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「紗栄子ちゃんも随分大人っぽくなったね。身体つきも女らしくなったというか、彼氏はいるの?」
祖父の葬式ですっかりと出来上がった叔父が私に晩酌されながら無遠慮に聞いた。私は愛想笑いを浮かべながら「そんな人がいたらいいのだけれど。」とか、そんなような事をふにゃふにゃと答えた。叔父だって私の恋愛話になど然程興味もないのだろう。その返答を聞いて「ダメだぞ、結婚はしなくちゃ。やっぱり誰かと添い遂げるっていうことはなぁ…。」と得意げに持論を展開する。はぁ、はぁ。と適当に相槌を打ちながら、どこの誰とも知らない小太りの男性の小皿に「とりましょうか?」と唐揚げを乗せた。
世の中こんな事ばかりだ。この窮屈で見栄と偏見に塗れた田舎でさえそうなのだ。都会に出れば何か変わるかと期待もしてみたがどこに行ったとて人間、性質が変わることはそうそうないのだった。私はこれまでに自らの全てを奪われ、全てを投げ打ってでも何かに身を投じるようなことは残念ながら経験してこなかった。年上で余裕のある大人な先輩や、不器用ではあるが真っ直ぐに優しい同輩に心奪われ、惚れた腫れたを繰り返す友人たちに「頑張れ。」「絶対上手く行くよ。」と無責任な言葉を投げかけたものだ。そして、その実内心ではご苦労なことだと高みの見物だったわけだ。恋愛が大正義と言わんばかりにこの歳になると彼氏を作れと周りがヤジを飛ばす。頭がお花畑なのは結構だが、その花粉をこちらにまで振りかけて回らなくてもいいのに。私はいわゆる恋の花粉症に悩まされていたわけだった。
「紗栄ちゃん?」
告別式の帰りひと息つきながら、実家へ向かっていた時だった。聞き覚えのない男性の声がした。振り返ると半袖のシャツを暑そうにパタパタさせたスーツの男性が立っていた。
「えっと…久しぶりです。」
見覚えのないその男性に曖昧に微笑みかけると、男性はパッと顔を輝かせ、やあやあとこちらに歩み寄ってきた。私は思わずたじろぐ。
「本当になぁ、東京に行ったんだろう。元気だった?」
えぇ、それなりに。目と記憶の海を泳がせた。どうかこんな薄情な私に気が付きませんように。
「君と話がしたかったんだよ。ずっと。」
男性は熱っぽく私を見つめた。斜めに沈みかけている太陽が彼の汗ばんだ顔を照らした。私はこの光景を見たことがあった。
中学で同じ図書委員の、確かワタナベくんだ。しかしワタナベくんは、もっとずっとうだつの上がらないような少年で私のことを気安く紗栄ちゃんなんて呼んだりしない。今や垢抜けたその青年に何だかムッとした。
「私と何の話が?」
冷たくつっけんどんに言い放つが事実である。同じ図書委員だったとは言え、それは中学3年間の間のみでその間も「はい。」とか「分かりました。」とか交わした会話はその程度である。むしろ私がワタナベくんの存在を認識できたことが奇跡なのである。
「あぁ、いや。なんというか。そうか。」
ワタナベくんはもぞもぞと下を向く。私はなんだかその態度が気に食わなくてどうにか話を切り上げられないか画策した。
「飲みに行かないか?あの時の君とのこと、話したくて。」
あの時?妙に胸に違和感があった。私と彼とに過去に何か語るべき事象はあったのだろうか。
自らの記憶喪失を疑いながら私は彼に小さく頷いてみせた。
「一杯で帰るからね。」




