第52話 日光金谷ホテル
本当にあっという間の乗車時間で、SL「大樹ふたら71号」は東武日光駅に着いた。
鬼怒川温泉行きの「大樹」なら、同じ料金で30分以上乗っていられるが、東武日光行きの「大樹ふたら」は15分程度。
(コスパ悪ぃ。でも、乗れたから感謝。)
と、小岩剣は思いながら、持田明里と先頭の蒸気機関車の方へ向かう。
C11‐207号機は給水作業に入っていた。
機関士の三奈美つばさに「今し方、連絡先貰った。明後日の夜の呑みの誘いを受けた。絶対は無いが、行けるようなら連絡する。」と伝える。
「慌ただしいな。後ろのDE10に乗ってくれたらなぁ。」
と、三奈美つばさ。
東武日光駅は頭端式ホームで機回しが出来ないため、列車の最後尾にピックアップ用のディーゼル機関車DE10が連結されている。今日のDE10はJR北海道の北斗星色のDD51に似せたカラーリングの1109号機。元はJR東日本青森車両センター所属の機関車で、小岩剣も青森で「日本海」や「あけぼの」の編成を青森車両センターへ回送する姿を見ていた。
「そうだな。甲種内燃動車の免許あるし、HD300動かしているし、案外いいかも。少なくとも、強制されてレースに出るより、一万倍ね。」
「なんだその言い方。まぁ、明後日、レースの後会おう。お互いご安全に。」
三奈美つばさと少しだけ話し、持田明里に「じゃあね」と見送られ、改札を抜け、直ぐに下今市まで戻る切符を通して普通列車で下今市まで戻り、下今市で小岩剣はS660。アンナと玲愛はクリミアを回収。
「昼飯は東武日光駅近くのガストで。平日なら1000円ちょいで腹いっぱい食わせてくれますし、湯葉なんて金谷ホテルで腐るほど出るでしょう。」
と、小岩剣は言う。
東武日光駅近くのガストまで走って、フィットメニューで昼食にし、日光金谷ホテルに入ったと同時に選手受付が始まった。
受付を済ませ、車の点検をする。
「点検にキレあるね。」
と、今回、スポッターを務めるラモットが言う。
「職業柄、きっちりと点検をするもので―。改めまして、今回のレース。スポッターよろしくお願いします。」
小岩剣は挨拶する。
「レースの特性から、実戦練習が出来ないのがな。だが、頼れる。」
と、霧降要。
霧降要は、三条神流と松田彩香のスポッターを務める。
アンナは玲愛がスポッターを務める事に変わらない。
小岩剣はコース確認兼、練習走行の時間までにトイレを済ませる。
トイレで、坂口拓洋と出くわした。
坂口拓洋、今回もまた、スポッター無しの孤独な闘いらしい。
「SLに乗っていたらしいな。」
「どうして?」
「東武日光駅近くの歩道橋で見ていたよ。お前が展望デッキでアテンダントの姉ちゃんと喋ってるの。」
「-。」
「乗るなとは言わねえが、乗るなら、レース後の楽しみにしておけよ。」
坂口拓洋は冷たく言う。
「拓洋さんこそ、なぜSLを見ていたのですか?」
「そうだな。生まれ故郷に、SLは走っていなかったからな。ちょっと珍しいのかも。」
「えっ?だって、秩父鉄道でもSL走って―。」
坂口拓洋はそれに、首を横に振って答えた。




