第107話 我、突入ス!
洞爺湖湖畔に、スーパーカーやレーシングカーの咆哮が轟く。
その中に、三条神流と松田彩香の重連も居る。
今日の重連は松田彩香が前で、三条神流が後ろ。
この順番でのゴールというチームオーダーだ。
「下手に同士討ちした場合、最悪、どちらか一方を見捨てることになる。」
と、霧降要。
東郷三姉妹のAK50でローダー車がトラブルで用意出来ず、よりによって長距離遠征なのにローダー車が1台だけという状況故に、全損級のクラッシュが2台以上起きると、どちらか一方を見捨てなければならない可能性が高いのだ。
故に、霧降要は松田彩香と三条神流の同士討ちクラッシュが起きないよう、敢えて二人には「同士討ちのバトル禁止!2台体制で順位を上げろ!」と強く指示を出していた。
一方で、Bクラス先頭では、同じチームメイト同士の争いが起きていた。
ホワイトレーシングプロジェクトの坂口拓洋のNSX‐NA1が、坂口愛衣のアミューズS2000GT1に追われているのだ。
月浦の分岐点で、アミューズは下回りから火花を上げる。
NSXはシケイン状の細かいコーナーを直線的に抜けていく。
(こいつはエスロクではないからな。エスロクなら、もう少し危ないとこまで行けるんだが―。)
と、坂口拓洋は思う。
左、右の複合コーナーをグリップで抜けるが、アミューズはコーナーで迫って来る。
(コーナーだけなら、確かにS2000はNSXより速いが―。)
湖畔に降りて行く。
(加速性能なら、こっちが上さ。)
と、坂口拓洋は思う。
(悪いけど、せっかく同じクラスのレースになったのだから、俺、ガチンコでお前に勝つから。俺の方が上手なんだよお前よりも。来シーズンのGTのシート返してもらうぞ。)
森の中。
前方に、GT300のマシンが見えた。
TEAM MACHマッハ車検エアバスターのTOYOTA86 MC。その前に、ホンダカーズ桶川CIVICのシビックtype R FL5が2台連なっている。
マッハ車検のスリップに突入した坂口拓洋は、高速右コーナーでインからマッハ車検をパスする。
エンジンチューニングにより、かなりの怪力を得ている坂口拓洋のNSX‐NA1はそのまま、シビックのスリップに入る。
ホンダ・レーシング。HRCからは嫌われ者である坂口拓洋を前に出すなと、シビック側で指示が出ているのか、マッハ車検と違って譲ってはくれない。
(ああそうかい。でもさ、これが事実だろう?お前がスーパー耐久マシンだか何だか知らねえが、それでも、俺のNSXに追い付かれている。これが事実。違うか?えっ?アホンダラさんよ?)
坂口拓洋もHONDAが嫌いなのだ。
特に、HONDAディーラーが真意不明の噂話を第三者に広める等、HONDAとは関わりの薄かった小岩剣を誹謗中傷した事件の後は露骨にHONDAを批判し始めた。
そうした態度が、スーパーGTのシート喪失という結果を招いたのだが。
シビックは2台並んでブロックしている。
しかし、その並走も、北海道大学のフィールド科学センターの先のS字で物理的に不可能になり、並走ブロックが崩れ、イン側のシビックがアンダーステアで外に膨らむ。それでも、坂口拓洋を故意にブロックしようとして、アウト側の車がインに寄せた結果、接触し、両者共にクラッシュだ。
「バカが。素直に道空ければいい物を。」
と、坂口拓洋は吐き捨てる。
(出たよ出たよ。HONDAの伝統芸能同士討ち!)
坂口愛衣も鼻で笑った。
(V‐OPTにしろ、車関連の雑誌にしろ、拓洋はメーカー贔屓な事を言わず、自分が感じた事をそのまま言う。だから「これダメ」って露骨に言ってしまい、プロの定評を得た!って承認欲求を満たしたい連中からは煙たがられ、終いには、つるぎ君の一件にHONDAディーラーが絡んでいると聞いて、内部告発して大揉め。一歩間違えれば、レース人生そのものが無くなってしまうところだった。それさえなければ、GTのシートを失わなかった。だから出世が出来ない。言わなくてもいい事を言ってしまうから。だから、ユーザーからの信頼は厚く、誰からも頼られる。)
と、坂口愛衣は拓洋を評価する。
常に現実と向き合って、状況を見るという能力において、坂口拓洋と坂口愛衣は互角なのだが、拓洋の尖った性格、そして、拓洋の生まれ故郷への思いが、坂口愛衣と息が合わない原因なのだ。




