到着! 惑星レク!
「全長約200キロメートルの蜘蛛の巣か……。
こいつを見ると、人類のすごさってやつが、まざまざと感じられるなあ……」
ブリッジ内の全員から見えるよう、街頭ビジョンのごとく正面に据えられた巨大モニター……。
給糧艦アマテラスブリッジのメインモニターへ映し出された惑星レク宇宙港を見ながら、ここを訪れる度に抱く感想を呟いた。
ところで、銀河帝国軍の艦船は高度にモジュール化された構造をしており、艦種に関わらず共通したブリッジを使用している。
では、具体的にどんな感じかというと、最後尾中央にキャプテンシートがドーン!
前方中央に操舵手のシートとコンソール、左手に同じく通信士のそれ、右手に砲手の席という具合であった。
ただし、この給糧艦アマテラスにおいて、砲手席が使われることはない。
何故ならば、親父殿から与えられたベース艦を現在の姿に改装する際、レーザー機銃の一つたりとも装備しなかったからだ。
ゆえに砲手用のシートとコンソールは遊ばされている状態であったが、さすがに通信士と操舵手の席は埋まっている。
ただし、こちらも本艦特有の事情により、着座しているのは通常考えられる人員ではなかったが……。
「港側とのガイドレーザー連結確認。
あとは、メケーロさんの腕の見せどころですよ?」
通信士のシートで、ドッキング時における各種手続きを終えてくれたのが、白髪をお団子結びにしたかわいらしい老婆ことモリー婆ちゃん。
ありふれたシニア向けワンピースを上品に着こなした彼女は、今日もニコニコと、見る者が安心する微笑みを浮かべていた。
あー……癒されますわ。
この艦も随伴するクシナダも、乗ってる人員は色んな意味でヤベーのばっかだから、お婆ちゃんチームは貴重な癒し枠である。
「ハッ……!
ご丁寧にガイドレーザーで接続までされちまっていたらな。
おれの残っている目が潰れたとしても、失敗のしようがねえさ」
そう言いながら、ステアリングを巧みに操ってみせるイケメンジジイが本艦の操舵手――メケーロ爺ちゃん。
ジーンズにシャツ、ベストという俗に言う木こりファッションをした彼の特徴は、長く伸ばした茶髪が顔の左半分を覆っていること。
その下に隠されているのは、左目を惨たらしく潰している稲妻状の古傷……。
メケーロ・ビルケンシュトックという名は知らずとも、彼がかつて周囲から使われていた呼び名を知らぬ兵士はそうそういないだろう。
その呼び名こそ――サンダーアイ。
正直、若干のダサさを感じざるを得ないド直球なネーミングであるが、ニックネームや二つ名とは、元来そういうもの……。
それに、実際に彼を相手取ったのならば、光どころか眼球そのものが失われている左目の古傷から、それこそ稲妻に打たれたかのような殺気混じりの視線を感じられるはずだ。
人間という生き物は、必ずしも五感によって情報を得るわけではないのである。
まあ、そんな彼も引退して久しい。
脱サラ開業の飲食店よろしく、傭兵引退後に始めたケーキ屋さんをものの見事に潰した結果、老後の時間をもて余し、今は本艦の操舵手をやってくれていた。
口笛なんぞ吹きながら片手ハンドルでドッキング作業する様は、完全にショッピングセンターの駐車場へ愛車を停めるお爺ちゃんだな。
「久しぶりに本物の太陽光が浴びられる。
イラコ、時間ができたらバーベキューしたい」
いつも通り俺の膝に座ったエステがテディベア型の端末をいじると、右側のサブモニターの一角がウィンドウで切り取られた。
そこに映し出されているのは、この惑星レクへ恵みを与えし恒星プロク。
当然、俺たちの目に悪影響が出ないようフィルタリングされた映像であるが、それを置いても、本物の恒星が放つ光には神秘性を感じざるを得ない。
実用化された核融合炉にプラネット・リアクターなどという名前をつけてイイ気になっている俺たち人類であるが、この宇宙を構成する様々な自然現象からすれば、いまだちっぽけな存在でしかないのである。
そんなちっぽけな俺だから、なぜかエステの手元にある端末でブリッジの機能が掌握できていることに関してはつっこまないぞ! 今更だし。
にしても……。
「珍しいな、お前がそんなこと言うなんて。
帝都星で暮らしてた時は、バリバリのインドア派だったじゃねえか?」
あちらにおけるエステの暮らしぶりが、思い起こされた。
忘れがちだが、このふてぶてしいツラした銀髪ツインテールっ子は銀河帝国が誇りし天才児。
現在帝国が主力人型機動兵器として運用しているドンナーを始め、戦艦用の新型リアクターなど様々な新装備や新技術を開発している。
そんなこいつのラボは軍の研究施設内に存在するため、俺は毎朝こいつを起こしては身支度整えてやり、車で送迎してやっていたものだ。
行き先は、常に研究施設と皇城。
ただひたすらに、二つの地点を往復する日々。
どっか途中でよってみるかと問いかけても、一言「別にいい」と答えながら助手席で携帯端末にアニメを映していた。
そんなこいつが、バーベキューなんて言い出すとはなあ。
「やっぱり、長いこと戦艦で暮らしていると、アウトドア的なものにも食指が動くのか?
ポイント203の兵士たちも、アマテラス艦内の農業プラントを見学しただけで、それなりに癒されてたみたいだし」
「別にそういうわけじゃない。
最近見たアニメでバーベキューしてたから、わたしもやりたくなった。
いわゆる再現系推し活」
「推し活かあ。
まあ、なんにせよお前がアクティブなことに興味持ったなら、俺は嬉しいよ」
「ん……イラコは、わたしに新しい水着を買うべき」
「んあ?
まあ、そんくらい別にいいけど」
水着かあ。
まあ、この惑星レクは、銀河帝国の一部となる前からシーアクティビティ産業に力を入れてきているし、関連するショップも当然ながら沢山ある。
こいつは自分から洒落っ気のある格好をすることは少ないし、一つ、お洒落な水着を見繕ってやるのもいいだろう。
「そういうことなら! わたしもご一緒します!
女性用の水着ショップは、色々と殿方には分からないマナーもありますから!
ね!? イラコ殿下! ね!?」
なんか、ものすごい勢いで横から挙手してくるマミヤちゃんだ。
マナー……。
マナーか。
確かに、モノがモノだけに色々とありそうな感じはした。
ドラマとかで水着の試着イベントがあるけど、冷静に考えてあれは直で着てるわけじゃなく、なんか下に装着してるだろうし。
そうなると、俺は無力だな。
ショップ側に品を持ってこさせるとか、ショップそのものを貸し切るとかできなくはないけど、そこまで売り上げに貢献する気もない。
「んじゃ、マミヤ少尉の力も借りようか」
「――なっ!?」
「任せてください!」
膝の上で愕然とするエステと、むんと拳を握るマミヤちゃんはさておき、背後に振り返る。
「と、目の前で遊びの予定を立てて申し訳ないが、シレーネ殿下には上陸後、少しばかり窮屈な思いをして頂くことになる。
と、いっても、軍艦の中よりは開放的かもしれないが……」
嘘である。
あからさまに手錠かけたりはしないだろうが、ホテルのスイートへ軟禁し、SPが固めるスタイルとなるだろう。
ジンバニア王立連合を切り崩す大事な交渉材料だからな。
間違っても、今みたいにジャージ姿であちこちウロウロし、牛のお世話を学んだりすることはあるまい。
「覚悟はしている。
というより、ここまで自由に過ごさせてもらったのが、望外な扱いだ」
目をつぶりながら、肩をすくめてみせるシレーネさんだ。
たったそれだけの動作でこうもゆっさりと胸部が動くのだから、さすがの大質量というしかない。
まあ、あまり窮屈な思いをさせないよう、俺から関係筋に口をきいておくかね。聴取はあるだろうし。
そんな風に考えるのも、ようやく惑星レクへと到着し、やや浮き足立っていたからだろう。
「――ッ!?」
灼熱の鉄骨を突き刺してくるように熱く鋭利な殺気は、完全に俺の不意を突いていた。
「メケ――」
「――間に合わん!」
俺と同様に殺気を察知したメケーロ爺ちゃんだが、言葉通り間に合わない。
さながら――赤い霹靂。
メインモニターへ大写しになったのは、宇宙を割く雷光のように飛来した赤い人型だ。
真紅のM2が得物としているのは、大型の粒子狙撃銃。
子供向けの玩具じゃあるまいし、宇宙戦艦のブリッジというものは、間抜けに外部へ突き出たりはしていない。
だが、赤い機体が向けてきている銃口は、確実にこのブリッジ部を貫ける射角であった。
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