、今でも想っているはずの彼を、私が
殺した。