第十五話 自覚した恋
異空間から巡が飛び出て、巡はオレと綾様を異空間に引きずり込む。
オレは何かを叫ぶ前に異空間に戻ってしまい、巡を睨み付ける。
睨み付けられた巡は、物憂げな視線だった。
「二見は!?」
「駄目だ、置いていかないと!」
「どうして?!」
「子犬ちゃん、二見の病はゴミツから与えられた呪いなんだよ――僕は、その病を半分にする依り代として存在している。分身なんだ。本当は、犬の神様は二見だけ。二見の願いを叶えるのが、僕の願い。……二見は、子犬ちゃんを守りたいって……願っている。あの場にいたら、ゴミツが怒り狂ってまた子犬ちゃんに何かする」
巡は、オレにまだ言葉が伝わってないと悟るなり、伝わりやすい言葉を一生懸命探す。
「ゴミツは二見の命を代償に、あの場から子犬ちゃん達を見逃すっていう意図なんだ――多分ね。だから置いていかないといけない」
「……――二見は、二見はどうなる……?」
オレの言葉は、裏には「見捨てないでくれ」と願いがこもっていた。
やっと見つけた想いなんだ、大事なんだ。
きらきらしてるモノばかりだと思っていた、恋なんて。
でも実際はドロドロしてるんだと綾様に出会ってからずっと予感していた。
そんな状態で、出会ったあの馬鹿狗は、きらきらした想いを大事にしていて、尚且つその想いをそのまま大事にしてほしいと願っていた。
心を求める恋愛に久しぶりに出会った気分だ、尚且つその想いが両思いなんだと気づいた。
少なくとも、オレがどんなに気づかないふりをしていても、二見は大好きだと笑い続けていてくれていた。
どれだけオレが綾様を想っていても、その想いを含めてオレが好きなんだと笑ってくれていた。
とても、とても優しい奴だった。
今更その想いを捨てるのは嫌だ、勿体ないとかそんなんじゃない。
オレは、嗚呼、オレはなんてことだ、二見に――!
――何か、何か声をかけたい。
このままじゃ何も伝わらずに、二見や巡とお別れだ――。
「子犬ちゃんは気にしないで。子犬ちゃんに出会えてよかった、僕らは……。時間軸なら、僕は二見の砂時計だ。だから、僕も操れる。君達を安全な時間へ……」
巡は誤魔化そうとしていたので、胸ぐらを掴んで、怒鳴りこむ。
「駄目だ、何か教えろ、テメェまだ何か隠してるな!? 二見が復活する方法を知ってるんだろ!?」
苦し紛れに問いかけると、概ね当たっていたようで、巡の顔色が歪んだのでオレは心底ほっとした。
言ってみるもんだ、脳が今真っ白で混乱しているとしても、機転で何とかできそうだ。
今、すげえ焦っているんだ。
二見がオレのためにオレのためにってやってくれたこと全て、本当にオレのことを思いやってくれていたから、余計に焦っているんだ。
だって、オレはそれに対して、嬉しさを感じる暇も無く、消えていったから。
本当の心を見つめていてくれたのは、二見と巡だけだと、今気づいた――。
あの笑みが、本当に心に焼き付いて――残像のように。
胸が痛くなる、辛くなる、やるせなくなる。
この感情に心覚えがある。
この感情は、きっと……。
「子犬ちゃん、諱を与えると天女は寿命を削る代わりに、生命を生き返らせられる」
「オレなら五百年あるから余裕だろ!?」
「……子犬ちゃん、一つ忘れているね。僕らは時間を止めている存在だ。……無限に時間が必要だ。子犬ちゃんが約束されてる時間は、五百年だけ。子犬ちゃんが現世以降消える」
「……――上等だ」
「簡単に言うな! どれだけ二見が君を想っていたと!?」
オレは巡の珍しい激高に、びくっとする。
「名前を与えたら、結ばれなくなる運命にもなるんだ――なのに現世でも結ばれないのに、消えても構わないって?! 僕だって、僕だって嫌だ! 僕が子犬ちゃんと結ばれる権利があったら、絶対手放したくない……判ってよ!」
「……天女の掟、か」
綾様がぼうっとしながら、頭をふって、目をぱちぱちと瞬かせる。
異空間に気づくと、何かを思い出して、顔色を悪くする。
ぶるっと震えて、真面目に考え込む綾様。
それからオレに気づくと、申し訳なさそうに微笑んでから、真剣な眼差しで巡を見つめた。
「一つ提案がある。己は記憶の契約もないし、輪廻転生し続ける。己は、時間が無制限だ。この現世に全ての輪廻転生する時間をつぎ込めば、な。……この一件は己に任せてくれないか」
「……綾様」
「ライアー、お前様一人格好つけるな。巡よ、天女を己と認めてくれぬだろうか。そうしたら、お前様たちに名前を与えられる……何もかもライアーをお前様から奪わぬ。天女以外と化け物は結ばれないと聞いた。ゴミツから、犬の加護があるものは時を巻き戻すとも。……こうなる運命にならん方法を探す。御劔様に会うてくる、御劔様を味方につければよい。この運命を回避し、巻き戻す」
「……――五回。五回だけ、世界は巻き戻るチャンスがある。けどそれ以上は……子犬ちゃんが消えてしまう。子犬ちゃんを消せっていうの? たった五回で何も変わるわけがない!」
「それも防ぐ為にも、この方法しかない……少なくとも、二見とライアーが結ばれる可能性が出てくるのはこの手段だ。何卒、頼む……」
綾様が、土下座した辺りで、オレは異空間から突き放される――それは巡が提案を受け入れたも同然で。
待って、待ってくれ。
仲間はずれにしないでくれ。
綾様と二見が、天女の関係になるのは、むしゃくしゃする。
綾様への嫉妬じゃない、二見を取られる気分ですげぇむかつくんだ。
この気持ちは、この気持ちはきっと――名付けて良いのか悩む暇は無い。
思いを告げなければ、後悔してしまうというのに!
オレは、二見へ恋をした――!
たったそれだけを認めるのに、何だってこんなに声にならないんだ!
「二見、巡――好きなんだよ、好きだ!」
気づけば、真っ白な吹雪の中。
瞬くと、綾様が突っ立っていて、目の前には――御劔がいた。
ゴミツに助けを求めなくても、御劔が見つけたらしい。
ようは、時間軸が変化したみたいだ。
あれ、時間軸が変化ってどういうことだ――とその時のオレは想っていた。
時間軸が変わると、記憶を無くしてしまうのだと、オレは知らなかった。




