ディート・ジーゲル 中編
給糧艦アマテラスはその肩書きにふさわしく、生鮮食品の輸送及び菓子類等の製造、ならびにタバコ含む一部農畜産物の生産へ特化した特殊艦艇である。
いや、これはちょっとした語弊があるか。
より正確を期した表現にするならば、特化しているのではなく、それらしか能がない。
そもそも、前線で戦いたくない一心で改装案を出したのがこの艦であるのだから、レーザー機銃一基すらも備わっていない無防備さなのだ。
なお、ややこしくなるので、エステが勝手に付与していた面白変形合体機構の存在に関して、ここでは無視するものとする。
そんな動く白旗艦であるから、当然ながらM2の運用能力も本来は持ち合わせておらず……。
俺がただただ精神的安定のために持ち込んでいる愛機――タイゴンの格納庫は、ガランとしたただっ広い倉庫内に、野戦用のフォールディングハンガーを設置しただけという、なんとも粗末というか、最低限度の代物であった。
本来ならあってしかるべき、各種クレーンや重機類、動力配線テスターや放電設備に装甲パネル保管ラック、スタンド式粒子兵装調整台や弾薬装填リフトなどは、一切存在しない。
正直、現状で可能な整備というのは、各部の調整や部品磨き程度のものなのである。
そんなんでも、U字禿げの見本みたいに禿げ上がった白髪と赤鼻が特徴のフェラーリン爺ちゃんたち元メカニックチームは、確実により扱いやすくタイゴンを調整してくれたけどな。
「粗末な格納庫ね!
ただディスプレイすることしかできてないじゃない!
プラモデル飾るのと同じ感覚でいるの?
せっかくの機体が台無しね!」
ゆえに、空気注入と人工重力の設定が終わり、開かれた二重ハッチの先で、早くもベレンジャーの足元へ降り立っていたディートからそう言われた時、俺は珍しく言い返すことなく肩をすくめてみせたのである。
「どっかの目立ちたがりな第三皇女と違って、俺は別段、この機体で実戦をやるつもりはなかったからな。
ヴォルフ兄上があんなバカをやらかさなきゃ、こんな骨董品はディスプレイされ続けていたさ」
「はあん?
18メートルもある人型機動兵器持ち込んどいて、ただ飾り立てるのが目的ってわけ?
あんた、バカなんじゃないの?
大体、骨董品だなんて、せっかくの機体をバカにして!
部分的に旧式のパーツを使っているだけで、運動性や機動性はまだまだ現行の量産機に引けを取らないんだからね!」
「お前なんかに言われなくても知ってますー!
そっちこそ、暇さえあればガッチガチにカスタマイズしやがって。
急降下からブリッジを狙う姿勢になるまでの動きが、前よりコンマ二秒速くなっていたことは気付いているんだからな!」
「なによ!?」
「あんだ!?」
顔がイイのをよいことに、20歳にもなってロング金髪をツーサイドアップなんぞにしている妹と、がっつりデコをぶつけ合う。
お前、そんな髪型にして……。
これでもし似合ってなかったら、大事故なんだからな?
「ぐぬぬぬ……!」
「ぐぬぬぬ……!」
お互いの鼻息がかかるくらいの距離で、睨み合う。
「あの、これは本当に仲が悪いんですか?」
一方、そんな俺とディートの様子を見て、黒髪をさらりと揺らしながら、いぶかしげな顔をするのがマミヤちゃんだ。
「間違いない。
二人は龍と虎、あるいは双竜。
生まれたその瞬間から、相争う宿命」
エステ、お前……。
……分かっているじゃねえか!
「その通りだエステ!
この女と俺が仲良くすることなんざ、あり得ないね!」
「こっちこそ!
あんたみたいな黒髪天パと、同じ空気吸ってるだけでも吐き気がするわ!」
「天パは関係ねえだろ? 天パはよぉ?」
「「ぐぬぬぬぬ……!」」
「あらあら、お話が進まないこと」
漆黒の機体をハンガーに固定されている四つ目のM2――タイゴン。
ワインレッドの機体をOSのオートバランサーで直立させているベレンジャー。
両機の下で言い合う俺たちに割って入ったのが、白髪をお団子結びにしたかわいらしいお婆ちゃんことモリー婆ちゃんであった。
「皇子皇女仲がよろしいのは結構だけど、あまり自分たちだけの世界に入ってはいけませんよ?」
「む……確かに」
「さっきから全然話が進んでなかったわ」
年長者の話を素直に受け入れるのは、ディートの数少ない長所の一つだ。
突き合わせているデコを離した俺たち二人は、この格納庫に集まっている面々を見渡した。
あの後無事に宇宙港へのドッキングは果たしたため、マミヤちゃん、エステ、シレーネさん、メケーロ爺ちゃんにモリー婆ちゃんなど、いつものブリッジメンツを先頭とし、艦内で働くお爺ちゃんズとお婆ちゃんズが廊下に至るまで列を作っている形。
普段は24時間を交代制で回しているから、実際に235名の人員が集結するのは珍しいことである。
「それで、ディートちゃんでいいのかしら?
そこの赤いM2で、どうしてあんな乱暴な現れ方をしたの?」
そんな彼らの疑問を、先頭で代弁するモリー婆ちゃんだ。
まあ、ごもっとも。
どこの世界に、ドッキング中の味方艦へゼロ距離射撃パフォーマンスするバカがいるんだって話であった。
「ふっふっふ……。
お婆ちゃん、いいことを聞いてくれたわ。
それはね……」
待ってましたとばかりに笑みを浮かべたディートが、右手を上げる。
「……挨拶のためよ!」
そして、パチリと右手の指を鳴らしたのだ。
「な、何ぃっ!?」
驚愕する俺をよそに……。
「あ、間違って通知押しちゃった」
……左手で取り出した携帯端末をポチポチするディートだ。
「……お前、ふざけんなよ。
リアクションしちまったじゃねえか」
「うっさいわね。
アタシの動きに合わせたプログラミングは、難しかったのよ」
ヤイヤイ言いながら、はいテイクツー!
「……挨拶のためよ!」
「な、何ぃっ!?」
パチリと指を鳴らすディートと、ちょっと食い気味に驚愕する俺。
そんな俺たちを見下ろすベレンジャーに、変化が起きた。
あらかじめプログラミングした結果――もっとちゃんとやれ――だろう。
右手で保持したまま下げていた大型粒子狙撃銃の銃口を、俺たちの方へ向けてきたのだ。
チャージされていた灼熱の重金属粒子を撃ち放ち、パイロットであるディートもろとも俺たちを消滅させようというのか?
そうではない。
ベレンジャーは左手で狙撃銃のエネルギーパックを引き抜くと、倉庫の床にそっと置いたのである。
つーか、一見すれば粒子兵器用の弾倉にしか見えないこれは、実のところ……。
「えーと、パスワードっと……」
人間ほどもある大きさのパックに歩み寄ったディートが、同調中の携帯端末で解錠操作した。
そう、エネルギーパックに見せかけていたこれの正体は、ちょっとした貨物コンテナ!
中にギッシリと収められていたのは……これは……これは……!
「……帝国バナナだとっ!?」
わなわなと肩を震わせながら、ブツの名を叫ぶ俺だ。
菓子箱を包み込む包装紙は、漆黒。
そこへクレヨン画風に描かれているのは一本のバナナで、房部に赤いリボンが巻かれていた。
右下に印刷されている菓子名こそ、そのものズバリ――『帝国バナナ』!
その横に添えられている「見ぃつけた」というフレーズが、何やらわけもなく嬉しい。
そう……これこそ、我らが銀河帝国の誇る銘菓『帝国バナナ』。
包装紙に描かれている絵だけだと果物のバナナが入っているのかと思うが、この中にはとっても美味しい土産菓子が詰まっているのだ。
ちなみに、コンテナへギッシリと収まっているのは、お一人様でも食べきりやすい四個入りだな。
「お爺ちゃん、お婆ちゃんたち……。
うちのイラコが、いっつもお世話になってまーす」
「おお、こいつは嬉しいねえ」
「まあまあ、ありがたいこと」
コンテナから帝国バナナを取り出したディートが、次々とお爺ちゃんお婆ちゃんに配っていく。
やがて、廊下にまで列を作っている爺ちゃん婆ちゃんズの側が、コンテナまで取りに行く形となり……。
アマテラス内の倉庫は、にわかな帝国バナナ配布所と化したのである。
作者「こいつら、どっちがS〇X強いか聞いたらその場で致しそうだな」
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