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終わった……かんっぺきに終わった。もはやどこにも希望は見いだせない。母さんは口だけの人ではないことは知っているから、もしかしたらもう学校に連絡を入れているかも、明日朝教室に入ったら……
「よう西川」
「おっす、今日は早いな」
「チッチッチ、いつまでも同じ失敗を繰り返しているよーじゃだめなのよっこらせ――って俺の席がないっ!?」
「こらー席に着けー……あれ? お前なんでここにいるんだ?」
「へ?」
「だってお前、もうここの生徒じゃないだろ?」
みたいな?
………………………………笑えねー。
携帯電話を布団に投げだして自分は床に体を投げ出した。
あー、もう、こうなったらグレてやろうかな? 制服のボタン全部開けて髪の毛金色にして授業中教室を歩きまわって免許取って中古で買ったバイクで走りだしちゃおっかな――なんて、どうせ決行しない俺不良化計画をぶつぶつ言いながら考えていると、また着信が入った。どうせまたお叱りだろうと嫌がる気持ちに鞭打って取って見ると『父』という文字が携帯電話の画面に映っていた。それは何とも言えない違和感だった。思えば父さんからの電話なんて今まであっただろうか? 思い当たらない。
「今度は一体何と言われることか……」
これ以上追い打ちでもかけるつもりか? もう勘弁してくれ。
「……もしもし」
「あ、俺だ」
詐欺か。
「父さん? 何か用?」
「あ~その~あれだ、あんまり母さんに心配かけるんじゃないぞ」
「まぁ、その、ごめん。ちょっといろいろあってね。どう、母さんの様子は?」
「ああ、まだちょっとピリピリしてはいるが、電話が通じなかった日に比べればかなりいい方だ」
そう言う父さんの声には安堵的なものが含まれている気がした。きっと俺が電話に出なかった間、かなりの気苦労があったことだろう。感謝。
「それで母さんはその後どこまでやったの? もしかしてもう転校手続き済ませちゃった? 明日には俺の席無い?」
「あぁ、そのことなんだが……俺から説得しておいた。安心しろ」
「何だ……え、マジですかっ!」
父さん……かっこいいっす!
ほとんど諦めていた分うれしさ倍増!
「もとはと言えば親の勝手な都合だ、約束ぐらいちゃんと守らんとな。でももうこんなことするなよ」
「分かった、ありがと」
「じゃあ切るぞ」
「ああ、じゃまた」
「色々気をつけろよ」
「分かってる」
父さんが電話を切ったのを確認してから、携帯電話の電源ボタンを押す。
「……ふぁ~良かった~」
たった数分のやり取りに大量のエネルギーを消費した。どうなる事かと思ったけど、これでこの悠々自適な一人暮らしの安泰は守られた。僥倖だ。
「……しっかし、いっそがし一日だったな」
そう言って時計を見ると、現在六時半。まだ一日を振り返るには早すぎる。
「ん~……晩飯にするか」
冷蔵庫にある野菜を適当な大きさに切って、油をひいたフライパンにぶち込んで塩コショウで出来上がり、簡単お手軽男の野菜炒め。
それに学校からの帰りに買った赤飯を出して完成。
その後食器の片付けやらシャワーやらでひと段落した時には時刻は九時半になっていた。
「ちょっと早いけど、特にやること無いし、寝よ」
布団に横になり、つらつらと今日のことを思い返した。
綾瀬華、鷲巣凛、母。
そして、はっと気付く。
「俺、女運ってやつがないのかな」
……何を言ってんだ俺は。




