第34話 岩井堂ダウンヒルその2
県道59号、浅間・白根・志賀さわやか街道に入り、ダウンヒルが続く。
先頭を行く坂口拓洋は変わらず一人旅。
白雪アンナは小岩剣が、J’SとSEEKERをパスして上がって来るのを待っていた。
(あの性能のS660なら、SEEKERとJ’Sを抜けるはず。ただ、タイヤ厳しいか。いや、来れる。)
と、アンナは思う。
しかし、小岩剣は今になって、前を行く車両の後ろに付いて引っ張てもらうという戦法に切り替えた上、切り替えた理由と言うのが、タイヤやブレーキの熱ダレ防止ではなく、自分の身体への負担軽減と言う理由だ。
なので、ずっと、SEEKERと一定の差をキープしたままだ。
最も、小岩剣は最初から、いきなり目の前に現れておきながら「自分は貴方のパートナーだ」とか、意味の分からない事を言うような奴と組むつもりは無かった。
一つ上のクラスBの9番手、10番手を行く三条神流と松田彩香の重連は、変わらず息の合ったコンビネーションを見せており、両者共に10位以上の入賞確定ペースである。
「三条。一応危惧しているかもしれんから伝えておく。つるぎ、現在5番手。」
と、霧降要が通信。
「よくそこに居られるな。15番手くらいまで落ちたと思ったが―。」
「パワーアップしすぎたエスロクがみんなエンジンブロー。つるぎのエスロクは85馬力止まりだからな。坂口拓洋も90以上には上げていないらしいし。」
「いたずらにパワー上げればいいってもんじゃねえ。そもそも、軽のエンジンを、BRZの純正エンジン並みのパワーまで上げるのが間違いだ。」
言いながら、つまごいパノラマラインの交差点を通過し、千之入ポケットパークのギャラリースポットを駆け抜ける。
(そもそも、アヤだって、俺か恵令奈じゃなかったら扱えねえんだよ。こんな暴走眼鏡っ子。)
「なんか失礼な事考えてない?」
松田彩香が言う。
「別に。」
三条神流、素っ気ない。
そして、本来なら三条神流と松田彩香の重連のように、連携を組みたかった白雪アンナは、止む無く、単独で坂口拓洋を追って、三条神流と松田彩香の重連よりも遅れて、千之入ポケットパークを通過。
坂口拓洋はその3秒前に通過している。
(連携出来ていたら、もっと差を詰められたのに―。)
と、小岩剣を思う。
小岩剣も、千之入ポケットパークを通過。
この時、J’SとSEEKERと小岩剣は3位集団を形成していて、ここでSEEKERとJ’Sは小岩剣を前に出した。小岩剣もJ’SとSEEKERが何を考えているかを悟った。
(3台体制で連携―。勝負はどこか分からぬが。)
と、小岩剣は頷くと、SEEKER、J’S共に頷いた。
その情報は、一人で坂口拓洋を追跡する白雪アンナにも玲愛を通して伝わった。
「何よ!私とは組まないくせに!」
と、白雪アンナは舌打ち。
「一気に距離詰めすぎちゃったかな?」
「今夜、ヤっちゃっていい?」
「エッチ?」
「うん。そうすれば、自然と私に吸い寄せられるんじゃない?」
「そうね。私も、ワンコ君にチューして、ワンコ君メロメロよ。」
違う。
小岩剣は当時、N-ONEオーナーズカップに出場していたADM所属の女性レーシングドライバーの事を追っていて、玲愛達から訓練を受けていたのだ。
そして、その女性ドライバーがとんだ大馬鹿野郎だったと知り、目標を失った小岩剣は、玲愛に八つ当たりのような格好で告白したが、玲愛が有耶無耶な回答をしたため、更に暴走して、風俗で女遊びをしていた所を三条神流と松田彩香に見られた上、坂口拓洋に暴言を吐き、怒った坂口拓洋が富士スピードウェイに招いたのだ。
森の中の高速S字区間を通過し、直売所の高速ヘアピンをドリフトとグリップの合間で通過する小岩剣は、一つ上のクラスのAE86と普通自動車登録したS660をパスしたが、J’SとSEEKERが失敗して単独になってしまった。
(どうする?ダウンヒルで差を広げて稼いでおいて、ヒルクライムでまた後付いて、最後のダウンヒルでスプリント勝負するか?)
小岩剣、一瞬考える。
(いや、変な事しない方が良い。ここで無意味にタイヤやブレーキを使っても、結局はスプリント力のあるソフトコンパウンドタイヤを履いている相手に食われるのがオチ。)
そう思った。
だが、万座ハイウェーの交差点までのダウンヒルストレート。
ここで、J’SとSEEKERが一気にアタックを仕掛けて来た。
小岩剣は対応が遅れ、ブレーキング勝負でサイドバイサイド。
アウトサイドに居た小岩剣は、タイヤのグリップ力が足りず、アウトに膨らみブレーキを蹴飛ばした。
その隙に、J’SとSEEKERが小岩剣をオーバーテイクし、そのまま、万座ハイウェーのヒルクライムに入ってしまった。




