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絶対に死にたくない銀河皇帝庶子が戦艦を与えられたので給糧艦に改装したら、前線へ出ずっぱりにさせられた件。  作者: 英 慈尊
2章 惑星レクの騒乱

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イゾーロ・ヤマモト

「ほぉー、まさかまさか、よもやよもや、だ。

 イラコ君が、婚約をねえ。

 いやいやいや、皇子様という君のお立場を考えればあり得ることではあるが、それでも、20歳というのは早い早い。

 ただ、なるほど、物事には流れというものがあるし、ヨーギル王国とそれでよしみを結べるというのならば、これは大いに価値があると言えるだろう。

 ああ、いやさ。もちろん、イラコ君の幸せが第一であるとは思っているよ?

 ただ、これは悪く思わないでほしいのだが、元々、この惑星レクはフリーレーン自由商業同盟に属し、現在ジンバニア王立連合を構成する各王国と密接な交易を行ってきたわけでねえ。

 言ってしまえば、私たち世代の人間にとって、ジンバニア王立連合というのは、お隣みたいな感覚であるわけだ。

 当然、あちら側に知り合いなどもいたりするし、そことの戦火に終結の兆しが見えてくるというのはなんともめでたく、そのきっかけとなるのが弟子である君の婚約申し込みであるというのには、極めて運命的なものを――」


 俺が――正確には帝国が――シレーネさんに婚約申し込みをする件について説明するや否や、怒涛の勢いで400文字くらいの台詞を連打してくるイゾーロ先生である。

 衰え知らずなこの肺活量。あと十年は生きてくれそうで、嬉しいのやら、疲れるのやら、だ。


「――お爺ちゃん、お爺ちゃん。

 長い長い長い」


 そんな先生に、またもストップをかけるエステであった。いいぞ! この場で先生にんなクソ生意気な態度を取って許されるのは、お前だけだ!


「おおっと、済まないね。

 いや、私がおしゃべりなのはどうにも生来のもので、そういえばこの性質は孫のアルファードにも受け継がれてしまったようでね。

 この前などは、お土産屋のムラシタさんが――」


「――せ、先生にそう言って頂けると、私としてもほっとします」


 上機嫌なのは大変結構だが、このままだと3000文字くらい喋り続けられて何かが終わってしまいそうな気がするので、気合で口を挟む。

 こう、水着眺めただけで似たようなことをしたような気がしたりしなかったりする俺がいうのもどうかと思うが、何事も、程度というものが大事であった。


「……意外ね。

 あんたが、そうやって誰かにへりくだったりするの」


 ふと口を開いたのは、ディート。

 ラインストーンロゴ入りの半袖ピタTシャツに、ぶっといベルト付きのタイトミニスカートを合わせた我が愚妹は、根性で正座姿を維持しつつ、腕組みして俺を眺めていた。


「へりくだってるかあ?

 尊敬する人の前できちんと礼節を尽くすのは、ごくごく当たり前のことだろう?」


 なんでこいつ、んな面白くなさそうな顔してるんだ?

 いかにも不満ありげな愚妹に聞き返すと、こいつ、腕組みしたままそっぽ向きやがった。


「ふん! まあ、あんたもか・り・に・も第四皇子なんだし? 少しは師弟の礼ってやつがあるみたいね?」


 その上で、漢字混じりの「仮にも」ではなく、「か・り・に・も」と一文字ずつ区切って、仮にもっぷりを強調してきやがる始末。

 いつもなら、「はあああああっ!?」と縮れ毛を気持ち逆立てながら言い返すところだが、今日はぐっと我慢。

 そう、師匠の前で醜い争いを繰り広げない……それこそが、師弟の礼であるからですね。


「うふふー。

 仮にもイラコ様を産んじゃいましたー。

 ディート様ー。

 お立場を考えれば、イラコ様のことを面白く思えない気持ちはお察ししますー」


 一方、メイド服姿で先生の後ろに正座しながら口を挟んだのが、我がママ。

 すなわち、多分ディートの誕生よりコンマ一秒くらい早く俺を産み落とした人物である。


「うっ……」


 それで、露骨に苦虫を噛み潰したような顔となるディート。

 まあ、そりゃそうだ。

 俺とこいつが生まれてから間もない時期、こいつの母上であるフィリア様は、そりゃもう荒れてらっしゃったと聞く。

 宮内(くない)卿がバーコードハゲ化した一因である。


 そして、フィリア様が荒れた理由の第一は親父殿の浮気であり、第二がここにいるママの存在。

 そして、第一と第二の序列は容易に入れ替わり得るのが、女心の複雑さというものなのだ。

 あ、ちなみに理由の第三は俺自身の存在なので、フィリア様にはなるべく近寄らんようにしています。


「ですがー。

 ママが皇帝陛下とついハッスルしちゃったのが原因なわけでー、イラコ様に罪はありませんー。

 せっかく、同年同月同日同時間同分同秒に生まれた皇子皇女(きょうだい)なのですからー。

 どうか、仲良くしてくださいねー?」


「うっ……」


 長く伸ばした金髪のツーサイドアップ部分をくるくるといじりながら、露骨に目を逸らすディートだ。


「すごい。

 さすがはイラコのママ。

 ディート(ねえ)にすらママなっている」


「ああ、ママなってるな」


 近距離なのでまったく意味はないが、ひそひそと言い合う俺とエステ。


「ママなってるってなんなのよ。

 ともかく、あたしはエステに姉なってるので忙しいんだから、まあ……あんたの相手はほどほどにしてあげるわ」


「ディート(ねえ)、ご遠慮つかまつる」


「武士っぽく断られたっ!?」


 そんな中へ便乗し姉なろう(?)としていたディートは、無情な拒絶を受けて涙目となっていた。


「ところで、後から来る祖父……メケーロ・ビルケンシュトックからくれぐれもよろしくと言われているのですが、その……ヤマモト様は、祖父とお知り合いなのでしょうか?」


 一方、挙手して先生に尋ねたのが、マミヤちゃん。


「ああ……」


 スタジャンにショートパンツを合わせ、ストッキングを履いた足で正座する姿は、ヤマトナデシコスタイルで伸ばした黒髪にふさわしく、なかなか堂に入ったもの。

 理知的な翡翠の瞳を向けられたイゾーロ先生は、少しばかり真面目な顔となって、顎を撫でた。


「……まあ、知らない仲ではないね。

 うん、知り合いなのは間違いない。

 ただ、私は彼のことを悪く思ってはいないし、君にそのような言い方をしているということは、彼の方も悪感情はないだろうが……。

 ともかく、ここで語るようなことではないだろう」


 着流しの(たもと)同士を合わせた先生が、いつものマシンガントークではなく、ゆっくりと噛み締めるようにして答える。

 先生がこのような言い方をする時というのは、本当に、聞かせるべきではない時。

 ならば、今は別の話を……と思ったところで挙手したのが、スカートタイプのスーツで正座するシレーネさんであった。


「……よいでしょうか?」


「ん? おお、もちろんよいですとも。

 というより、挨拶が遅れて申し訳ない。

 あらためまして、イゾーロ・ヤマモトでございます。

 あなたが、ヨーギル王国の第一王女殿下ですな?

 イラコ君との件、誠にめでたい!

 いや、先にも申し上げました通り、生粋の惑星レク民……ことにイセタウンの人間というのは、ジンバニア側に好意的なものでしてな。

 もし、何かこの街でご不便がありましたら、なんなりとお申し付けください」


 パアッと顔を明るくさせて答える先生。

 歴史的経緯を考えれば当然といえば当然だが、現在敵対している勢力の王女に対し、めっちゃフレンドリーであった。

 あらためて、先生ってこの惑星っつーかイセタウンの出身なんだな。

 あんまり気にしてなかったけど、帝都星ティンゲルに招いて指導を受けてる間、そんなこと言ってた気もする。


「こちらこそ、よろしくお願いします。

 ……ところで! イゾーロ殿はイラコ殿下の師匠であるとか!?」


「……おお」


 ニヤリ、と。

 スゴ味を漂わせつつ、口の端を吊り上げるイゾーロ先生だ。


「いかにも、私が彼にM――」


「――和菓子作りをお教えになったと! さっき! イラコ殿下が!」


「……は?」


 目を点にする先生。

 一方、俺はストライプスーツ姿で腕組みし、うんうんとうなずく。

 お師……あなたの和菓子技術は、この俺が受け継いでおります。


「いやはや! イラコ殿下が作った羊羹はまさに絶品!

 あたしはアズキというものを初めて食べましたが、あのように甘く味付けし海藻で固めた豆のペーストが、かくも美味なるものかと感心すると共に、自分の不勉強さを恥じました!」


「え、ええ……」


 一つ結びにした亜麻色の髪を振り乱し、スーツ越しでもスッゴイと分かるお胸も揺らしつつの興奮した言葉に、やや引いた様子の先生。

 この方ほどの人物であっても、こうも真正面から褒められれば、照れることもあるということだ。


「うふふー。

 大変ですねー。

 和菓子作りの先生であるイゾーロさんー?」


 一方、俺のママはなぜか面白そうに事実確認していた。

 あらためて、こちらのイゾーロ・ヤマモト先生は和菓子作りの師匠。

 ついでに、M2の操縦技術と、ママから教わっていた暗殺拳を機体に反映させた戦い方も教えてくれた恩人である。

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― 新着の感想 ―
※勘違いではあるが、自身の臣下含めた隊員全員を足止めせしめたイラコの体術の師匠という地雷を本人から回避してくれてるので雨降ってなんとやらクラスで平和に進行できています。
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