第72話 同窓会の夜
ヤリスCup Carは専用装備が搭載されているが、基本的な構造は元のTOYOTAヤリスとほとんど変わりない。
乗車定員も5人で変わらず。
だが、運転席の小岩剣は6点式シートベルトをしており、助手席の三奈美つばさはそれに驚いた。そして、後部座席の女性3人は籠や檻のように組まれた6点式ロールケージにも驚く。
「こいつのレースは、安曇野サーキットで26台中15位。今月中には、筑波サーキットでこいつのレース。」
等と話しながら、店に向かう。
ダーツやビリヤード台、ゲーム機も置かれた居酒屋に入る。
居酒屋であるが、皆、明日の勤務もあるので酒は飲まず、ノンアルコールを飲みながら、肴を摘まみつつ、昔の思い出話に花を咲かせる。
だが、肝心の小岩剣は、昔の思い出話となっても、特に、持田明里と同級生だった中学2年頃の記憶が曖昧で、それ以前の記憶はまるで無い。
三奈美曰く、小学6年の担任教師の虐待で、小岩剣は山岳遭難事故に遭遇し、その後小学校に現れる事は無かったにもかかわらず、中学1年の夏休み手前、障害者クラスから逃げ出して、普通のクラスで授業を受けるようになったものの、中学1年は病弱で学校に来ることはあっても、入退院を繰り返す有様だった。それが、中学2年になると、毎日ゲラゲラ笑って過ごすようになった。
「でも、私が長野へ引っ越すことになってね。」
と、持田明里が加わる。
「それで、演劇部の白金部長が駅員の真似をする様子を見て、文化祭での劇で明里の代理となった。女役でありながらも、知らないで見たら、女の子と間違える姿だった。」
三奈美は言いながら、昔の写真を付いてきたSL観光アテンダントに見せ、二人は「かわいい」とか歓声を上げているが、小岩剣はやはり曖昧だ。
だが、その文化祭の本番を演じきった直後、小岩剣は突如意識を失って舞台下へ転落し、どういうわけか、防災ヘリでどこかの病院へ搬送され、次に小岩剣が中学校に姿を見せたのは中学3年の1学期だった。そして、その頃から、小岩剣は自分の生まれ故郷を探す旅を始め、その過程で群馬を訪れた際、当時、鉄道マニアの第一線にいた三条神流他、現「ADM」こと「赤城ディスタントムーン」のメンバー達と出会ったのだ。
「よっしゃ!」と、SL観光アテンダントと持田明里がダーツをしている。
松宮という身長165㎝にボブカットのアテンダントの趣味がダーツらしい。
「まるで記憶無い。」
と、小岩剣は首を横に振りながら、ダーツを投げると真ん中に命中した。
「どこのバカが、何も考えねぇでど真ん中に命中出来るんだよ。」
三奈美はそれを見て呆れ返り、松宮もひっくり返ってしまった。
あまり遅くまでやらず、21時になった所でお開きになる。
小岩剣は下今市機関区まで皆を送って、再度、金谷ホテルに戻る。
明日はSL大樹ふたら72号に東武日光から鬼怒川温泉まで乗車した後、栃木市の方を回って帰る予定だ。
これには、三条神流と松田彩香も来ると言う。
(まぁレースはあんなことになっちまったけど、嘆いても仕方ない。明日は久しぶりに楽しむ!)
と、小岩剣は思いながら、そして、中学、高校時代までの同級生と再会した事やSL観光アテンダントとも繋がって、東武のSLに付いて面白い話を聞けた事もあって、「えっらいこっちゃ!えらいこっちゃ!」等とはしゃぎ、かなりニコニコしながら、自分の部屋に入ろうとしたのだが―。
「ぐっ!」
突然、電気ショックを背中に受け、そのまま気絶してしまった。
気絶する直前、スタンガンを持った、アンナの姿が見えたような気がした。




