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2 隕石魔法と大幹部

 空から降り注ぐ無数の隕石が、フルウースの街を盛大に破壊しながら魔王軍を打ち払っていく。


 隕石が地表へと落ちる度、けたたましい爆発音と共に粉塵が立ち上り、次々と降り注ぐ隕石に家屋や商店は無残に破壊され、人々は逃げ惑う。


「う、うわぁぁぁああああ!!」


 魔王軍の兵士サイラードは、次々と迫る隕石群を必死に避けていた。


「な、何でこんな事に……」


 魔界王都で暮らすサイラードは、たまたま所用でこのフルウースを訪れていた所を魔王軍幹部に捕まり、そのままこの戦いへ駆り出されてしまったのだ。


 本来は魔界王都に勤務する一兵卒であるサイラードには、無関係な戦場のはずだった。


 少々高貴な家柄に生まれ、そのおかげで王都勤務というキャリアを与えられたに過ぎないサイラードにとって、この戦場はまさに場違い、実力不足。


 戦列の最後方で、目立たぬようにジッと息をひそめていサイラード。

 そんなサイラードへ、今まさに隕石が直撃しようとしていた。 


 左右から同時に迫りくる、二発の隕石。それを同時に対処するなど、サイラードの技量では到底無理な話である。

 

 ―― ああ、死んだ。父さんごめんなさい。


 サイラードが全てを諦め、死を受け入れたその時、奇跡が起こった。


「とりゃッ!!」

「――――!?」


 凄まじいスピードで振り抜かれた炎の拳が、間一髪の所で隕石を打ち砕いたのだ。


「うりゃッ!!」

「――――!!」


 その炎の拳は返す刀で、もう一つの隕石も破壊した。


「おい、大丈夫か?」 


 両腕に激しい炎を纏わせ、一人の男がサイラードに声をかける。


「は、はい。あなたのおかげです……。有難う御座いますジラン様」


 魔王軍次期幹部候補ジラン。現大幹部、暴炎のランチャスの子息であり、その才能は父親をも凌駕すると噂の男だ。


「……無茶苦茶しやがるな、あのクソども!」


 ジランは上空を見上げ、今も降り注ぎ続ける隕石の大群を鋭く睨みつける。


「はぁぁああああ!! だりゃッ!!」


 ジランの右手から放たれた火球が、迫りくる隕石を鋭く穿つ。


「だりゃりゃりゃりゃりゃッ……!!」


 兵士たちを守るように、ジランは降り注ぐ隕石群へ、火球を放ち続ける。


「スゴイ……」 


 自分と同様に、いや、それ以上に恵まれた家柄に生まれながら、その実力のみで幹部候補へと推される男。 

 そんなジランを、サイラードは感謝と羨望の眼差しで見つめていた。


 そして、ジランへ感謝と羨望の眼差しを送る男がもう一人。


「ああ……やっぱり、坊ちゃんは格好いいなぁ!」


 ランチャスの配下、魔王軍兵士ラールだ。


「なあ、俺はいつか、ジラン坊ちゃんの部下にしてもらいたいと思ってるんだ。坊ちゃんに命を救われたのは二度目なんだ。坊ちゃんは俺の憧れなんだ!!」


 感極まるあまり、初対面のサイラードへ思いの丈をぶつけるラール。


「ん? あ、ああ、そうなのか。希望が通るといいな……」

「そうだ! あんたも一緒にジラン坊ちゃんに仕えないか?」

「え!? 俺もか?」

「そうだよ! 俺もあんたも、たった今坊ちゃんに命を救われた者同士じゃないか! その恩を返すべきだろ!!」


 ラールは一点の曇りもない目で、「あんたもそう思うだろ?」とサイラードへ迫る。


「そ、そうだな……ま、前向きに考えてみるよ……」


 そうは言ったものの、サイラードにその気は無い。

 実は魔王軍を抜ける準備を、秘密裏に進めているのだ。


 サイラードには、本当にやりたい仕事が他にある。自身が兵士に向いていない事も今日あらためて思い知った。

 したがって、これ以上魔王軍に身を置く気が、サイラードにはさらさら無いのだ。


 この事実はサイラード本人と、その父親しか知らぬことであり、絶対に知られてはならないことだ。



  ◆◆◆ ◆◆◆



 間もなくして、爆発音は止んだ……。


 街の方角から聞こえた激しい爆発音に、一瞬焦りの色を見せたタルス。

 勇者と魔王の戦いによるものと思われるその連続した轟音が、激しく破壊される街並みをタルスに想起させたのだ。


「……大丈夫、方向が違う」


 自分を落ち着かせるために、タルスは声に出してつぶやいた。


 姉弟たちは、北の外れにある地下倉庫に身を隠している。あの場所は勇者達の戦場と距離もあり、タルスの知る限りこの街で最も安全な場所だと思ったからだ。


「街は大丈夫かなぁ……」


 フルウースはタルスにとって、故郷であり友や仲間の住む町なのだ。

 姉弟さえ無事ならそれで良いと、割り切れるものでは無い。


「そうだね、リリノさんの店もおそらく無事ではないだろう……」


 魔族であるネイジスも、顔をしかめる。

 ネイジスにとって、人間界がこれから暮らして行く場所なのだ。


「あ、リリノ(おばちゃん)は大丈夫なのか?」

「大丈夫、リリノさんには安全な場所に避難してもらっているよ」

「そっか、それなら安心だな。でも……」


 勇者と魔王への怒りが、タルスの中にあらためてこみ上げる。 

 とはいうモノの、今は考えても仕方のない事だ。


「とっとと食い物盗んで、さっさと帰ろうぜ!」


 タルスはその怒りをとりあえず胸に収め、一刻でも早く食料を探し出し姉弟たちの下へ届けるべく先を急ぐ。

 

 ランチャスの屋敷は、人間界に設けられた魔王軍の拠点だ。

 土木魔法により建造されたその広大な屋敷には、数百に及ぶ魔族が常時滞在している。

 そして地下食料庫には、その魔族たちの腹を満たすための大量の食料が保存されているのだ。


 食料庫を目指し、慎重かつ大胆に敵地を進むタルスとネイジス。 


 廊下を進み角を曲がると、そこに異様な雰囲気の男が佇んでいた。

 男は豪華な衣装をまとい、明らかに只者ではないオーラを放っている。  


「はっ!?」


 謎の男がタルスの存在に気付く。 


「貴様! 何者――」


 傍らに立て掛けられた槍に手を伸ばそうとする謎の男。

 タルスは剣を抜き、謎の男へと一気に突進する。


「うりゃ!!」

「ぐわっ……」


 謎の男は弱かった。


 タルスが有無を言わさぬ出会い頭の一撃をお見舞いすると、謎の男をそのまま斬り伏せてしまったのだ


「お、おい。こいつは、シデインじゃないか!」


 目の前で床に転がる男を見て、ネイジスは思わず大きな声を出してしまった。


「おっさんの知ってるヒト?」

「ああ、こいつは魔王軍の大幹部の一人だよ。私は戦闘要員では無いので直接見たわけではないんだけどね、一人で戦況を変えてしまう程の魔王軍屈指の強者だと聞いている……んだが……」

「ふーん、でもこいつスゴイ弱いよ」

「そう……だね……」



  ◇◇◇ ◇◇◇



 隕石の雨が止んだ。魔王軍は少なく見積もってもその3分の2が姿を消していた。


「モッズ、よくやった。これで奴らに大打撃を与えることが出来たぞ!」


 勇者が魔導士を労う。


 天才魔導士モッズは、その巧みな魔力操作で、隕石魔法を広域展開させると同時に、魔王へはより強力な魔力を集中させたのだ。

 最小限の魔力で一般兵を一気に駆逐しながら、魔王にもダメージを与えるという神業。

 まさにそれは「天才」モッズの真骨頂である。


「はい、僕たちは強いですからね。でも、もっと沢山、駆逐出来ると思ったんですけど……」


 ジランの抵抗により、魔王軍の被害は幾らか抑えられたのだ。 


「ワッハッハッ!! 魔王討伐の最短記録が生まれそうじゃないか!」


 ジランの些細な抵抗など、気にするまでも無いとばかりに豪快に笑う戦士スレイ。


 勇者と仲間たちは悦に入っていた。この予期せぬ魔王との決戦の中で己の強さへ確信を持つに至ったのだ。


 だが、現実はそれほど甘くはない。


「――おいおい、だから調子に乗るなと言っておるだろうが」


 薄れゆく土煙の中から魔王が姿を現す。いささか煤汚れてはいるが、見る限りかすり傷一つ負ってはいない。


「ちぇっ! 化け物め」 


 魔導士が悔しそうに眉を寄せる。


「そんな簡単に魔王を倒せるとは思っちゃいないさ。それに、お前に止めを刺すのは勇者である俺の役目だ」

 

 勇者ライデルが自信に満ちた笑みと共に、聖剣の切っ先を魔王へと向けたその刹那、勇者一行に向かって巨大な炎の塊が飛来した。


「――――!」


 炎の塊は着弾と同時に放射状へと広がり、勇者の一団を炎の海へ沈める。


 その不意の一撃は光の兵団の約半分を一瞬で消し去った。

 魔王に命じられ、これまで後方に控えていた暴炎のランチャスが戦線に加わったのだ。


「魔王様、命令に従い黙って見ておりましたが、儂もそろそろ我慢の限界でございます。この思い上がった馬鹿どもを屠るのに儂も参加させて頂きますぞ」


 魔王軍幹部、暴炎のランチャスの挨拶代わりの一撃が、勇者の軍勢に大打撃を与えた。


「…………」


 僅かに焦りの表情を見せる勇者に対して、ランチャスが更に言葉を放つ。


「そうそう、魔影騎士シデインもこの街に来ておるぞ!」


 魔王軍幹部、魔影騎士シデイン。魔王軍の中でも随一の魔力の持ち主である。

 シデイン自身の戦闘能力は皆無。しかしその膨大な魔力を魔槍ツキカゲに注ぎ込むことで、シデインは一騎当千の大戦力へと変貌するのだ。

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