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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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永遠なる世界で

「ジャンヌッ!」


 ソロがジャンヌの名を叫び呼ぶが、ジャンヌは動かない。エルドレッドとジャンヌは、肩口から胸を通り、腹までを互いに切り裂かれていたが、不死身であるエルドレッドの方に軍配が上がったらしい。ジャンヌの超再生回復能力をもってしても、そのダメージはゼロには出来ないのだ。


「っく、ククク……ハハハッ!やった、勝ったぞ、この僕が!ムラクモよ、誇るがいい!君が選んだ僕こそが、創星者に導かれし究極の超越者となったのだ!」


「そんな……ジャンヌが……」


 ソロはジャンヌの元へ駆け寄りたかったが、ジーナに撃ち抜かれた傷が癒えていない今、動く事はできなかった。それ以前に、意識を失っているジーナを手放す訳にもいかず、ソロはただジャンヌの名を呼び続ける事しかできそうにない。


 少しの間、しゃがみ込んでいたエルドレッドは、おもむろに立ち上がるとジャンヌの元へ歩き始めた。トドメを刺すつもりかとソロは緊張したが、意外にも、エルドレッドはジャンヌの手からハバキリを拾い上げて叫ぶ。


「さぁ、この僕の元で一つになるがいい。天のハバキリと地のムラクモよ……お前達が雌雄を決した今、真の姿に戻るのだ!」


「一つに……?一体、何をする気だ」


 ——ああ、ジャンヌ。ごめんなさい、私があなたを見出したばかりに……せめて、生きて、生き延び、て……


 ハバキリの声がかすれていくと同時に、ムラクモとハバキリはエルドレッドの魔力を受けて、強烈な光を放ち始めた。そして、その輝く二振りの刀を、エルドレッドは一つに重ね合わせていく。やがて光が消えると、ハバキリとムラクモは全く別の、一本の刀へと変化していた。


()()()()()()……!これが、ハバキリとムラクモが一つになった、本当の姿だ!これを持つ者こそ、創星者が求めた戦士の証……ククク、遂に僕は、この(せかい)の覇者となる資格を得たぞ!見るがいい、バーソロミュー!この、圧倒的な力を!」


「うおおおおっ!?」

 

 エルドレッドがクサナギを軽く振るうと、その剣閃は地面を切り裂き、ベヘモトの大顎の外まで届くほどの風穴を開けてみせた。身動きの取れないソロは、崩れて来る天井の岩に身体を打ち付けながらもジーナを庇う。その時、エルドレッドの足元から、わずかに魔力の流れが感じられた。つながっているその先は、あの門の向こうである。


「ぐっ、エルドレッド。まさか、お前は……」


「ふ、気付いたか?そうだ、僕はお前達が来る前に、既にカタストロフを手に入れていたのさ。カタストロフの正体は、運命すら改変しうる凄まじい魔力の集合体だ。それだけの力を手にした僕に、ジャンヌ・パルテレミーが勝てるはずなどなかったのだ!」


「カタストロフ、を?しかし、あれは銀の魔女ですら……」


「そうだ。荒れ狂うカタストロフという力を制御する為には、力そのものを落ち着かせる必要があった。しかし、その為のジーナ、いや、彼女の加護だったんだよ。彼女の調和(ハルモニア)は、暴虐に荒れ狂う力でしかなかったカタストロフを安定した状態へ変え、それを維持してくれた。君達の茶番を見ていたのも、もはや彼女が用済みだったからさ。残念だったね」

 

 勝ち誇るエルドレッドの言葉に、ソロは絶望していた。これではあまりにも、ジャンヌが哀れだ。いかに大逆転があろうとも、カタストロフの力を利用していたエルドレッドに勝てるはずがない。不死身の肉体に、カタストロフという魔力の供給源、この二つが揃ったエルドレッドは無敵の存在だ。さらに今、エルドレッドの元には神剣クサナギという究極の武器までもが握られている。仮にもし、ジャンヌが立ち上がったところでどうする事も出来ないのだ。ソロは薄れ行く意識の中で、せめてもうジャンヌが立ち上がる事がないように祈る事しか出来なかった。


「……さて、これでもう邪魔者はいない。後はカタストロフを使って、この(せかい)の全てを僕のものに造り替えるだけだ。門よ、開け!今こそカタストロフを全て解放する時だ!」


 エルドレッドの呼び声に応え、轟音を立てて巨大な門が開いていく。完全に開き切ったその先には、黒い太陽のように()()()()()何かがあった。あれこそがカタストロフだ。エルドレッドはクサナギを手にしたまま、ゆっくりと歩を進めた。流れてくる恐ろしいほどの魔力は、この(せかい)そのものが持つ力だ。

 この(せかい)では、夜空に輝く大三連月(ルイーナ)の光によって、多くの生き物が魔力を得て、その力を蓄えてきた。だが、それは生物だけに限った話ではない。この(せかい)で、もっとも多く、そして長く月の光を浴びているもの……それは、この()そのものだ。つまり、カタストロフの元となったベヘモトの大顎のダンジョンコアは、この()そのものが獲得した魔力の塊だったのだ。


「フフフ、万感の思いというやつだね。ここからだ、僕は創星者に認められる……いや、この()の全てを手にするほどの力を得れば、僕は創星者すら超える存在になれるだろう!さぁカタストロフよ!僕を取り込め、そして、僕の意思で星を満たせ!」


 カタストロフの前に立ったエルドレッドが叫ぶと、ゾワッ!と不気味な音がして、カタストロフは大きく広がり一気に噴出した。そのままエルドレッドを飲み込み、門を抜けてありとあらゆるものを取り込んでベヘモトの大顎から外へと流れ出て行く……その速さは凄まじいものだ。カタストロフは膨張し続け、あっという間に周辺の森を、大地を飲み込んでいった。


「なんだ?あれは」


「お、おい、得体の知れないものがこっちへ来るぞ!」


「に、逃げろーっ!」


「うわああああああっ!」


「の、飲み込まれ……ギャアアアアアッ!?」


「い、いやだぁ!あんなものに飲まれて死にたく……っ!?」

 

「ああ……大三連月(ルイーナ)、私達をどうか、お救い下さい……!」


 途中にある集落や村、或いは都市すらも拡大するカタストロフの前には抵抗出来なかった。生きとし生けるもの全てどころか、建物のような無機物でさえカタストロフは飲み込み、その度に巨大化していくのだ。人々は、(せかい)の終焉を目の当たりにしたかの如く立ち尽くし、なすがままに飲み込まれていく。中には、魔法などで抵抗を試みるものもいたようだが、誰一人、ただの一瞬たりとも、それに成功したものはいなかった。そして、エルドレッドがカタストロフを解放してからわずか一時間にも満たない時間で、この(せかい)の全てが、カタストロフに飲み込まれてしまったのだった。


 カタストロフに飲み込まれたものは全てが溶かされ、カタストロフと同化していくようだ。何もかもがドロドロに溶けて、圧倒的な力と一つになっていく感覚……それは、生と死が入り混じった不思議な感覚である。生きながら死んでいき、死んだと思えば生きている。そんな中で、個を保てる人間などいるはずもない。ただ一人、不変を持つ彼以外は。


「フフフ、そうだ。この力の感覚、これこそが僕の求めていたもの。素晴らしい万能感と、孤独でありながら他と繋がっている満足感。今の僕が望めば、どんなことでも可能に出来るだろう。何と素晴らしい!さぁて、何から始めるか………………ん?」


 カタストロフの中心にいたエルドレッドは、自らの望む天地創造に心躍らせていた。しかし、カタストロフの中のどこかで、ほんの僅かに違和感を覚える。全てがカタストロフと同化している為に、それが遠いような近いようなはっきりとしない感覚だが、例えそれが大海に一滴の真水が入った程度のものだとしても、今のエルドレッドには途轍もない違和感である。エルドレッドは不快感を露わにし、その正体を突き止めようと考えた。


「なんだ?この違和感、いや、異物感は……何もかもを飲み込み取り込んで一つになっているカタストロフに、異物など存在するはずがない。一体、何が?」


 エルドレッドはカタストロフの中で、自らの身体を再構成し、()()を捜す事にした。カタストロフと同化している状態では、自分の体内を見る事が出来ないのと同じで内部を直接見る事など出来ない。一旦、エルドレッドという個体を創り出さなければならないのだ。


 泳ぐようにしてその違和感の場所へ向かうと、そこには酷く不安定だが、強く輝く光があった。暗黒に等しい暗い世界で、燦然と輝く紅い光……そして、その光の周囲には、黄金の光が粒や波となって漂っている。しかも、その光は時間が経つごとにどんどんと強くなっているのだ。エルドレッドはこの時初めて、その得体の知れない光に恐怖した。


「な、なんだ、この光は!?く、ま、眩しいっ!目がっ!?……あれは、あの赤と金色の光は、まさか……っ!?」


 その瞬間、光の中でドクンッと大きく鼓動が跳ねた。エルドレッドがそれを頭の中に思い浮かべるまで、その光は形をなさない光でしかなかった。だが、一度考えてしまえば、もうそれは消えてくれない。カタストロフと一つになったエルドレッドの意志は、全てが叶ってしまうのだから。


「バカな、あれは大逆転の輝き……そんな、そんなまさかっ!?」


 光の中で急速に力が集中し、人の形へと変わっていく。そしてそれは、エルドレッドがその名を呼んだことで完全に固定化した。


「お前はっ、ジャンヌ・パルテレミーッ!」


「……ああぁっ!ふぅっ、ふぅっ……」


「ふ、復活しただと!?そんなバカな!?このカタストロフの中で、個を保てるはずが……」


「あんたの負けよ、エルドレッド……!カタストロフの中で溶けそうになっていた私を、あんた自身が呼び戻したのよ。でもまさか、あんな状態になっても大逆転が私を繋ぎ止めてくれるなんてね。つくづく護られてるわ、この力に。やっぱ、加護って呼ぶの正しいわよね」

 

「く、クソっ!だが、お前が今更復活したところで何になる!?もう一度、今度こそ、カタストロフに取り込んでやるまでだ!」


「それが出来ないのはあんたが一番解ってるでしょ?あんたは私を強く認識した。カタストロフと同化しているあんたが私という個人を認知している限り、私はもう有象無象の力の一つにはならないわ!……そして、一度はカタストロフと一つになった私も、大逆転を通してこの力を使う事が出来るのよ。……ね?ハバキリ!」


「なにっ!?」


 ジャンヌがその名を呼んだ瞬間、土のムラクモと一つになり、神剣クサナギとなっていたハバキリがその手に現れた。しかも、それとは逆の手にはムラクモも蘇っている。全てがカタストロフと溶け合い一つになっているからこそ、強く望めばそれは元の形に戻る事が出来るのだ。


「そんな……そんなバカな!?それは、不変を持つこの僕だけに与えられた特権だったはず!?」

 

「残念、そうじゃなかったみたいね。所詮、あんたは自分が特別だと思っていただけの子供よ。あんたは500年もの間、ただ人を恨み続けて変わろうとしなかった。変わらないって事は、成長する事も無いって事だわ。それは、不変を持っていたからかもしれないけど……そこだけはちょっと同情してあげる」


「なっ……」


「けれど、どんなことがあっても、自分の目的の為に人を虐げ貶め、利用して捨てるあんたを許す訳にはいかないわ!」


「ふざけるな……同情だと?たかが、加護で生き永らえただけの小娘が!お前に何が出来る!?どんな偉そうな口を叩こうが、僕にはこの不変があるんだ!何人足りとも、この僕を殺す事など出来はしない!逆に僕がここでお前を殺し、今度こそ、カタストロフにおける唯一無二の意志となってやる!」


 殺意を振りまき、ジャンヌを睨むエルドレッド、しかし、対するジャンヌの瞳は穏やかだ。ジャンヌは静かに、ハバキリをエルドレッドに向けた。


「あんたの負けだって言ったでしょう?不死身のあんたなんて、もうどこにもいないのよ」


「なに?」


「気付かないの?あんたの中にはもう、不変がないってことに」


「は?………………っ!?な、なんだ、何が!?ど、どうしてっ!?」


「カタストロフと繋がってるせいで、自分の異変に気付きにくいみたいね。カタストロフは()()()()()()()()()だって、あんたが自分で言ったのよ?だから、私がハバキリを呼んだ時点で、あんたの中から不変を消しておいたわ。もう、あんたは不死身でもなんでもない。ただの、ワガママな悪党でしかないのよ!」


 エルドレッドは動揺し、自分の身体を何度も手で探っている。そんな事をしても意味は無いのだが、それだけジャンヌの語った言葉が信じ難いもののようだ。加護とは個人の才能が形になったものだが、才能に胡坐をかき、成長しない人間に未来はない。それは、まさに普遍の真実だ。


「バカな、バカなバカなそんなバカなッ!?そんなことがあるはずがないっ!僕は、僕は超越者なんだ!この()の全ては僕のモノだっ!」


「いいえ、あんたのものなんて何一つないわ!……エルドレッド、覚悟っ!」

 

 ジャンヌは、ハバキリとムラクモを構えてエルドレッドに斬りかかり、彼の命を断ち切った。500年も前から暗躍し、様々な人間を利用しては殺してきた罪を償わせるように。カタストロフの中で消滅した命は、もう二度と復活する事はない。この(せかい)を手中にせんとする目論見は、完全に断たれたのだ。


「……終わったわね。これでようやく、だわ」

 

 ——お疲れ様、ジャンヌ。けど、これからどうするの?


「決まってるでしょ、ハバキリ。私が残った以上、やる事は一つだけ。皆を、元に戻してあげなくっちゃね」


 ——あなたらしいわね。やっぱり、私はあなたを選んでよかったわ。


「ありがと。じゃあ、始めましょっか!」


 そう言うと、再びジャンヌの目が赤く染まり、黄金の輝きが流れ始める。その光はやがてカタストロフ全体へと行き渡り、(せかい)は輝きに包まれた。









 それから数年の時が経ち……アクシア公爵領にある。古い教会兼産院は、孤児院としても機能していた。そこでは藍色の髪を揺らした若い女性が、エプロンを纏って子供達を学校へ送り出そうとしている。


「皆ー!手洗いとうがい忘れんじゃないわよー?」


「はーい!ねぇ、ジャンヌせんせー、きょうのばんごはんなにー?」

 

「それは帰って来てからのお楽しみっ!ほら、さっさと行ってらっしゃい!道草食って遅刻したら、お仕置きだからねっ!」


「はーい!」


 まだ十歳にも満たない子供達だが、彼らは元気よく声を上げて学校へ向かう。かつては廃領となり、人がいなくなってしまったアクシア公爵領も、領主であるアクシア家が復活した事で、少しずつ人が戻り始めているのだ。今はまだ小さな集落があるだけだが、ゆくゆくは元の領地と同じ活気を取り戻せることだろう。


「……さて、ソロとジーナが来るのは午後からだから、それまでお母さんの手伝いでもしてこようかな。あ、洗濯も終わらせないとかないとね!」


 運命すら改変する力を持ったカタストロフは、失われた命さえも復活させることが出来た。そもそも、この(せかい)で命を落とした者達の魂は、封印されていたにも関わらずカタストロフの中に取り込まれていたからだ。それは、かつてはモンスターを永続的に生み出すダンジョンコアとしての機能であったらしい。

 ジャンヌはカタストロフの中でそれを知り、エルドレッドを除く人々を蘇らせた。中には復活を拒む者達もいたので、全てという訳ではないが、ほとんど全ての人々が戻ったと言っていいだろう。そして、再びカタストロフは封印され、今は地の底で眠りについている。今度の封印は、パルテレミー家ではなく、ハバキリとムラクモを使ったものだ。その二振りが破壊されない限り、封印が解ける事はない。永遠を生きる彼らだが、新しい役割を与えられたことで満足しているらしい。ハバキリもムラクモも、もう創星者を待つだけの存在ではなくなったのだ。


 ジャンヌは復活した母を手伝い、アクシア領の復興を目指しながら、現在はMIRAを辞め、親を失った子供達を受け入れて育てている。ソロがエンデュミオン皇国の魔法師団長に復帰したので、もうMIRAでいる必要がなくなったからだ。どんなに平和な世の中になったとしても、不遇な暮らしをする子供達は必ずいる。自分の子供時代のような生活を、他の子供に味わわせたくなかったらしい。そうして彼女に育てられた子供達は、未来のアクシア領を担う大人へと成長していくだろう。

 

 虐げられた幼年期から考えれば、まさに大逆転の結果だ。これからも、ジャンヌは様々な人々を助け、また助けられながら生きていくのだろう。そんな彼女の姿を、朝陽を受けて白く光る大三連月(ルイーナ)が、優しく見守っているようだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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宜しくお願いします。

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