第71話 同窓会の案内
表彰式で時間を取られた白雪アンナは、東郷玲愛と小岩剣を探した。
小岩剣に過失は無いとは言え、かなりへそを曲げているであろう小岩剣を慰めてやろうというのだ。
だが、表彰式を終えた時、小岩剣はヤリスに乗って、どこかへ出発してしまったところだった。
「霧降。」
と、玲愛は小岩剣がどこへ行ったかを尋ねる。
「俺の命令だ。表で頭冷やせと言ったんだ。それに、今日は同窓会だというからね。」
「同窓会?」
玲愛は首を傾げた。
「まさか、やっぱりSLの観光アテンダントのお姉さんたちと!」
激昂したアンナは、小岩剣の後を追って飛び出して言った。
「あれほど言ったのに!そう言う事は私か玲愛とやれって!お店でお金払って、そう言う事して後でタイヤ代出せなくなるって事態になったでしょうが!」
だが、小岩剣の姿は女の子のお店とはかけ離れた場所にあった。
女の子のお店なら、きっと甘いお香の匂いや、茜色の薄明りの廊下と部屋があり、そこに化粧でギラついている女の子が腐るほどいるのだろうが、小岩剣の今いる場所は、橙色の証明に照らされた大きな格納庫があり、その中には女の子ではなく、赤い無骨なディーゼル機関車が1両と、炭水車は無いがそれでも近くで見ると黒くて大きな蒸気機関車が2両、今日はC11‐325とC11‐207が居り、甘いお香の匂いではなく、石炭の煙や鉄と油の臭いが立ち込める場所だった。
「いいのか?連絡したとはいえ、こんなところに入って。」
と、小岩剣は女の子のお店に行く以上に緊張しながらその中をウロウロしていると、
「こーら!」
と、後から抱きかかえられた。
「君ねぇ。やっていいこと悪い事があるでしょう?いくら私達SL観光アテンダントとよく話すとは言え、こんな時間にこんなところに居ちゃダメでしょう!」
見ると、自分より長身で体格の良いSL観光アテンダントの女性に捕まったのだ。
「いや、あの、今日は分けあって―」
ジタバタ暴れる小岩剣は、年上の女性に捕まったいたずらっ子のようだ。
「沢渡さんどうしたの?」
たたたっと、別のSL観光アテンダントも駆け寄る。
「ああ、松宮さん!例の子よ!不法侵入者にまでなったわ!」
「違います!本当に―。えっと、ここに、持田さんっていうアテンダントさんが居ませんか?後、三奈美って言う機関士さん。その人達に呼ばれて―。」
「嘘つかない!悪い子ね!」
松宮と言うSL観光アテンダントも言うが、その時、目の前のC11‐325が「ボッ!」と汽笛を一瞬鳴らした。そして、キャブの中から機関士が降りて来た。
「ああ、沢渡さんに、松宮さん。すみません。自分が呼んだのです。自分の同級生で、今日、勤務終わりに飯に行こうと誘ったのですが、325が面倒掛けやがって、出迎えに行けず―。それで、ここまで探しに来たのでしょう。」
三奈美つばさが、沢渡と松宮というSL観光アテンダントに頭を下げて詫びる。
「なんだ、三奈美君の―。アハハ、ごめんなさい。」
と、二人も小岩剣に詫びた。
(言わんこっちゃない。)
と、小岩剣は思った。
「ぶん投げられなくて良かったな。沢渡さん、女子柔道部上がりらしいぜ。」
三奈美はそのセリフに「勝手に入って来るな」と言う意味も込めていた。
「火床整備に時間が掛っちまってね。SLは手間かかる。と言うか、明里の奴どこに居るんだ?松宮さんや沢渡さんも、なんでこんなとこに?」
「それが、持田さんに連絡したら中に入れと―。」
「あっ。あの野郎仕組んだな。」
と、三奈美が舌打ちすると「驚いた!?」と、DE10の後ろから、持田明里がひょこっと顔を出した。
「何やら、レースが微妙な事態になっちゃったみたいだから、ちょっといたずらして、遊んだのよ。きっと不機嫌だろうから。」
「困った奴だ。」
三奈美は頭を抱える。だが、小岩剣は(あの世間知らずの高枕石油女王に下品な事されるより一億倍良い。)と苦笑いを浮かべた。
「へへぇ!なんか、飲み行くみたいじゃん?あたしたちも連れてって!」
と、SL観光アテンダントの沢渡と松宮。
「あの、コンプライアンスに抵触しませんかこんなこと?お二人の立場的に、まずいんじゃ―。」
「どっかお店で飲んでいたら、偶然居合わせた!良いね!?」
圧に屈した小岩剣。「分かりました」と言う。
「車5人までなら乗れるから、それでどこか呑みに行きましょう。」
「えっ?」
三奈美が首を傾げた。
「お前の車、レースに出ていたのは2人乗りの小さいのだろう?それに、事故っただろう今日。」
「予備車だよ。」
と、小岩剣はC11‐207を指して言った。
「なるほどね。ここと同じか、複数台の釜が居れば、検査やぶっ壊れたとしても、運休にさせることなく、運転出来る。SL持ってる鉄道会社でも、それが出来るのは、全国広しといえ、ここと、高崎と、梅小路だけだ。もっとも、ここはJR北海道の207に関して半分ドロボーみてえなことしてるけどな。」
と、三奈美。
「じゃあ、点呼したら行くから、ちょっと待ってて。」
と言い、三奈美は点呼場に向かって行った。




