姫様、尋問の時間です。 前編
細かな内容に関しては一任しているため、マミヤちゃんがどんな台本とメッセージを送ったのかは分からない。
しかし、これを受け取った火力艦ヴェルダンディのクルーたちは、副官ロリンチを始め一斉にヴォルフへ反旗を翻し、心神喪失の療養という名目で実質の軟禁状態に陥れたというのだから、確かな仕事ぶりと言うしかない。
……しかも、ロリンチ少佐は男泣きしながら俺に跪き、忠誠を誓ってたからな。
下手すると自分だけでなく、一族郎党にまで及びかねない裏切り行為を俺が握り潰してやったというのがあるとはいえ、マジでどんな風に口説いたんだろう?
まあ、いいや。
惑星レク到着後にヴォルフを療養させ、大破したヴェルダンディは修復と改造の後、俺の指揮下に移動。
アマテラス同様の給糧艦となって、別方面で同種の任務に就く……。
この進言は、すでにタキオンネットによる通信で承認を得ている。
ヴェルダンディの医療長は、レク到着後にそれをやりたかったみたいだけどな。
何事も、早め早めにやっておくものだ。
今回の場合、ヴェルダンディのクルーたちに主計教育や調理教育、製菓教育を施すための人員手配をする必要があるし……。
何より、第三皇子であるヴォルフの失脚をさっさと規定路線にすることで、他の皇子皇女がどう動くかを見たいからな。
というわけで、ヴォルフと大破したヴェルダンディの件に関しては片付いた。
ヴェルダンディの改造案作成をぶん投げられたエステはややむくれていたが、俺に黙って謎の変形合体機構をアマテラスに盛り込んだ罰である。
今になって思うと、お披露目の時に驚いた風なのはブラフだったな? あんな面白ギミックを盛り込んだ以上、情報は正確に掴んでたはずだ。
それに、ヴェルダンディもベース艦を同じくしている以上、本来のアマテラス艤装案をほぼ流用できるだろうし。
あー、せいせいした! 大きな問題が片付いて気分いいぜ!
余りものの羊羹でブレイクだーい……と、いかないのがつらいところ。
そう、問題はまだ残っていた。
そして、その問題さんは今、机を挟んで俺に鋭い視線を向けていたのである。
「……」
「……」
お互い、沈黙し合う。
相手は、いまだ少女期から脱却し切れていない年齢の女性だ。
多分、マミヤちゃんより少しだけ年上。
亜麻色の髪を一つ結びにしていて、モデル的な顔立ちの美人である。
いや……モデルは無理かもしれないな。
なんでかって?
あまりにも、豊満なボディをお持ちであそばされるから。
もうね。ボン! キュッ! ボン! よ。
俺、あんまり詳しくないんだけど、モデル系のお仕事って、お胸やお尻が大き過ぎるのもかえってよくないんでしょ?
だとすると、彼女の体つきはあまりにその禁則事項へ抵触し過ぎているのだ。
そして、ここで一つの問題があった。
何故、俺が彼女のプロポーションを、ここまで事細かに把握できているのかという問題だ。
別段、脱がせたわけではない。
また、身体検査はお婆ちゃんたちがやってくれているため、触診で理解したわけでもなかった。
では、どうして、彼女の起伏に富みまくったボディに関して、そうであると分かっているのか?
それは……彼女のパイロットスーツが、あまりにもピッチリと体へ張り付いた造りとなっているからである!
いや、もうね……どんな素材使ってるのか、是非、販売元へ問い合わせたい。
極薄な布地は、皮膚の上に張られた皮膚という感じで衣類としてあまりにも心許ない上、白一色というカラーリングのため、下の肌色が透けてしまいそう。
もちろん、胸の突端や股部の先端など、極めて重要でセンシティブな箇所は形が明らかにならないようガードされているわけだが、むしろそれが想像力をかき立てた。
この際だから、ハッキリ言ってしまおう。
え゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙!
え゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙ど゙っ゙っっ゙゙っ゙っ゙!
え゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙!
え゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙!
捕゛虜゛に゛し゛た゛敵゛パ゛イ゛ロ゛ッ゛ト゛が゛ス゛ケ゛ベ゛な゛格゛好゛し゛て゛ま゛す゛っ゛っ゛っ゛っ゛っ゛!゛
え゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙!
え゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙!
……ハァ、ハァ。
色んな意味でハァハァ。
ああもう、本当にこれ、どうなってんの?
誰がどういう意図で発注してどこがデザインしてどうして製造しちゃってんの?
こんなんね。もう、頭チ◯ポ野郎のお仕事ですからね。
見つけたぞっ! 宇宙の歪みを!
ジンバニア万歳!
「ふうぅん……」
「……」
鼻から漏らす息が荒くならないよう注意しながら、ガン見し続ける。
唸れ! 我が海馬よ!
今こそ燃え上がれ! 俺の大脳皮質!
眼前にある光景を、余すことなく記憶として刻みつけるのだ!
と、いうわけで……。
捕虜にしたジンバニア王立連合M2隊隊長について、現状、分かっていることは二つ。
一つ目は、煽り目的の通信で明らかになっているその名前――シレーネ。
そして、二つ目は……めっちゃエロい格好してることである!
え゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙!
え゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙!
え゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙っ゙!
椅子に座ったまま、少しケツをズラして足を組む。
もちろん、股間を誤魔化すためであった。
--
なんという――眼力。
まるで、じっとりとした圧力で全身の細胞が包みこまれているかのようだ。
着席して粗末なテーブルを挟むなり、一言も発することなくこちらを注視する青年の様子に、シレーネは本能的な恐怖を感じていた。
あまりにも……。
あまりにも、眼光が鋭すぎる。
まるで、シレーネの一挙手一投足を決して見逃すまいとしているかのようなのだ。
そんな青年の姿で特徴的なのは、アジア系のハーフなのだろう……黒髪が、天然気味なパーマとなっていること。
そして、着用している帝国軍士官服に、襟章など階級を示す飾りが存在しないことだ。
まさか、なくしたというわけでもあるまい。
先の戦闘時における名乗りを信じるならば、十把一絡げな階級でまとめることなど不可能な立場の人物なのである。
銀河帝国第四皇子――イラコ・ジーゲル。
たった一機で……しかも、無手での出撃によって完全武装したM2一個中隊を全滅させた怪物が、今、足組みした状態でシレーネを見据えていた。
怪物……そう、怪物という呼び名がふさわしい。
こうして生身で対峙して、あらためてそう思う。
普通、尋問するというのならば、何かを問いかけるなり、あるいは暴力へ訴えるなり……アクションと呼ぶべきものがあるだろう。
この青年に、それはない。
ただ、一言も発さず視線を注いでくるだけだ。
その表情は、感情というものが一切感じられない鉄面皮。
にも関わらず、瞳には機銃座から放たれるレーザーもかくやという熱量が秘められているように思えた。
「……」
冷や汗が首筋をつたうが、シレーネはただ黙ったままだ。
自分は決して――屈さない。
名が知れている以上、身分を察される可能性はあるが、そうだとしても、何も話すつもりはなかった。
だが、この意思を貫けるか……?
この皇子はこうしながらも、恐るべき拷問法を考えているかもしれないのだ。
そして、第二次世界大戦の昔から、通商破壊を実行する部隊の人間など、どのような扱いをされても文句が言えぬ立場なのである。
「――失礼します」
コン、コンという音と共にドアが開かれたのは、その時。
そして、逆光を背にした少女が手にしているのは、奇妙な品の載せられたトレイであった。
ジャパニーズ式のティーカップは、分かる。
だが、それとは別に載せられた皿の上。
四角い……黒いゼリーのようにも見えるそれは、一体?




