第51話 SLの車内
汽笛を鳴らし、SL「大樹ふたら71号」は下今市駅を発車する。
(今日はうるさいメロディーホーンは鳴らさず発車。ありゃあったでうるせえけど、無いと味気ないな。)
と思う。
「日光まで乗るのは良いけど、ワンコ君、車は?金谷ホテルに止まって無かったけど?」
玲愛が聞く。
「下今市駅近くの駐車場です。直ぐに普通列車で折り返し、回収します。」
「ちょっと昼ご飯は!?」
「回収後、東武日光駅近くのガストで。受付開始は14時半からですので、十分間に合います。玲愛さんとアンナさんは―。」
「私はロータスを金谷ホテルに停め、アンナのクリミアで一緒に下今市まで来た。お昼は、一応、コンビニで軽く。」
玲愛は微笑む。
アンナはSLに乗るのは初めてのようで、周りをキョロキョロ見回している。
「良く乗っている様子だって前聞いたけど、どうして?」
と、アンナ。
「この列車、自分の生まれ故郷の青森に来ていた、夜行列車の客車を始め、思い入れのある機関車が使用されているのです。それに、高崎で走っているSLよりも気軽に乗れるので―。高崎のSLはやる気ない上、補助機関車のELとDLが引退したこともあり、まるで運転機会が無いので、あまり好きではありません。」
「思い出と、気軽さか。それで、アテンダントのお姉さんと仲良し?さっきも、なんか親し気に話していたね。」
「-。実は、機関士とアテンダントに、自分の元同級生が居たのです。これは、先ほど知ったのですが―。」
アテンダントの観光案内放送が行われている。
開けた窓から、蒸気機関車のドラフト音が聞こえる。
だが、アンナと玲愛が居てはあまり楽しい気分になれない小岩剣。
「トイレに行く」と言って、席を立ってしまった。
席を立って向かうのはトイレとは逆方向。2号車の後ろ側のデッキだ。
デッキといっても、ここに乗降口は無い。かつて、デッキだった部分を大規模に改造して、ベランダのような展望デッキにしたのだ。そのため、窓の外の風を感じながら、開放的に景色を眺めることが出来る。
簡易的な椅子に腰かけ、走行音を聞きながら、景色を眺めていた。
「お連れさんは置いてきぼり?」
と、持田明里が声をかけた。
「困るんだよな。俺の行くとこ行くとこ付いて来て。おまけに、私達と一緒にレースに出ろって。確かに、今は走り屋だけど、所詮は走り屋だ。一緒に走る人たちに追い付こうと、必死になって、レース用のライセンスを取得したら、逆にそれがオーバースペックになり、更に、俺の走り方はレース用だって理由付けて、ロシアだかイギリスだったか知らねえけど、海越えて俺を仲間にしようって。こっちの都合考えろっての。」
「へぇ。モテモテねぇ。」
と、明里はニヤリと笑った。
「あぁ。これ、連絡先。こっちがツバサので、こっちがアタシ。明後日のレースの後、呑みに行かない?」
小岩剣は連絡先の書かれた名刺を貰う。
「おいおい。コンプライアンス違反じゃねえのかこれ。」
「上司の許可得ているよ。」
(嘘つけ!)
と、小岩剣は舌打ちしつつ、自分の連絡先を渡す。
「絶対はねぇからな。行けねえ可能性が高いぞ。」
「はいはい。ツバサにもそう伝えておくから。ところで―。」
持田明里は2号車の客室のドアの方を見る。
アンナが見張っていたのだ。
「あーっうっせぇ。今に、お前と浮気したって言ってくるぞ。」
と、小岩剣は溜め息を吐いた。
「レースで飯食ってんじゃねえんだから俺は。倉賀野貨物ターミナルの入換機関士やりつつ、走り屋だっての。」




