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 カリスのいとこ。それが今のわたしの設定だ。

 カリスの実家は王都の端にあった。ここならわたしがいても分からないだろう。そもそも、ばれないようにある程度変装しているし、普通に考えたら侯爵令嬢がこんなところで料理教室に通っているとは考えないはず。


 平民のふりをして王都の端にある料理教室に通う、というのはなかなか大変だけれど、しばらくオクトール様の勉強会を休むことになっているので、なんとか時間を捻出できた。というか、料理教室に通う、と言っても、オクトール様に料理を振る舞うまで二週間くらいしか期間がないから、二、三回くらいしか行かないのだが。

 本日は二回目である。


 でも、運がよかった。オクトール様の母親と近い出身地のカリスがいて。オクトール様の母親の実家からは地区が離れているものの、王都の出身であればそうそう料理の味も変わるまい。ちなみにグレーリアは上京――とはこの世界では言わないけど、田舎から都会に引っ越してきた子なので、今回は頼めなかった。まあ、そうじゃなくても、わたしに服を着まわさせるなんて、と泡を吹きそうになっていたから、どのみちカリスに頼むことになっていただろう。

 なお、両親は、わたしがオクトール様のために下町に出ていることは知っているが、こんな格好で料理教室に行っていることは知らない。


 折角だから、と言うカリスと一緒にきた料理教室は、結構和気あいあいとしている場所だった。わたしたちが見慣れない顔だからといって、意地悪をしてくるような人は誰もいない。

 まあ、それも、わたしたちが若くて、周りが皆、老婦ばかり、というのもあるかもしれないが。明らかにわたしたちへの接し方が孫娘に向けるそれなのである。


 子供たちが完全に巣立ったどころか、孫ですらある程度の年になり、生活が落ち着いた女性たちが集まってやる、学ぶための料理教室というよりは、趣味のための料理教室、という感じの場所。

 そんなところに「新婚で、夫のために料理を覚えたい」という設定でわたしが来たものだから、楽しくて仕方がないんだろう。


「ベルちゃん、手際がいいわねぇ」


 料理教室の主催者であるロネさんが、わたしの手元を見ながら言った。年輩の方が多い中、とびぬけてお年を召している。それでも、覚束ない様子は一切見られない。こういう元気な老人になりたいものだ、と思わされるような人だ。ちなみにベル、というのはわたしのここでの偽名。


「こんなにも手際よくできるなら、料理教室なんてこなくても上手くやっていけるんじゃないかい? もちろん、ベルちゃんやカリスちゃんが来てくれて、ばばたちは楽しいけれど」


「手際が良くても、レパートリーが少ないんです。それに、夫の母の実家がこの辺りだと聞いたので、カリスのところに遊びに来たついでにこのあたりの料理を覚えて帰ろうかと思って」


 実際、前世で料理しているから手際はいいものの、こっちのレシピは、ほとんど知らない。食べてなんとなく食材が分かるような繊細な舌はしていないし。美味しいかまずいかくらいしか分からないのだ。

 わたしの言葉に、ロネさんは明るく笑った。


「この辺の人間だったらムスモスたけのスープをよく作るんじゃないかい?」


 ――その言葉に、わたしは思わず手を止めた。

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