晴天の空の下
「本日は晴天なり」
そう声に出したくなるほど出立の日は快晴だった。
「出してるけどな」
「モノローグに突っ込まないでください」
日はすぐに過ぎていったが、考えてみれば準備することなど何もなかった。まず私物がない。あるとしたら着ているこの制服くらいだ。アリスも特に大きな荷物はなかった。腰に少し長めの剣を差しているくらいだ。ちなみに、必要最低限の荷物はあるのだが、何故かそれが入ったリュックは柚葉が持っている。あまり重くはないのだが、女子が何故。
「何故私は従者のような扱いに・・・?」
「その方が怪しまれないだろ、いろいろ」
「怪しまれるようなところに行くんですか」
「この国では俺は大抵顔が割れてるからな。面倒な噂を広めたがる輩も少なからずいるんだよ」
要は、第二王子が年頃の女を連れ歩いていた噂したがる物好きな奴は、どの世界にもいるということだ。一度広まってしまっては、そうではないと否定するのも骨が折れるし、柚葉と一緒にいる理由を行く先々で言って回るわけにもいかない。アリスの言う通り、荷物を持っていた方が、全てとは言わないまでも、ある程度は余計な噂をされるのは防げるだろう。
「さいですか。・・・して、私はやっぱり制服のままなんですね」
もっとこう、動きやすい服を貸してくれるとかなかったのか。アリスと一緒にいるより、この世界でこの恰好の方が怪しまれそうだ。
「お前が貧弱すぎてどれもサイズが合わなかったんだろうが」
「そうでした」
柚葉はがっくりと肩を落とす。城にある服をメイドに手伝ってもらって手当たり次第に試着したのだが、どれもこれもブカブカで、とてもじゃないが着れたものじゃなかった。特に胸が。この世界の女たちは皆豊満なブツを持っているのかというほど、ウエストが合っても胸がスカスカ、丈が合っても胸がガバガバ。ウエストや丈を詰めることはできても、胸の部分は固いパットのようなもので覆われていて、調節することはできなかった。大きいなんて思ったことはなかったが、特に小さいと自覚させられる機会はなかったので、意外と落ち込んだ。和葉は大きかったのに。
「それで、ニブルっていう森でしたっけ?これから向かうの」
「ああ。言っておくが遠いぞ」
「言っておきますが私体力ないぞ」
「その時は紐付けて引き摺ってやるから安心していいぞ」
「ありがとうございます」
ニブル森は最果てだと言っていた。正確には、この世界の最北端。ここ、アステリア王国は南に位置するから、全くの正反対になる。それも、直進できる道はなく、西側をぐるりと回って行かなければならないので相当な距離になるらしい。
「大丈夫だよユズハ。アリスはこれでも面倒見はいい方だから」
「面倒の見方の話ですよイヴァンさん」
見送りに来てくれていたイヴァンは安心させるように柚葉の頭を撫でた。できることならイヴァンと一緒に行けたらよかった。彼ならせめて担いでくれるくらいはしてくれそうだ。
「ユズハ、これを」
目を細めてそう言ったイヴァンはそっと柚葉の左手を取り、自分の方へ近寄らせる。イヴァンは女性のような綺麗な手をしているが、それでも柚葉のそれより一回り大きいし、力を込めていないようなのに、あっという間に身体は引き寄せられた。あまりにも動作が美しすぎて見とれ、一瞬何をされたのか気付かなかったが、いつの間にか柚葉の首にはネックレスが掛けられていた。
「お前、それは・・・」
「国王様がね、ユズハにこれを、と」
「・・・綺麗」
年季が入ったものではあるが、しっかりと手入れがされている。よく見ると、赤い宝石のようなものがネックレストップになっている。
「ルビー?」
「ただの色のついたガラスだ」
「ガラス?」
アリスの視線は柚葉ではなく、そのネックレスに注がれていた。それをよく知っているような目をしていた。
「国王様、ユズハのことを相当気に入っちゃったんだね。これはお守りに持ってなさいとのこと」
「お守り・・・」
国王は忙しくこの場に顔を見せていない。イヴァンによるとかなり顔を出したいとごねていたようだが、臣下が羽交い絞めにしてどこかへ連れて行ったらしい。先日の王の威厳はどこに消えたのか。
「遅くなる。もういくぞ、ユズハ」
「えっ、あっ、じゃ、じゃあイヴァンさん!行ってきます!痛い、アリスさん引っ張らないで!」
「気を付けてね」
制服の首元を引っ張るアリスに対し、笑顔で手を振ってくれるイヴァン。やっぱり、イヴァンと旅したかった。
「アリスさんアリスさん」
「なんだ」
「人間、前向いて歩くように作られてるから、このままずっとこの後ろ向きの状態だと、いつか足がもげそうです」
「ああそうか」
言うが早いか、アリスは柚葉の後ろ襟を離すと、前の首元に手をかけた。
「アリスさんアリスさん!?」
「なんだ」
「前向きならいいと言うわけではなくてですね!?」
引っ張るなといいたいんだ。どうにかアリスの倍の数足を動かすから、一人で歩かせてほしい。
じゃあちゃんとついてこいよと言うと、アリスは城下町を抜けようと先を急いだ。
「アリスさんアリスさん」
「今度はなんだ」
「名前呼んでくれたの二回目ですね!」




