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朱根華。
一年三組出席番号一番。趣味は読書とお料理。
鷲巣鈴
一年三組出席番号三十番。特技は空手とマッサージ。
その後の俺の必死の説得はあまりにも見苦しく無様で無意味なものであったのであえて思い返すことはしないでおこう。
結果からいえば、努力の甲斐空しくお二人とはお付き合いを前提としたお友達関係を築くこととなった次第でございます。笑っちゃうよな、あぁ笑っちゃうよ、笑うしかねぇよ、なんなんだこの展開。アッハッハ~……はぁ。
あの後私たっての希望で自己紹介をしてもらったわけだけど、やっぱり何回思い返しても聞き覚えのない名前だった。一体俺が彼女らにいつどこで何をしてこうなったのかは今だに疑問のままだ。
……まぁ、そのうち分かるかな。
布団の上に寝転んでそんなことをぼーっと考えていると、かすかに音が聞こえてきた。何かが小刻みに、かつリズムに乗って振動している音。
「あ、携帯」
その音はすぐに止んでしまったので、どこにしまったか忘れた俺はずいぶん探しまわるはめになった。
結果、学生かばんの中。灯台もと暗し。
やっと見つけた携帯電話を手に布団に座り、開いてみて驚いた。
「……おいおい」
なんと、不在着信五十件。未読メール七十件。
……ただならぬ予感。
恐る恐る発信者を確認。
「……やっぱり」
『母』という文字が画面に映る。
五十件すべて同じ発信者だった。次はメールをチェック。
一番上に『From:母 Sub:どういうこと!』と言うメールから始まり、あとは途中に父や妹からのが稀にあるだけで、それ以外は全部母さんからのものだった。
「……なんてこったい」
どうやら今日のビックイベントはまだ残っていたみたいだ。
やだなぁ~やだなぁ~すこぶる嫌だよ何だよこれ……
ブルルルルルル――
「うおぉ!」
ビックリした……着信、か。
携帯電話を開くと、画面には発信者の名前と番号が出ている。もちろん発信者は『母』だ。記念すべき五十一件目。
しかし電話っていうのはかける側とかけられる側の双方の合意があって初めて成り立つもので、逆に言えばどちらか一方がそれを承諾しなければ成立しない。つまり、俺にはこの電話に出るか出ないか、その選択をする権利がある。
ぶっちゃけ出たくない。いやだいやだいやだ――
ブルルルルルル――
俺がいるのを知っているかのように電話は震え続ける。
「……ふぅ、いつかは出なくちゃいけないんだから、出るしかないよな」
覚悟を決め、通話のボタンを押すとゆっくり耳に当てる。
「……もしもし?」
すると向こうからは何の返事もない代わりに、息を吸い込む音が聞こえた。
「へ?」
俺の頭上に疑問符が浮かんだ瞬間、とんでもない音量の声が携帯電話から俺の耳を通り抜けこの部屋を揺らした。
「あんたは今まで一体何をしていたのなんで何度も出電話したのに出ないの三階から落ちたってどういうこと!」
最初の「あ」という音は聞き取れたけどそれ以降は耳がキーンってなってよく聞き取れなかった。
思いっきり腕を伸ばした先からでも声が聞こえてくる。
「ちょっと聞いてるの! 何とか言いなさい! お母さんが納得できるように言ってみなさい!」
かく言う母さんの怒声にすっかり縮み上がってしまった俺は何も言えなかった。
「……そう! そうやって黙っているつもりならこっちにだって考えがあるからね! 今すぐ荷物をまとめなさい!」
「ちょちょいちょいちょい! それは待って! 話し合おう! そうすれば万事解決間違いなし!」
「ならちゃんと言いなさい! どうして今まで電話に出なかったの!」
どうする? 何て答えればいい?
「それは――」
「そんなことはどうだっていいの!」
「聞かないのかよ!?」
「どうせ嘘でしょう!」
はい看破。
「先生から連絡があったのよ! 三階から落ちたってどういうこと!」
な、なんだと……ちくしょうチクリやがったな。まぁ言わない方が問題か。
でもさすがにあれはどうやって説明したらいいか……美少女二人(と屈強な男たち)に追いかけられて仕方なし自分から飛び出した、なんて言ったって信じてくれないだろうし、それ以前に言いたくない。
「あれは……事故です。そう、廊下にバナナの皮が――」
「もういいです!」
「頼むから話を聞く姿勢だけは持ってくれー」
「とにかく、今すぐ荷物をまとめ始めなさい! もう一人暮らしなんてさせません!」
やばい、まだ一人暮らしを始めて数日しかたってないってのにもう存続の危機。何としてもこの暮らしを守らなくては。踏ん張り所だ俺!
「待ってくれ母さん! 確かに故あって三階からは落っこちた、だからってそれだけで約束を破るなんてひどいんじゃないか? それ以外ならちゃんと一人でも出来てるし、今回のことは大目に見て、もうっ一回チャンスくれよ! あ、いや、ください! ホント! お願いします!」
携帯電話に向かって全力で土下座。
くそう、テレビ電話にしておけばよかったぜ。
「…………」
あれ? 反応がない。
「……母さん?」
さっきと打って変わって完全沈黙。恐る恐る耳に近付けると――
ツー、ツー、ツー……
「切ってるしっ!」




