タイゴン 後編
β小隊の小隊長機が撃墜されたその瞬間……。
シレーネの背筋を駆け巡ったのは、ぞわりとした悪寒であった。
脳に言葉として出力されるのは、この一言。
こいつは……一体、なんだ?
見たことのない機体であり、皇族という出自も考えれば、間違いなく高性能なカスタム機である。
また、機体のシルエットや直前のパフォーマンスじみたカンフー・フォームを見れば、運動性能に特化した調整であることは、一目瞭然であった。
そう、一目瞭然。
ゆえに、誇り高きジンバニアの騎士であるならば、それを前提として相対する。
実際、通信越しで言葉をかわすシレーネも、敵機の機動力はこのピノキオに対し、二割増くらいはあるだろうと見積もっていたのだ。
あまりに甘い目算であった。
黒いM2の機体性能に対する読みが、ではない。
イラコ・ジーゲルという敵パイロットに対する見立てが、だ。
この男、モノが――違う。
β小隊長機の射撃に対し、黒いM2は機動力に任せて回避するのではなく、揺らめくようなフェイントの挙動をいくつも入れている。
それが、人間であるこちらの脳を揺さぶり、翻弄。
結果として、実際のパフォーマンス以上の圧倒的スピードとして知覚されたのだ。
つまり、このイラコというパイロットは……。
こちらの動きを、考えを、掌握している!
『よくもーっ!』
その証左となったのが、隊長機を失った残るβ小隊二機との攻防。
β小隊の二機は、黒いM2の下方から、交差する形で粒子小銃の射撃を見舞った。
教本通りの連携射撃を、黒いM2は回避――しない。
二条の荷電粒子ビームが交わる交差点に、頭部のもぎ取られたβ小隊長機を蹴り飛ばしたのだ。
『があああーっ!?』
それが、β小隊長の断末魔。
灼熱の重金属粒子は、ピノキオの機体表面に張られた電磁シールドをたやすく貫通。
機体中枢を撃ち抜き、リアクターの爆発を発生させたのだ。
『隊長!』
『しまった!』
結果として味方を撃ってしまったβ小隊二機であるが、動揺して動きを止めたのがまずかった。
黒いM2はβ小隊長機を蹴り飛ばす際、ついでとばかりに右マニピュレーターから粒子小銃を奪っていたのである。
そして、戦争を効率的に行う人類の知恵として、M2の武装は――銀河共通規格。
『――あ』
あまりに呆気ない声と共に、荷電粒子ビームに直撃した一機が爆散し、無重力空間ゆえの火球となった。
そして、黒いM2は粒子小銃を手放しながら、たった今、自分が撃墜した機体の火球へと突進したのだ。
『『『――な!?』』』
これには、残るピノキオ各機も意表を突かれる。
だが、それこそがイラコの――狙い。
奴が駆る黒いM2は、火球を挟んだ対角線上――最後のβ小隊機へと、猛進を果たしたのだ。
β小隊機からすれば、火球が遮蔽となって黒いM2を隠す形。
無論、M2のリアクターが爆発して発生している火球なのだから、これに突っ込んでは黒いM2とて無傷では済まない。
だから――地を這う蛇のような動きでスレスレを突っ切る機動。
もはやこれは、名人芸。
機体の挙動を完全に制御せしめる凄腕にしかできないマニューバだ。
火球の放射熱を防いだ黒いM2の電磁シールドが、バチバチと火花を散らす。
黒いM2はそれに構わず、対処の間に合わないβ小隊機に――取り付いた。
β小隊機の頭部を両脚で挟み込み、そのまま回転を加えながらもぎ取ったのだ。
しかも、そうしながらβ小隊機の背面を取り、ダラリとぶら下がった粒子小銃に手を添えている。
β小隊機の粒子小銃が向いた先にいるのは――別の僚機。
銃口から放たれたビームは、大昔のアニメーションに出てきそうなチープさ。
しかして、その実態は灼熱の重金属粒子だ。
『――うおっ!?』
意表を突かれる形でこれを食らった僚機は、電磁シールドによる防御もむなしく爆散。
そのまま粒子小銃を奪った黒いM2は、たった今首をもいだ機体に、トドメのビームを放つ。
生じた火球を背に、流れるような回避マニューバを見せた黒いM2は、さらに射撃姿勢へ移行する。
左膝は、大きく折り曲げ……。
右脚は、ピインと伸ばす。
左腕は、脇で固く引き絞られ……。
粒子小銃を手にした右腕は、一切のブレなくジンバニアのピノキオたちへ向けられていた。
なんという美しい――射撃姿勢。
特徴的な四基の頭部カメラアイが、猟犬のごとき光を放ったように感じられる。
そのまま放たれるは、四連射。
一撃必殺とは、まさにこのことだろう。
ようやくにも射線を確保し攻撃へ移ろうとした残る僚機たちは、それぞれ荷電粒子ビームで真芯を突かれ爆散していったのだ。
彼らには、悲鳴を上げる暇すらなかった。
これはもはや、射撃というより予知。
敵味方の未来位置を完全に掌握していたイラコは、念入れの回避マニューバも入れつつ、ジンバニアの機体が入ってくるだろう箇所へビームを置いていたのである。
「な……あ……」
シレーネは、間抜けな声を上げるしかなかった自分に今更気付く。
戦闘というものは、一分一秒を争うもの。
ゆえに一連の攻防は、ほんの数分であったはずだ。
たったそれだけ。
ただそれだけの時間で、シレーネ機を除く八機のピノキオが撃墜されたのである。
何より驚くのは、自分の行動。
いや、これは――何もしていなかった。
部下たちはそれでもなんとか攻撃を加えようとしていたというのに、シレーネはフットペダルを踏み込むことも、コントロールスティックを傾けることもしなかったのだ。
ただただ、呆けていただけ。
圧倒的な敵の技量に魅せられた自分を、認めずにはいられなかった。
そして、その先の行動は、自分に……死んでいった部下たちに対する言い訳。
「……おおおっ!」
シレーネのピノキオは、内部で吠えるパイロットの意を受け、黒いM2に突貫する。
同時に放たれるのは、フルオートによる荷電粒子ビームの連射。
だが、そんなものがこの相手に通用するはずもなく……。
回避するのではなく、ビームとビームの間を縫う形で距離を詰めてきた黒いM2が、シレーネ機の頭部をもぎ取った。
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「あー……怖かった」
タイゴンのパワーに任せてもぎ取った敵隊長機の頭部を投げ捨て、つぶやく。
思うのはただ、このことだ。
「この程度の腕前で前に出て……死ぬのが怖くないのか?」
揃いも揃って――弱過ぎる。
赤子の手をひねるかのような……ってやつだった。
「まあ、何に価値を見出すのかなんて、人それぞれだけどさ。
命あっての物種だと思うぜ、俺は。
大事にしないから、ぶっ殺されるんだ」
完全に無力化され、脱力し宇宙を漂う敵隊長機に告げる。
通信切ってるし、聞こえないだろうけど。
……彼女だけトドメを刺し損ねたな。なんか、ものの流れで。
まあいいや、女を殺すのは気分が悪いし。
それにしても、だ。
「正直、大活躍してちょっと気分はイイな」
とんでもなくイイ気になっている自分がいるのを、自覚していた。
だが、それもいいだろう。
皇族一の三枚目の名を欲しいままにしているイラコちゃんであるが、たまには格好つけたい時があるのだ。
あれですね。
もし、今、インタビューとかされたら、「え? 俺、何か殺っちゃいました?」って答えるね。
今ばかりは、どれだけ格好つけても許される時。
スーパーなヒーローのタイムである。
次の瞬間、「なんやて⁉」と叫びながら変顔リアクションを晒すことなど、決してあり得ないのだ。
そして、いよいよヒーロータイムの〆に移行する時……。
残された敵は、大物だ。
「さて……あとは隠密艦か。
さすがに、艦艇レベルの電磁シールドだと、このタイゴンでは厳しいけど……」
それでも、二手三手、浮かび上がる手段はあった。
さて、どれで料理してやろうかしらん……と、思いながらカメラアイを向けた時、それは映ったのだ。
『『『『完成! アマテラスオオカミ――サンダー!』』』』
そう、みんなもご存知。シールド艦クシナダが上半身、給糧艦アマテラスが下半身となって完成する超巨大スーパーロボット、アマテラスオオカミ・サンダーが合体完了し、機体各所からスパークを放っていたのである。
………………。
…………。
……。
「――なんやて⁉」
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次回、合体プロセスをもう一度見てみよう。
アマテラスオオカミ「お待たせしました。本当の主役機です」
タイゴン「アイエエ……」
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