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眼鏡があるからまだ表情がこわばるくらいに収まっているのだろうが、眼鏡がなければ体裁も気にせず膝を抱えそうな雰囲気がある。前回眼鏡がなかったとき、そんな感じだったし。
わたしは立場上、たくさんの夜会に出て、王族――特にアインアルド王子がいるものには必ず出席していたけど、確かに、もう長いことオクトール様が夜会に出席しているところを見たことがない。部屋に引きこもって魔法道具の研究と開発ばかりしている、という噂は伊達じゃない。
そんなに緊張しなくても――と励ましたいところだが、オクトール様は他人自体が苦手なのだ。失敗したくないだけのわたしと違って。
だから、気楽に行きましょう、と言ったところで効果は薄いような気がする。この夜会での行動が失敗だろうか成功だろうが、彼は出席自体がストレスなのだから。
うーん、なにかオクトール様が元気になるようなことはあるかな……あ、そうだ。
「オクトール様、今日のパーティーには、シャハルク商会の商会長と、あのノルテンブデン氏が出席するそうですわよ」
わたしの言葉に、オクトール様が分かりやすく反応する。
シャハルク商会は東ヶ島という、前世で言う東洋系の要素が詰まった国と、このモルトベルグ王国内で唯一取引がある歴史ある商会だ。
東ヶ島は、ほとんど他国との関わりをもたないのだが、あの国独自の、魔法道具に使う素材が一杯取れるし、それに付随して、独自の魔法技術がある。
魔法道具を手広くやるならば、シャハルク商会と繋がりがあればもっとやりやすいだろうが――一見さんお断り、とでも言わんばかりに、少なくとも知り合いの知り合い、くらいの関係でないとなかなか商品を取り扱ってくれない。
本当はシャハルク商会とはあんまり関わりたくなかったのだが、オクトール様を元気づけるためには仕方がない。
――……何を隠そう、シャハルク商会長の孫娘が、『シックス・パレット』の攻略ヒロインの一人であり、同時に、アインアルド王子の妃でもあるからだ。
一応、彼女は高位貴族家の隠し子という、彼女のルートで明かされる生い立ちというものがあるのだが、血筋はどうあれ表向きは平民。そんな女性を娶っておきながら、よくもまあ、アインアルド王子はオクトール様のことを馬鹿にできたものだ。そりゃあ、血だけ見れば両親共に貴族だけど……。納得いかないものがある。
ノルテンブデン氏は、既に引退した魔法道具作家ではあるものの、全盛期は次々に魔法道具を開発・改良し、魔法道具に関わる人間ならば知らない人はいない、と断言される人物――らしい。死後は偉人として語り継がれそうな経歴の人物ではあるが、いかんせん、わたしは魔法道具に詳しくないので、有名な人だとは知りつつも、どれだけ凄い人なのかはいまいちピンとこないのだ。




