星ヶ丘ユウキ-1
さて、幸か不幸か俺はうわさの「学校の悪魔」の偽者狩りを手伝うことになったわけなのだが、
「具体的には何をすりゃいいんだ?」
俺は人生で二度目の女子との下校を噛み締めようと思ったら、噛めば噛むほど渋い汁が次々に出てきたような気分でそう聞いた。
言っとくが、首を絞めろだとか屋上からつき落とせだとか、プールに沈めろとかはやめてくれよ?偽者であっても奴らは一応人間の形をしているんだ、まだまだお前みたいに肝が据わっちゃいない俺には無理だぜ。
「あなたにはそんな酷なこと頼まないわ」
驚いた。こいつにも「可哀想」と思う感情があったんだな。
「私と違って鈍臭いし、返り討ちにあうに決まっているでしょうからね」
前言撤回だ。こいつの言動は俺を酷く傷つける。
「……いや、まぁそれはいいとして、結局俺は何をすればいいんだ」
俺は歯に衣着せぬユウキの物言いにすっかり慣れつつある深い溜息をつきながら、捻れて肩にくい込むスクールバッグの持ち手を直した。
「また今日みたいに死体の後処理を手伝えばいいのか?」
「それももちろんそうだけれど、そうね、根性のないあなたは生徒の調査をしてくれないかしら」
一言余計なユウキは「私は疲れているのよ」とでも言わんばかりに額に手をあてわざとらしくため息を着いた。俺がつきたいくらいだぜ。
「今までは私一人でKの調査からKの処理までしてきたのだけれど、さすがにこのままだったら私が卒業するまでに学内のKを殲滅出来ない可能性の方が高いのよ」
それはまた大きく出たな。学内全員だと教師なんか含めるのか。ちなみにだが、今目星がついているやつは何人くらいいるんだ?
「少なくとも六人。でも、実際はもっといるでしょうね。だからこそ時間が惜しいのよ」
ユウキは自分の力の無さに嘆く少年主人公のような面持ちで、
「少しでも早くKを見つけ出して殺していかないといけないの。これ以上被害を出さない為にもね。でも、私一人では現実的に不可能。現状では本当に猫の手も借りたいくらいなのよ」
なるほど、お前の言いたいことは分かった。調査くらいなら俺にも出来そうだ。要は対象を観察しておかしければお前に報告すればいいんだろ?
「そうよ。犬みたいね」
文字通り、俺は犬だな。でも、正直なところそれくらいの役回りで十分だった。ああは言ったが、元より俺は主人公の器じゃないのさ。その物語の本筋の端っこにほんの少しだけ居場所があるくらいでいい。
俺はバスで帰るユウキと学校の最寄り駅で別れた後いつも通り地下鉄に乗り、疲れた顔のサラリーマンと若さのあまり体力を余らせた部活帰りの同級生の群れを避けるようにドアのすぐ近くにポジションを取った。
見渡す限り現状ではおかしなところは見当たらない。全くもっていつもの風景だ。だが、この中には実際、Kが何人かいると考えていいだろう。学校にだって少なくとも六人いるのだ、一人くらいいても何もおかしくない。
一応、怪しいやつが居ないか目を凝らして一人一人を観察してみた。が、なるほど、一筋縄ではいきそうにないな。
正直なとこ見たくらいじゃ全く分からない。確かにこの中に俺のよく知る人物はいないが、それにしたってこの地下鉄の一車両だけですら、その中からKを見つけるのは骨が折れそうだった。
では、その規模が学校ならどうだ?一学年でもいいが、それでも骨が折れるどころか全身複雑骨折に内臓破裂のおまけがついてくるぜ。それこそ一人でこなすのはいくら時間があっても足りないだろうな。
とは言ったものの、果たして俺に何が出来るだろうか。何が一つでも出来ることがあるだろうか?
そりゃあ、生徒一人一人を観察してレポートにまとめあげることは俺にだって出来るだろうが、しかしどうだ。
俺にそんなに正確に人間を判断出来るだろうか。
既に俺はプロジェクト「学校の悪魔」の一員となってしまっているのだ。俺が「ちょっとこいつが怪しい」と判断してしまえば例えそれが本物の人間だったとしても下手すりゃ死んじまう事になる。
自信ないな。ああは言ったが、俺なんかに出来る気がしない。
今日ばかりは自分の自制心が憎かった。あーあ、どうしてこうなったんだろうな。思てたんと違う。普通の日常を望んでいたはずなのに。
俺がもっと優秀だったらなぁ、だなんて一浪したのに受験直前の模試で志望校がE判定だった浪人生のような事をつい考えちまう。
そもそも、ただちょっとだけ人間観察をしていただけなんだ。その他のパラメータなんて至って普通なんだよ。
一人じゃ何も出来やしない、ただの凡人なんだ。
自分が超能力者では無いことを恨みつつ、俺は今日何度目か分からないため息をはいてから家に入った。キッチンで夕飯を作っていた母親に「ただいま」と一言告げてから自分の部屋へと向かう。隣の妹の部屋は暗いのでまだ部活で帰ってきていないようだった。
同じ親から生まれたというのにどういう訳か妹は父、母同様に頭がよかった。俺には分からんが学校でもモテているらしい。つくづく思う、俺だけ赤子の頃にどこかから拾われてきたんじゃあないかとな。
カバンを机の上に放ると、俺は重力に任せてベッドへと身を投じた。そして今一度考える。
どうすりゃあいいんだ?
俺は別段ユウキのように戦えるわけでもなければ、あいつのように頭がキレる訳でもないんだ。
考えろ。それしか出来ないが、少なくともそれだけは出来るだろうが俺は。
自分にしか出来ない事を探すんじゃない。自分にも出来る事を一つでもいい、何かないのか。
「……。」
そのまま二時間ほど考え込んだのだか驚くべき事にあまりに何も無かった。多分だが、俺から俺自身の固有名詞を取ったらKよりも多分誰にも見分けられないだろうな。
村人Aだ。




