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Side:G第1話 最推し(赤子)に転生する一般OL

__恋愛ゲームにおける”悪役”とは、一番のキューピッドである。

二人が結ばれるまでに立ちはだかる障害。だが、悪役という障害を乗り越えた先には、いつだって二人の愛が深まるものだ。

結局、悪役の思いは報われないまま、踏み台にされるばかりだ。


ただ。

「それでも一向に構いません!」


二人をちょっとすれ違わせたり、粋なハプニングを起こしたり、草葉の陰から見守ったり、恋の相談に乗ったり。

喜んで二人の愛に手助けを!なんてったって、恋の場面においての悪役は、キューピッドなのだから。


……という、もはや悪役ではない悪役が推しカプたちを応援する話。




現代日本。至って普通の会社員だった主人公が、生涯の最推しである恋愛ゲームの悪役令嬢として転生してしまう。

ダブル主人公のうちの片割れである女主人公が転生したあと、悪役令嬢の幼少期編の第一話。半分は最推しの魅力を語っているだけです。

【きみとさいしょのファンタジー】、略して【さいファン】。

とある架空の大陸の魔法学園を舞台にした某恋愛ゲーム。その出来の良さから、巷でも話題のタイトルである。本筋はキャラクター攻略で、特殊セリフの豊富さ、豪華声優陣のフルボイスエピソード、スチル画像などの多さなどなどが魅力と言えるだろう。

主人公の性別は選択可能で、主人公と攻略対象のNL・BL・GLエンドはもちろん、特定のキャラクター間の好感度を上げると、キャラクター同士のペアエンドも発生する仕様だ。



私、好坂(こうさか)百合(ゆり)は、このゲームをリリース直後に気まぐれで手に取ったのだが……

キャラ良し、ストーリー良し、グラフィック良し!と、みるみる魅了されていき、一年と少し経った今ではどっぷりさいファン沼に全身浸かった状態になっている。それはもう、全キャラのルートや隠しキャラのルート回収はもちろん、特定の条件を満たすと発生する特殊イベントや特殊セリフなどを全て網羅していたほどだ。さいファンがもう一年以上前のゲームだなんて信じられない。


そして、そのさいファンなのだが、大型有料追加ダウンロードコンテンツが来年冬配信決定!それ以上の情報は無かったが、続報は順次公開予定とのこと。私はそのDLCをプレイすることだけを楽しみに毎日仕事に励んでいた。

が、もはやそれは叶わない。


浮かれていたのか知らないが、私は交通事故に遭い、あっけなく命を落としたらしい。せめて、追加コンテンツの新キャラの姿ぐらいは知ってから死にたかったものだ。



……だなんて、さっきまで思っていた。


今まで眠っていただけのように思えて、いざ目を開けてみると。


「リリーランス様、お産まれになりました!元気な女の子ですよ!」


視界はぼやけていて何がなんだか良くわからないが、恐らく目前の景色は天蓋というやつだろう。ベッドの上からなめらかそうな布が垂れている。そして、複数人の人影。こちらを覗き込んでいる。先程の声を聞くに、どうやら出産の現場らしいが、私には子供どころか恋人もいない。

それよりも、この医者らしき女の口から、『リリーランス』という名前が出た。だが、その名前は、私のよく知ってるあのゲームの中の登場人物の……


「本当?よかった……!」


これもまたどこかで聞いた声だ。優しそうで、慈愛に満ちた女性の声。


「やっと会えたわね、コンスタンス。これからよろしくね」


たおやかな黒髪を汗でぐっしょり濡らした女性の手が頭まで伸びてくる。あたたかい。

これは夢なのだろうか。私は赤ん坊になっているらしい。


しかし、ファミリーネームはリリーランス、名はコンスタンス。聞いたことのある名前だ。


そう。それは、さいファン作中のかの悪役令嬢、私の最推しの彼女と名前であった。



________________________



私の生涯の最推し、【コンスタンス・リリーランス】という女について。


『きみとさいしょのファンタジー』作中で女主人公(デフォルトネーム:アンネ・ラズリー)選択時にライバルキャラとして登場する、蒼風(そうふう)の国の公爵家、リリーランス家の一人娘。所謂"悪役令嬢"と呼ばれるキャラクターだ。


ファン間の通称は『コニー』。


長い睫毛にはっきりとした青いツリ目。控えめながらもニヒルな笑み。ツヤのある黒髪ふわふわロング。分けた前髪からちらっと覗くキュートなおでこ。陶器のように白い肌。容姿端麗で、作中でも屈指の美形として描写されている。

そんな外見とは裏腹に、陰湿かつ意地悪な性格で、攻略対象に好意を寄せる主人公・アンネに、あの手この手で妨害を繰り返す。


基本的に高スペックで、容姿に関しては先述した通り。頭も良く頭脳明晰と言われるタイプだが、その頭脳は普段他人を貶める方へ使われてしまっている。魔法の使い手としても優秀で、不得意な分野でも常に研鑽を積み、努力を惜しまない。公爵令嬢と言うからには礼儀作法も心得ており、その所作の美しさは作中のLive2Dでも表現されていたとおりだ。


この通り、コミュニケーション以外の面において完璧超人で、普段の仕草や態度もどちらかというと物静かな、お人形のような人だ。見目の麗しさもどこか浮世離れした存在として孤立の気を増している要因だろう。


その頭の良さや行き届いた礼儀作法は、厳格な父親による淑女教育の影響で、自分の気持ちを素直に伝えることのできない子供時代を過ごしていた。優しかった母親はコニーが五歳の時に病で他界しており、他人に厳しく、コニーや使用人たちを遠回しに揶揄するような口調を多用する父の姿を見て育ったコニーの態度は、自然と父をトレースしたものになっている。

父の教育から脱した反発からか、学園ではかなり横柄な態度を取っており、孤立の一途を辿ることとなった。悪役令嬢の周りにはよく二、三人の”取り巻き”が居る事が多いが、彼女にはその取り巻きさえも居ない。何でも一人でできてしまう盛りすぎスペック故の代償なのだろうか。


そんなコニーは、学園で出会ってしまったのだ。

平民にも関わらず、素直な性格で自分を目一杯さらけ出して、時には失敗もする。それでも尚皆を愛し皆に愛され認められ、ついには学園そのものに良い影響を与え続けた中心人物。まさに主人公だった。

当然黒い感情は胸中に巻き起こるもので、その感情が溢れ出し、本編中に描写される、主人公の活躍や恋路を邪魔する一連の行動につながる。


どちらかというと「攻略対象のことが好きだから主人公を排除する」というより、「キラキラした主人公が羨ましくて行き過ぎたちょっかいをかけてしまっている」キャラクター。その証拠に、コニーが登場する妨害イベントが数多く存在する中で、攻略対象の隣に相応しいのは自分だと主張するような台詞や、攻略対象に媚び諂うようなニュアンスの行動は一度も登場しないことが確認されている。終始主人公の妨害に徹しており、自分を立てようという気は全く無い。全イベント回収の時に気づいて、良く作り込まれているなぁと感心したものだ。


それに、コニーは人間関係に対して非常に打算的に考えているから、周囲と良い関係を築く目的ならば、みんなの人気者である主人公を虐げるようなことはしない人なんじゃないかとも思う。

主人公への一連の妨害は、コニーが父の抑圧から軽く解放されたところで初めてまろび出た醜い自我の一端であり、完全な自己満足なのだろうということが伺える。


コニーは元々感情の矢印の先が主人公に向いているので、彼女の心の内に気づき、絆すことができると、素直に話をしてくれることも増える。これが本当にもう可愛いんだから。

容姿端麗、頭脳明晰、堂々とした立ち振る舞い。単騎で難敵として立ちはだかったコニーが心を許してくれた時の達成感はひとしおで、一気に安心感も押し寄せる。「この人が味方になったらもう敵なしだ!」という枠の敵。



……という内容が明かされるのが、唯一コニーが幸せになれる”コニー√ 真エンド”である。多少の脱線は御愛嬌。

乙女ゲームには往々にして"トゥルーエンド要員"が居るものだが、それのうちの一人がこの悪役の片割れであるコニーであり、ひいてはコニー√ 真エンドである。

コニー√ 真エンドは一周目では未解放。二周目以降のセーブデータで慎重なステータス管理やフラグ管理の末に辿り着くことのできる隠しエンドである。他√では悲惨な目に遭っていて、大抵は父であるリリーランス公爵の汚職がバレて没落からの借金苦に陥っているが、酷いと処刑されるまでの行動を主人公に対して起こしてしまう。

実は、他エンドでも毎回起こっていた父の汚職が物語本編で巻き起こっていた学園の異変に大きく関連していたことがこの√ で判明するのだが、それはもう長くなってしまうため今は一旦割愛だ。


ちなみに、コニーと結ばれるエンドがあるのは主人公だけ。作中での主人公への態度は、彼女が唯一表に出してしまった綻びとも言えるし、その綻びをきっかけに彼女を変えることのできる人もまた主人公だけだという公式からのアンサーなのではないかと個人的には思っている。主人公の邪魔をするという立ち回り上”悪役”の席に置かれてはいるが、むしろ攻略対象としての適性は他の誰よりも高い気がする。実際のカプ人気も計り知れない。


かく言う私もこのゲームを始めた頃はまだ百合が好きというほどでもなくて、普通に男女カップルに萌えていたのだが、コニーは基本女主人公、つまりアンネの時しか登場しないのだ。隠しコマンドで男主人公での攻略も可能で、実際遊んでみたが、やはり初見時のコニーとアンネが親のようなものとして刷り込まれており、あの時の感動に匹敵するものは他にない。

コニーのオタクは「アンネと出会えてよかったね……!」と言いたいし、セットでアンネのことが大好き。本当に幸せに暮らせ、推しカプ。




……なのにも関わらず!

なんと私がコニーとして産まれてしまっている。つまり、この世界にコニーは、私の最推しは居ないということになるのか。

私がコニーを好きになったのは、あの子供時代を送ったことで培われた努力家な面や洗練された所作を含んでいるし、苦悶する過程あってのものもあることは確かで……


ただ、さいファンの魅力はキャラ単体の造詣のみではない。

そう、キャラ同士の関係性。主人公とキャラクターとの恋愛だけではなく、キャラクター同士での恋愛もさいファンの大きな醍醐味である。

私は最推しカプがアンネ×コニー(×アンネ)なだけであって、それを契機に他の百合カップルもどんどんと開拓していき、女性キャラの中では大体固定の二人組を見出した。ただ、左右も相手も固定派でないので、女子と女子が仲良くしているならばそれをただ見るだけで幸せになれる体質になってきている。


ならば、最推しは居らずとも、今世でできることは少なくない。


推しカプを、成立させる。


キャラ間の関係が進むイベントの発生条件やその内容、タイミング、その他諸々。覚えていることは多い。特に女性キャラ同士のものに関しては。ただ、一気に思い出せるものでも無いので、文字に起こすことは重要かもしれない。ペンを取りたいものだが……


ここで現実に回帰する。


どれだけ思考を回したところで、私ことコニーは現時点でまだ意味のある言葉を発せぬ赤ん坊。とりあえず今の私に出来ることは、今置かれている状況を知ること。それから、発売直後から一年以上やり込んだ成果であるさいファン脳内ライブラリーを最大限発揮し、攻略対象たちの情報を洗い直すこと。この丸い手では文字はまだ書けないから、いつでも見返せるノートを作るのは、数年経ったあとにしても良いだろう。


私の楽しい推しカプ眺めライフは、今始まりを告げたのだ。

かなり見る人を選ぶ話になると思います。


男主人公の話と交互に更新していく予定です。一回一回対になる話を書いていくので、どちらか一方の話だけを見ても内容の大筋は変わりません。出てくるのが女子か男子かの違いだけです。ただ、主人公二人が出会うのは幼少期のうちの予定で、合流までそう話数はかからないはずなので、途中から同じ話の中でGLとBLが混在するようになると思います。


次回、物心がつく。

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