運命に付き合うもの
褒めるってなんだ。
騎士たちの結界の準備が整って、柚葉を呼びに行くと、いきなりそんなことを言われた。
アリスには褒めた覚えもないし、褒めるようなことを柚葉にされた覚えもない。大方、ラウズガードが面白がって変なことを吹き込んだのだろう。
だが、なりゆきとは言え、後で褒める約束をしてしまった。後ろで嬉しそうについてくる柚葉は、それを楽しみにしているようだ。
アリスは柚葉を外に連れてくると、結界を張っている騎士の助言を合図に、柚葉の身体を引き寄せて、彼女の魔力をこの土地へ供給していった。
始める前から柚葉の身体は冷たかったが、それがさらにどんどん冷えていく。氷でも抱えてるんじゃないかと思えてきたころ、柚葉は寝言のように漏らした。
「アリス、さん・・・」
「あ?」
「アリスさんって、温かいですね・・・それに、いい匂い・・・」
胸の辺りで顔を押し付けて空気を吸われる。一体何をやっているのか。堪能するように目を閉じて微笑む柚葉が目に入って、一瞬魔法が揺らいだ。すぐに持ち直したが、危ないからやめてほしい。
「・・・・・・、お前、後で覚えてろ・・・」
「・・・?何が?」
自覚がないのは分かっていたが、実際にきょとんとされると、それはそれで腹が立つ。
とりあえず文句は後で言うことにして、続きに集中した。
魔力を供給するというのは、供給主に相当な負荷がかかるはずだ。輸血と一緒で、あったものを失うのだから、平気ではないのは当たり前だ。
柚葉の魔力を抜いていく度に、彼女の身体からは体温と力が失われていく。そのうち自ら立っていられなくなったのか、アリスの胸へ全体重をかけてきた。身体がずり落ちないよう、支えている腕に力を込める。
そんな状態なのに、彼女の表情はどこか朗らかだった。
匂いに癒された、というような、母親の胸で眠っているような。
いや、母親は勘弁してほしい。性別的にも年齢的にも。
今までだってそうだ。
選択肢がなかったと言いながら、例えそれが事実だとしても、柚葉はその置かれた境遇に流されるのではなく、どこか信念を持っているように感じだ。本人の口からは決してその素振りは見せないし、気のせいかもしれないが。
だが、少なくともこの世界は、アリスは、生贄になる存在が柚葉で助かったと思う。抵抗したり、逃げ出したりする異世界人もいる中、柚葉だけが受け入れてくれた。理解を示してくれた。こちらの勝手な要求に、勝手な運命に付き合ってくれた。どうしたって頭が上がらない。
それなのに彼女は、それをこちらに気にさせる暇さえ与えない。わざとなのか、わざとではないのか。どちらにしろ、巻き込んだのはこちらの方なのに、取り込まれてしまったのは、紛れもない事実だ。
「・・・・・・終わったぞ。眠っていい」
「ん・・・おやすみ、なさい・・・」
きっとこれからも負担を強いることになる。
それでも彼女は、笑っていてくれるだろうと、どこかで甘えてしまったのも、また事実だ。




