第1話 富士スピードウェイ
サイティングラップを終え、グリッドに付く。
小岩剣。
カーナンバー215のHONDA S660。
S660ワンメークレースながら、スターティンググリッドは全36台中、30番手。
小岩剣より前の者は皆、エンジンに手を加えているが、小岩剣はECUとマフラーを弄っただけのS660モデューロX。
最初から、ある程度速く走るためのパーツを組み込んでいるモデューロXだが、エンジンや吸排気系に手を加えられてはどうしようもない。
更に、小岩剣にとって初めてのレースで、サーキットも走ったことも無いサーキットでのレースだ。
それでも、逃げ出して泣き喚くことなく、レースに挑む。
後方でグリーンフラッグが振られ、前方のレッドフラッグマンが退避する。
併催される、というより、併催させてもらっているS660のレースだが、併催されるレースを見に来た観客が、グランドスタンドや各観戦スポットで見守る中、今、シグナル注目。レッド点灯。今、ブラックアウト。
一気に36台のS660がグリッドから射出されるようにスタートする。小岩剣も行く。加速しながらいきなりヘアピンの1コーナー通称TGRコーナーに飛び込むハードブレーキング。
小岩剣、アウトサイドに弾かれるも、ゼブラギリギリの位置で踏み止まりながら、アクセルとパドルシフトを駆使して前に前に喰らい付いて行く。
下り勾配の2コーナーの先に左のコカ・コーラコーナー。
前を行く501号車のラインをなぞり、ゼブラに左のタイヤを当てながらクリアして、高速右コーナーであるトヨペット100Rを駆け抜けた先に左のアドバンヘアピンが待ち構える。
501号車とブレーキング勝負。一瞬早いタイミングの小岩剣だが、ABSをしっかり利かせてクリアするが、501号車はもう少し奥でハードにブレーキングして一気に立ち上がる。
(あっちの方がブレーキング力高い。こっちも、モデューロ組んでいるのに!)
501号車は小岩剣より前の26番グリッドスタート。
エンジンにはあまり手を加えていないが、ECUをHKSフラッシュエディターフェイズ2で武装したハイオク仕様で、90馬力は出る。
一方で、小岩剣はホンダツインカムスポーツドコンピューター。物の組み合わせ次第で100馬力以上の力を出せるが、現在は出せても85馬力程度。これでは、アドバンヘアピンの先、300Rのスピードで負ける。
後ろから29番グリッドスタートの535号車に煽られる。いや、535号車は小岩剣のスリップストリームを使っている。何を狙っているのか?
目の前にダンロップシケイン。ブレーキング。
「あっ!」
535号車がいきなり、小岩剣の前に現れた。
こちらもブレーキング勝負を狙ったのだ。
(くっそう!手も足も出ねえとはこのことだ!)
小岩剣、必死になって、上り勾配のテクニカルセクションでのコーナリング性能で現在の順位を維持するも、最終コーナーを立ち上がったところから始まる約1.5キロと言う世界一長いメインストレート。ここでパワーのある車に食い殺されてしまった。
それでも30位を維持して1周を終えるが、レースは6周。このまま行けば嬲り殺しにされかねない。それでも、小岩剣は諦めないで挑み続ける。
ここは、小岩剣の本拠地、群馬から遠く離れた富士山の麓のサーキット。
富士スピードウェイである。




