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12話 これって夢って言って良いのかな?


「はい、それではいきますよ。刹那の帰還(イピストゥロフィー)!!! 」


 ――エマはまるで何かから逃げるかのように魔法を放ち、僕たちは最初に師匠と出会った王城の城門の前に帰還した。


「ただいま! ねぇねぇ。今日は何する? 」

「なんでもいいですよ」

「僕も何でも良いよ」


 そんな会話をしながら、僕たちは客室に歩いて戻っている。

 それにしても、永遠に思い出せない。

 誰しも経験したことがあるだろうが、あとちょっとで思い出しそうなのに思い出せないのだ。

 こういうのはなかなかに嫌な気持ちになるのだが、もういいや。

 そんなに重要なことでもなかった気がするし、諦めるとしよう。

 そんなことよりも、今は今からすることに集中だ。


「じゃあ、今日も昨日と一緒でこれで勝負ね! 」

「良いですね! 今日こそ私が勝ちますからね」

「良いよ。今日こそは僕が勝つからね! 」

「じゃあ、私から行くわよ! 」




「よっしゃぁぁぁ!!!! 僕の勝ちだぁぁぁ!」

「うわぁぁぁ! あとちょっとで勝てたのに! 」

「明日こそ、明日こそ、私が勝ちますからね! 」


 僕たちは一体何をしてるのかって?

 人生ゲームのようなものを三人でやっているのだ。

 スマホもテレビもないので、暇な時間はこうやって過ごしているのだ。

 ちなみに今日は僕が初勝利した。

 師匠にも勝ったし今日はなんだかついているな。

 こういう日はなんかさらに良いことが起こる気がする。

 実に楽しみである。


「完全に忘れたようね。葵の言い訳を聞くのもいい加減飽きてきたもの。ゲーム作戦大成功ね。負けたのは大失敗だけど。まぁ、明日ボコボコにすればいい話だしね」

「そうですね。このゲームに熱中して完全に忘れてしまったようで、好都合でしたね。確かに私もアオイ君に負けたのは不本意でしたので明日こそ! 」


 なんだ?

 なにか二人が小声でぼそぼそ話を始めた。何だろうか。いや……まぁ良いか。

 超絶上機嫌の今の僕には関係のない話しだ。

 

 おっと。そういえばあと少しで夕飯の時間だな。

 今日のメニューは何だろうか。

 この客人生活の楽しみはズバリ食事である。

 稽古という名のイジメによって、家に早く帰りたいと最近では思うようになってきているが、この食事だけが救いだ。


「そろそろ夕飯の時間なんじゃないか? 」

「そうね。今日は一体どんなメニューなのかしらね」

「そうですね。では夕ご飯としましょうか」




 そんなこんなで夕食を食べ、シャワーも浴び、あたりはすっかり暗くなり、僕は特にすることもなくなった。

 元の世界と比べると少し寝るには早い時間だが、この世界ではすることも少ないのでそろそろ寝るのもアリである。

 それに稽古で体をとても動かしているので、意外と眠くなるのだ。


「ふわぁぁぁ。そろそろ寝る? 」

「ふわぁぁぁ。そうね。とくにしたいこともないし、眠くなっちゃたし寝ようかな」

「オッケー。じゃあ、明かり消すね」


 僕はランプを消し、自分のベットに入り目をつむった。

 すると、今日は疲れたのか、ブラックホールに吸い込まれるように意識が一瞬にして遠のいていった。




 ――どれくらいたったのだろうか。

 遠のいていったはずの意識が、今では帰ってきている。

 それなのに体は動かない。もちろん目もあかない。……参った。金縛りというやつだろうか。


 そう思っていると、目が急に開いた。しかし、そこは見たことのない真っ白な景色が広がっていた。

 いや、真っ白と言うより何もない世界という方が適切だろうか。

 すると、その世界の上から一人の女性が、美しい透き通るような水色の長い髪をたなびかせながら舞い降りてきた。

 その女性は地上に着くと聞き覚えのある声で僕にあることを言い放った。


 『私はあなたをこの世界に召喚した存在です』


 一目見て分かった。この世の者とは思えないほど美しい見た目。同じ空間にいるだけでひしひしと感じる神様のようなオーラ。

 上から、いや天から舞い降りてきたその女性は僕をこの世界に召喚した存在で、僕が探し求めていた『女神様』であった。


 ――あぁ、やっと会えた。

 僕はある一人の少女が満面に笑みを浮かべながら僕に話しかけてくる姿を思い浮かべた。

 すると、自分が死ぬ運命にあると分かったとしても、なんの不満もない日常を突如として奪われ、何も分からない異世界に来てしまったときも流すことのなかった暖かい数粒の水玉が頬をゆっくりとつたい、床を塗らした。


『――やっと。やっと会えた。あなたが僕を救ってくれたから僕はここにいられるんです。……あなたが救ってくれたから僕は今も胸を張って生きていられるんです。あなたが僕たちを救ってくれたとき僕は誓ったんです。あなたの力になってみせると』


 感情が爆発した。一人の少女の姿の思わず引き込まれそうになるほど美しい笑みを見れていられるのは、この人のおかげなのだ。


 ――僕は死にたくなかった。これは事実だ。死にたくない。死にたいないのだが、それ以上に恐ろしかったのは僕だけが残ることだ。

 りえが死ぬのは僕が死ぬこと以上に許せない。りえの犠牲の上で生きるなど僕には無理だ。

 もしそうなれば、女神様が救ってくれたこの命も簡単に棒に振ったかもしれない。


『――だから、僕は聞きたいんです。必ず力になってみせましょう。なので、どうか……教えてください。あなたがあの時に、僕たちに伝えようとした望みを……』


 ずっと聞きたかったようやく聞ける。女神様は死ぬ運命にあった僕とりえの二人の命を救ってくれた。二人分の命の分の恩を返すのは至難の業だ。

 いや、不可能だろう。 できる訳がない。いや、できてたまるか! 僕の命、りえの命。

 どちらか一つの命でさえ、それを超す価値のあるものなどないのだから。


 別にきれい事を言いたいわけではない。

 現に僕は、別に知らない人の命でそのように思うことはない。

 性格が悪いと言われるかもしれないが、僕は一切関わったことのない人がなくなったところで大して悲しいとは思わない。

 まぁ、それは本心ではみんな一緒だろうが……。


 命の価値はその人との関わり合いの大きさに比例する。

 どれだけ嫌いな人でも、一切関わったことの人より圧倒的に失ったときの悲しみは大きい。

 これが答えだと僕は思う。自分の中では自分の命が一番重要で良い。

 むしろそう思っていた方が良いだろう。

 ただ、それには例外もあるのだと僕は気づかされた。

 りえの命は僕の命と同じで一番重要だ。

 

――今の僕には二つの一番があるのだ。

 

 その一番を二つも救ってくれた恩を返すのはできるわけがない。

 それでも一生かけて、ちょっとずつでも恩を返していきたい。それは半分僕の自己満足でもある。

 恩を返すにも『望み』を僕は聞く必要があるのだ。


『………………。……私は、……あなた方に……頼みたいことがあります。……ただ。……ここで話すことはできません』


 なぜここで話すことができないのだろう。今この空間は完全に僕と女神様の二人だけである。

 盗み聞きされる心配はないので問題なさそうではあるのだが……。

 ……逆に考えるならば、この場にはりえはいないのだ。

 女神様は『あなた方二人』と言っていたし、りえもいるときに話したいから今話さないとかだろうか……。

 とは言っても異世界召喚されるときもずっとひとりだけだとおもっていたが、りえも聞こえていた様なのでりえにも同時で話せそうなのだが……。


『ふふ。半分正解で半分不正解です。りえさんもいるときに話したいからというのが理由で正解です。ただ同時で話せそう……と言うことですが、ここは私が先ほど創造したばかりの簡易的な虚無の世界なのです。実感はないかもしれませんが、なにもないこの空間に立ち入れるのは私の力の一部を使うことのできる”無秩序の冥護”を持つあなただけなのです。なのでこの空間にりえさんは残念ながら呼べないのです』


 び、びっくりした!

 女神様は心の声まで分かるのか。

 そういえば、召喚してもらったときも声にならない声を聞き取ってくれていたな。さすがは女神様だ。

 

 ……ん?ちょっと待てよ。さっきとても興味深い話をしていた。

 ”無秩序の冥護”? なんだそれ?

 先ほどの会話の内容からしてそれが僕の能力なのだろう。一体どのような力なのだろうか。


『さっき言っていた”無秩序の冥護”ってどんな力なんですか?』

『それも、また今度お話ししますね。今は秘密です』


 早く知りたい。この気持ちはアレだ。クラス替え発表の前日に先生に教えてくださいといっても明日まで秘密と言ってなだめられたときと全く一緒だ。

 絶対に分かっているのにお預けにされ、なんてケチなんだと思うあの気持ちと一緒だ。

 ……って、これも女神様は分かっているのかな!? や、やばい。


『分かってますよ。あ、お、い、さ、ん。私はケチな訳ではないのですよ』

『すみませんでした! 許してください! 』


 数日ぶりにジャンピング土下座を敢行(かんこう)した。まさか、またやる羽目になるとは思わなかった。


『ふふ。別に本気で怒っているわけではないので大丈夫です。次からは気をつけてくださいね』

『すみませんでした! 以後は気をつけます。……あのぉ、ところで話は変わるんですけど、なんで今日僕をここに招待してくれたのですか? 』


 そう。さっきの話を聞いて新たに生じた疑問である。なぜ僕をここに招待してくれたのだろうか。

 わざわざ招待してくれたぐらいなのだから、必ず何かしらの理由があるのだろう。


『――招待した理由ですか。……そうですね。……この世界にはスマホも電話もないので遊ぶ約束をするのも手紙を書くか、こうして直接話して決めるしかないのですよ。言うなれば、これは電話をして遊ぶ約束をしているようなものでしょうか』


 スマホに電話って、僕らがもともといた世界のことまで熟知しているんだな。さすがだ。


『いえいえ、いろんな世界を見ることを趣味にしているので』


 いろんな世界を見ることが趣味か。良い趣味だな。


『ありがとうございます』


 ――。話が進まねぇ。ちゃんと反応してくれるのはうれしいんだが……。


『あのぉ。一旦僕の考えていることを読み取らないようにするのって可能ですか? 』


 別に今は良いんだが、今後のことを考えると困るな。

 いつか取り返しのつかない事件が起きてしまいそうだ。

 さっきも大分ギリギリではあったが……健全な中学生三年生の男子としてちょっと人にばれたらまずいようなことがバレてしまったら先ほどの比ではないほどヤバい。社会的にもヤバい。

 やはり、なんでもかんでも考えていることを読み取られてしまうのはさすがに困る。


『た、確かに、それもそうですね。葵さんも一人の男の子ですもんね。プライバシ―に欠けていました』


 いや、そういうことじゃないんだけど!

 確かに、『健全な中学生三年生の男子としてちょっと人にばれたらやばいな』とはちょっと考えてしまったけど……。

 まぁ、大事件になる前にこれくらいのことで考えていることを読み取られないようになったのでよかったといえばよかったのだろうか?


『――話を戻しますけど、遊ぶ約束ってどういうことですか? 』

『あぁ、それですね。簡単な話です。りえさんと葵さんと私で一緒に集まって遊びませんかという私からの誘いです。そのときにでも葵さんがずっと気になっている私の望みを話そうかなと思っています。いかがしますか? 』


 女神様の望みをきけるのならばもちろんYESだ!

 まぁ、望みがきけないのだとしても女神様に会いたいしYESなのには変わりないのだが……。


『僕でよければ喜んで! ……それで一個質問なんですけど、いつどこで遊べるのですか? 』

『――うーん。基本いつでも良いですよ。暇しているので。……場所は封印の森と呼ばれる場所で。……といっても分かりませんよね。それではこの地図を渡しておきます。詳しい情報は国王ジュピターに聞けば分かると思いますよ。』


 女神様は何もない空間からでてきた地図を僕に渡してくれた。なにかの魔法だろうか。

 僕は宝の地図のように丸められたその地図をポケットにしまった。

 それにしても封印の森か。不気味な響きであるが、女神様が指定してくれた場所なのだから良い場所なのだろう。


『ありがとうございます。りえにもこのことは伝えておきますね』

『お願いします。……おっと。この世界の崩壊が始まったようですね。』


 世界の崩壊?

 確かに言われてみると何もない闇のような何かが真っ白な世界を少しずつ呑み込んでいる。これが世界の崩壊というやつなのだろうか。


『この世界が崩壊したら自動的にあなたはもといた場所に戻ります。というか、これ自体が精神だけが移動しているようなものなので元いた場所に戻るというのも変な話なのですが……』


 えぇ! 今って僕、精神だけの状態なんだ!

  今になって始めて知った。

 ――こっわ! いや、別に何も怖いことなんてないんだがなんとなくこっわ。


『――ふふ。それではそろそろお別れの時間です。また、お会いしましょう。バイバイ~ 』


 そういえば、望みの話をしていたときはどこか悲しげな印象を抱くような話し方だったのに、その話が終わってからはとても明るいな。

 望みとはそれほどに重いものなのだろうか。


――たとえどんなに重い望みだったとしても僕は必ずあなたの力となって見せる


 っと、僕は改めて揺るがぬ覚悟を誓った。


『――うん! バイバイ~!』


 ――僕はうなずくと、女神様に笑顔バイバイと手を振りながら、世界ごと闇に呑み込まれた。

明日は合計2話アップ予定です。

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