モリーたちとのお茶会 2
「さあさあ、どんな飲み物でもオーダーしてくださいな。
メニューにないものでも、大概は用意できると思いますよ? ねえ?」
モリー婆ちゃんが執事さんっぽい人に語った通り……。
多機能なデジタルツールとしての側面を持つ円卓に表示されたメニューは、実に多種多様。
おおよそのソフトドリンク類どころか、アルコール飲料まで多数揃っている有様である。
しかし、しかし、だ。
このようなことを言われると、ちょっと試してみたくなるというか、底意地の悪さを見せたくなってしまうのがこの俺イラコ・ジーゲル。
「じゃあ、レモンティーをベースに適量のブルーベリー酢とフルーツシロップを混ぜ合わせ、ミントを添えたノンアルカクテルを」
「何それ美味しそう。わたしもそれにする」
ここのところ口をきいてくれなかったエステが、テディベアを抱きながら目を輝かせた。
さあ……どう出る?
「かしこまりました。
では、三名様とも同じカクテルでよろしいですかな?」
が、執事さんっぽい人の反応は平静そのもの。
この程度、無茶振りの内には入らない。
執事たるもの、この程度のことすらできないでどうします?
とでも、言わんばかりな態度だ。
強い……!
やっぱり、トランプとか武器にしそう(推定)な人は違うな!
さておき、蚊が鳴くような声で同意を告げたマミヤちゃんを始めとして、着席している各人がそれぞれ好みの飲み物や食べ物を告げていく。
その一つ一つを、メモすら取ることなく丸暗記しているようなのだから、色々と置いといてすごい人なんであろうことは間違いなかった。
あ、ちなみにフード類は俺もエステもポテチを頼みました。甘い飲み物には、やっぱりこれだぜ!
だが、俺の期待は若干裏切られることとなる。
――パチン!
……と、華麗なるフィンガースナップを執事さんが鳴らすと、ガラガラという音と共にフードワゴンとメイドさんたちが現れ、注文の品を並べていったのだ。
あ、この執事さんっぽい人が用意してくれるわけじゃないんすね。
さておき、各人の前にドリンクやお菓子は行き渡った。
楽しい楽しいお茶会の始まりである。
「それで、核心から聞いちまうけど。
モリー……あんた何者?」
ファジーな注文から完璧な配合で供されたノンアルカクテルのストローをグルグルさせつつ、初手でそれを尋ねた。
「あらあら、駆け引きも何もありませんこと」
一方、なんてことのないシニア向けワンピースを着たお婆ちゃんの態度は、余裕に満ちたもの。
見るからに適温だろう湯気の立ったティーカップ片手に、薄い笑みを浮かべてみせている。
「残念ながら、不意のご招待なんで打つべき駆けも引きも持ち合わせていないのさ。
んで、マジで何者なの?
俺も一応皇子様だし、財界の有力者とかは一通り頭に入れてるんだけどな」
パーティー会場では、挨拶しに来た貴族たちの見分けがつかなくなる失態を演じた俺であるが、あれは普段交流がない……言い方悪いけど有象無象に近しい立ち位置の初見貴族たちから、連発で挨拶されたのが原因。
ここにいる人らみたいに、普段から経済ニュースなどで目にする機会の多い人間であったら、いかに似たような年頃のおじさんたちでも話は別だ。
第六皇子連れて資金集めした時、情報収集もしたしな。
んで、そんな俺の知識をもってしても、モリーお婆ちゃんのような人物にはとんと心当たりがない。
つーか、あったら採用していなかった。
使った求人サイトは細かい情報登録なしで気軽に応募できるのを売りとしているが、それでも、応募者の顔写真くらいは載せている。
片っ端から「君は採用だ!」していたこの俺であるが、各々の顔くらいはチェックしていたのであった。
「……失礼、よろしいかな?」
挙手したのは、細身で神経質そうな銀縁メガネ――レオン・シュタイン。
眼鏡キャラの特権と言わんばかりにカチャリと眼鏡を鳴らした彼が、知的にしわの刻まれた顔でこう告げた。
「話が進まないので説明してしまいますが、こちらのモリーさんは、亡くなられた帝国貨物機構先代会長の奥方です」
「ほう……帝国貨物機構」
その言葉に、感心の吐息を漏らす俺だ。
同時に、まあそのようなオチだろうと、納得もする。
直接的に権威を振るう立場ではないため、若輩者の俺が顔と名を知らなかったとして、不思議はなし。
しかし、これほどの面子を集める実力があるとなると、有力者――もう死んでるけど――の妻だというのは、妥当に思えた。
で、帝国貨物機構っていうと……。
「イラコ、帝国貨物機構って?」
「ウィンバニア王国相手に現在の銀河皇帝陛下が革命を起こされた際、一緒に躍進した輸送の超大手だ。
確か、死去されたという先代は……」
えーと……どんなんだったかな?
ひょっとしたなら税金対策含めた施策だったんだろうけど、俺がガキの頃、亡くなった先代会長――つまりモリー婆ちゃんの旦那さんの立志伝を、連続テレビ小説でやってたと思うんだけど。
「辺境惑星の貧農出身であったと、そううかがっています」
「ああ、そうだ。それそれ。
んで、ハングリー精神で小型輸送艇による個人の輸送便から始め、一大流通ネットワークを築くに至ったと」
マミヤちゃんの言葉に、右手の人差し指を上げる。
あんま興味ないんで、歯抜けでたまに見ていたあのテレビ小説は、そんな筋書きであったと思う。
細かな内容そのものは――伝記物ではお約束とはいえ――相応に盛ったものだと思えたな。
テレビ小説内では綺麗な商売だけでイイ感じに成長していたけど、タイミングや現在の不自然なまでに強大な地位を考えると、親父殿たちに武器を横流ししたりのダーティなくだりが必ず存在したはずだ。
「てか、マミヤ少尉はよくそんなの知ってたな?」
「祖父が先代会長を題材にしたテレビ小説のファンで、再放送を一緒に見ていたもので……」
メケーロか、なるほど。
あの爺さんからすれば、まさに自分たちの青春時代を描いた作品だからな。
ケーキ屋潰しちまったから暇して、孫娘と一緒に再放送を見たりしていたのだろう。
さておき、これでモリー婆ちゃんの出自は分かった。
「苦労して一代で超巨大企業を築き上げた人物の連れ添い、か」
「まあ、それを言ってしまえば、現在の銀河帝国における有力企業のほとんどは、一代で成り上がっているのですけど。
帝国の前身となったウィンバニア王国は、それはそれは酷い特権的な社会構造と、搾取体制を敷いていましたから……」
目を細め、今ではなく、記憶に残ったかつての時代を眺めるモリー婆ちゃんだ。
俺が知る限り、語り伝えられている末期ウィンバニアの治世は、革命前夜のフランスか、あるいは滅びる直前の清朝といったところ。
誇張もあるにせよ、ろくでもないものであることは間違いないだろう。
ただ、そんな時代を思い返していて、意外なほど楽しそうであるのは、若く活力に満ちた年代の記憶でもあるからに違いない。
「うちの会社も母――ラドが父と共に立ち上げ、一代で巨大化させた会社ですからな」
くいっと眼鏡をいじりつつ語るレオンだが――ちょっと待って!
「え? ラドって……そうなの?」
老婆と思えぬ屈強な体をオーバーオールに包んだ、二房の白髪三つ編みが特徴のお婆ちゃん……。
アマテラスにおける動物たちのドン――ラドの姿を思い浮かべながら、問いただす。
そうだとしたら、似てねえ……!
「嘘などつきません。
父はすっかり腰が曲がって隠居生活ですが、母はまだまだ現役で牛やニワトリの世話をしたいと言っておりましてね。
そこへ、面白い求人があったというので、喜んで応募しておりましたよ。
私からも、あらためて母がお世話になっていること、お礼申し上げます」
そう言って、軽く会釈したレオンが皮切り。
「うちも母が……」
「こっちは、離婚した元妻が働かせていただいております」
「姉はなかなか活動的な性格でして、若い頃から軍艦に乗りたいと思っていた夢がかなったと言っていましたよ」
続々と行われる――カミングアウト。
あー……つまりだな。
彼らの共通点は、巨大企業のトップというだけではなかった。
親兄弟など、なんらかの近しい間柄にある女性が、アマテラスの一員として働いていたのである。
当然、偶然ではあるまい。
求人はあくまでもオープンに行ったが、全員が全員、目ざとくそんなものを見つけるはずもないのだ。
「当然、あたしがお友達の皆さんにお声がけした結果です。
そうねえ……。
アマテラスで働く婦人たちのうち、半分くらいはこういったご縁の方々かしら?
もう半分くらいは、本当にイラコちゃんの求人を見て魅力を感じた一般の方々ですけどね」
ほらね?
その証拠に、モリー婆ちゃんが普段は見せないイタズラっぽい……それでいて、キュートなウィンクをしてみせたのである。
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