大円卓の間にて 3
『さて、諸君……。
議論を再開しようではないか?
議題は、銀河帝国軍における女性用パイロットスーツのデザインについて、であったな?
――ベルトルト』
『――はっ!
ここに、資料を用意してあります』
大円卓の上座に位置する親父殿の立体映像が告げると、頼れるお兄ちゃんことベルトルトが、心得た顔で自身の携帯端末を操作した。
すると、いまだに投影されたままなクソエロパイロットスーツを着たシレーネさんの隣に、銀河帝国軍における正規の格好をした女性M2パイロットが投影される。
軍内に派閥を築いているベルトルトらしく、これはカタログのデータをそのまま引っ張ってきたんだろうな。
帝国軍パイロットスーツを着ているのは、茶髪を短めに整えたいかにも無個性な女性であり、マネキンやCGモデルへ着せるよりは多少マシといった塩梅だ。
だからというわけでもないが、こうして両者を並べてみると、銀河帝国側の完敗っぷりがよく分かる。
「布地はいかにも厚くて、装着者の動きこそ阻害しないものの、21世紀の船外作業服から受け継いでいるDNAが隠しきれていない。
その上で、生身の戦闘なども視野に入れているボディプレートが、ものの見事に体のラインを隠匿していますね」
『何しろ、有害な放射線などが蔓延している宇宙空間で貴重なパイロットを保護し、かつ、コストも抑えているパイロットスーツなのだ。
その上で欲を出し、生身での戦闘も視野に入れるとこうもなろう……というのは、言い訳でしかあるまいな』
俺の言葉に、親父殿が深くうなずいてみせた。
『ですが、これは明らかにワンオフの特注品。
その証拠に、これまで捕虜としてきた少数の例を見てみれば、我が方のパイロットスーツと変わらぬ代物です。
つまりこれは、シレーネ王女というクッソエロイ素材を目にしたパイスーの開発者が、パイをパイした究極のパイスーを目指して設計し、パイに目がない職人の手によってパイドクラフト――じゃなかったハンドクラフトされた至高の逸品なのではないでしょうか?
冷静に考えて、こんなもん着る人間によっては大事故ですし』
おそろしく冷静で的確な分析を添えてみせるベルトルトだ。
あんたを兄貴に持ったこと……誇りに思うぜ!
「結論が出ましたね……。
一部の美女美少女パイロットに対して、我が方も特注したパイロットスーツを支給するべきでしょう。
ただ、ジンバニアと同じ全身ピッチリタイプというのも、ちと芸がない上に、猿真似と言われそうで悔しくはありますが」
『イラコよ。
布地イコール色付きで考えるから、デザイン幅を狭めるのだ。
ここは思考を変えろ。
シースルー生地を使ったパイスーもありじゃないか、とな』
「兄上……!」
『よせやい……』
心から尊敬の念を込めた瞳で見つめると、照れくさそうに鼻の頭をかくベルトルトだ。
『よし!
ベルトルトよ! 後ほど、デザインコンペの企画を考案し、提出するのだ!
財務卿よ。
……予算に制限は設けぬが、よいな?』
『無論です』
親父殿の質問に、財務卿が当然うなずく。
かくして、この場における最も重要な議題は解決した。
みんな、心ゆくまでスクショを撮ったことであるし、オマケの話を解決する時だ。
『はい、じゃあね。マジメな話に戻るからね。
いいよね? クズ共』
『『『『「はーい!」』』』』
唯一このノリについてこなかった――チッ! イケメンめ! ――ペーター兄さんの言葉に、元気よく返事する俺たちクズ共だ。
『で、話を戻すと、イラコがそこの王女を娶るのに積極的かどうかという話だったわけで……。
これはもう、聞くまでもないね?』
「――え?」
断言するペーター兄さんの言葉に、思わず尋ね返そうとする俺。
だが、そんな俺の様子など眼中にないのか、次々と話は進んでいく。
『何しろ、あれだけえ゛っ゛っ゛な女子で年齢も近いのだ。
これはすでに、いかにして本能を抑えるかの戦いというものよ』
『うむ……。
まあ、あのふざけた再現VTRは眉に唾を塗って見ておいたが、ともかく、本人が自身で虜囚にした姫君なのです。
これをどのようにするかなど、我らが口を出すものではありますまい』
親父殿の言葉へ、腕組みしたベルトルトがうなずく。
いやいやいやいやいや。
おいおいおいおいおい。
それはそれ、これはこれだから。
確かに、大変え゛っ゛っ゛だとは思ってるけど、結婚がどうのというのは話が飛んでるし、あちらの意思があるし、そもそも、婚姻外交だけが外交というわけではないだろうに。
『情報局長としては、異議の挟みようもありません。
上手くいけば、今後あちら方面の情報を吸い出す窓口になり得る』
『外務卿としては、元より異議なし』
『財務を預かる者として、賛成』
『交易卿、賛成します。
ようやく、あちら方面への経済活動が行えます』
『広報卿としては、この件、大いに帝国へ役立てると言っておきましょう』
だが、そんな俺の考えをよそに、次々と賛成の意思が示されていく。
それでも宮内卿なら……!
人格に定評のある宮内卿ならば、やってくれる……!
『宮内卿として、イラコ殿下がこうも立派なオッパイ星人に育ってくれたこと、嬉しく思います』
ぶっ殺すぞバーコードハゲ。
速やかにこいつを血祭りに上げ、周囲があっけに取られている間に逃走。
絶対に死にたくない銀河皇帝庶子がお嫁を取らされそうになったので他国へ亡命してみた件編スタートを画策しているところで、救いの手が差し伸べられた。
『第二皇子として、反対させていただきます』
この場において唯一の真人間ことペーター兄さんが、堂々と言い切ってくれたのである。
やっぱり、頼りになるのは金髪サラサラヘアーの美男子だぜ!
バーコードハゲなんざ見苦しいから、今すぐ自害するべきなんだぜ!
手のひらをスクリュースピンペガサス狼牙返しさせるこの俺だ。
だから、ざわめくな俺の天然パーマよ。
敵は金髪ストレートにあらず……!
『だが、ペーターよ。
あんなにエ――』
『――11人も子供こさえといて、こじらせた童貞みたいなこと言ってないでください』
『……チッ、うっせーな。
よかろう。お前の意見を述べてみよ』
『承知しました』
頬杖をつく親父殿の立体映像にいささかも臆することなく、ペーター兄さんが立ち上がった。
そして、一同を見回しながら、こう言ってきたのである。
『では、そのために扉の前へ待たせている友人を中に入れたいのですが、皆さん、構いませんか?』
応じたのは、ベルトルトだ。
『この場が国家機密を扱っていること、分からぬペーターではありませぬ。
それが、このような提案をしてきているのです。
陛下、相応に考えあってのことかと』
『うむ、よかろう』
真面目なノリを取り戻したベルトルトの言葉に、親父殿の立体映像がうなずく。
『では、呼んでまいります』
許可を受けたペーター兄さんは、しばし離席し……。
五分ほどの間を置き、その人物と共に舞い戻ってきたのである。
「あれ、貴公は……」
エメラルドグリーンの宮廷服をビシリと着こなした精悍な青年は、俺にも覚えのある人物。
さして長くもない赤みがかった茶髪を、うなじの辺りで結んだ彼の名は……。
「テセス・ガスパーニ伯爵でございます!
私は! ジンバニア王立連合の隠密隊に、親族のことごとくを殺されました!
その立場から、イラコ・ジーゲル殿下と敵国の王女が婚約することに、恐れながらも断固反対を述べさせていただきます!」
この部屋に備わった拡声機能ではなく、生の声を張り上げての言葉……。
だからというわけではないだろうが、その言葉には、魂がこもって感じられた。
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