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私達、『パーティ鷺宮』です。  作者: ai-emu
第9章 帝国軍の侵攻
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第73話 皇帝の懺悔

ヒカリとタケシは、テクテクと王宮内を歩いている。風魔法空裂弾エアハンマーの威力は凄まじく、狙ってやったわけではないが、魔法が通過していった場所にあった建物は、原形を留めていなかった。そして、王宮の中心部へ地辿り着いたヒカリ。其処は、帝都のシンボルであり、王宮内で最も高い建物があった場所で、今は瓦礫の山と化していた。瓦礫の山から、必死になって救助活動を行っている近衛兵たち。あまり緊迫した様子がないことから、皇帝は、塔の崩壊には巻き込まれずに済んでいるようだ。


その日、皇帝であるカイトは、後宮の1室で目を覚ました。カイトが愛してやまない王妃エリカ。40年前、ここ後宮に一台のバスが、次元の裂け目を通り落ちてきた。当時は近衛兵に囲まれ命を落とす覚悟すらしたのだが、いろいろあって、皇帝の座を勝ち取った。今日は久しぶりに家族で朝食と摂っていたところ、突然大きな爆発音が聞こえ、こちらに近づいてくる。ふと窓の外を見ると、王宮内で一番高く、行政の中心である塔が、崩れ落ちモクモクと土煙を上げているではないか。そして室内に吹き込んできた強風で、部屋の中にあった家具がことごとく倒れる。何があったのか疑問に思っていると、後宮には入る事の出来ない近衛兵が、血相を変えて報告をしに来た。

「何事か!」

カイトの前に膝をついた近衛兵に事情を聴く。

「皇帝陛下。緊急事態故に、無断で後宮内に押し入った事、どうかお許しください。」

「そんな事はどうでもよい。それよりもこの騒ぎ、一体何があったのだ?」

「はっ!実は先程、城下の方からとても強い爆風が襲ってまいりました。それによって、城内の建物の約半数が、倒壊もしくは半壊しております。

現在城下から襲ってきた爆風については、鋭利調査中であります。結果については、追ってご報告いたしますが、朝の登城時間と重なっており、多数の官吏が倒壊に巻き込まれている模様です。」

「わかった。被害の全容の確認と人命救助を優先するように、関係各所に伝達しろ。俺は倒壊した塔に向かうと、クニマツに伝えろ。その後お前は、クニマツの指揮下に入れ。」

「畏まりました。ただちに伝達してまいります。」

カイトに報告に来た近衛兵に、指示を伝達するように伝える。近衛兵は踵を返して、後宮を後にしていく。

「エリカ。ここにいれば危険はないと思うが、側室たちを集めて、なるべく1か所に固まっておれ。」

「あなた、分かったわ。被害のあった場所から一番奥の建物に、後宮内の全員を集めて避難しておくわ。」

「ああ、そうしてくれ。俺は、陣頭指揮を執りに行ってくる。」

カイトは、着替えを終えると急いで崩壊した塔まで歩いた。中間報告を聴きながら、なるべく早く歩くカイト。現場について呆然とするカイト。瓦礫の山と化し、中にいた者を巻き込んで崩壊した塔。巨大な何かが通過し、町を横切る形でできている一本道。カイトは、両の頬を叩き現実に戻ろと、人命救助のための陣頭指揮を執るために、瓦礫の山に近づいた。


暫く現場で、陣頭指揮を執っていると、こちらに近づく男女2人気味がいるにに気付く。近衛兵でも侍女でもない2人は、平民が着るような服を着て、こちらに向かって歩いている。途中2人を止めようと近づく兵士もいるが、何かに護られるかのように、弾き飛ばされていた。そして2人組は、カイトに気付き、そばまで歩みを進める。

「あなたが皇帝さん?」

「いかにも。私がこの国の皇帝、カイト=レインス=タリルトリアだが、そういう貴様らは何者だ?」

「これは失礼いたしました。私は鷺宮ヒカリを申します。周りからは、『光の神子』と呼ばれております。隣にいるのは、鷺宮タケシ。『闇の神子』であり、私の夫です。

お久しぶりですね。伊集院魁人君。私は、旧名『今宮光莉』と申します。約2年半前は、地球にある鷺宮学園の生徒会長をしておりました。隣のタケシは、旧名『武城毅』で、元生徒会副会長です。

それからこれは、お近づきの品です。受け取っていただくととても嬉しいです。返品は受け付けませんが。」

ヒカリは、自己紹介をした後、両の掌を1度叩き合せた。

”ドッカ~~ン!”

すると、町の数十ヶ所と、王宮内の建物から爆発音が轟いた。特に大きな爆発音があったのは、王宮の建物だ。

「あらあら、ほとんど回収されていたのね。まあ、別にいいか。それよりも、黙って受け取ってもらえてなによりです。」

ヒカリは、唖然として固まってしまっているカイトに、ニコリと笑いかけた。カイトは固まっていた体を覚醒させると、ヒカリに聞いた。

「…今宮か。俺からしたら、約40年ぶりだな。それよりも、この惨状は、お前が1人でやった事なのか?それから、どうやってやったんだ?だとしたら、何故こんな事をした?」

「あなたに問いかけるのは私なのだけども、まあいいでしょう。疑問に応えるのも、今後の交渉で有利になるでしょうから。

まずは順番に行きましょうか。まず最初の質問ですが、確かに私1人でやりました。正確言いうなら、塔を壊し、町を瓦礫に変えたのは、私が放った1つの風魔法です。私がここに来てから起こった爆発は、前日までに町中に仕掛けてもらった魔道具によるものです。詳しくは言いませんが、魔力によって爆発する、爆弾のようなものと解釈してもらって結構です。この魔道具は、私が開発して製作しました。今回が初めての仕様ですが、少々改良する必要があるみたいですね。町を瓦礫に変えた魔法は、実際に見てもらった方がいいですね。」

ヒカリは、右手を適当な方角に向けた。ヒカリは右手に魔力を込め、イメージを形作り、そして一言、

空裂弾エアハンマー

と小さく呟く。ヒカリの手から放たれた目に見えない高速弾は、音を置き去りにして、進路上にあるすべての建物を巻き込み一直線に突き進む。後に残ったのは、何処までも続く長い更地だけだった。

「ちょっと魔力を込めすぎてしまいましたね。まあいいでしょう。ご覧の通り、只の風の弾丸を放っただけです。」

何事もなかったかのようにケロっとしているヒカリに、少し恐怖を覚えるカイト。あれだけの破壊力を持つ魔法を放てば、普通なら魔力が切れて立っている事も出来ないはずだ。カイトを始め、たまたまいた貴族や近衛兵は、皆放心している。

「大丈夫ですか~、伊集院君。お~い!戻っておいで~。」

放心してるカイトの目の前で右手を振り、現実に戻そうと頑張るヒカリ。らちが明かないので、目の前で拍手を打つ。ヒカリが撃った拍手で、何処からか戻ってきたカイトは、目の前にいたヒカリに驚き、とっさに後ずさる。そして腰に帯びた剣の柄を握った瞬間、首筋に冷たい感触が伝わった。

「柄から手を放しな。剣を抜いた瞬間、お前の首が胴体から離れるぞ。」

いつの間にか、カイトの真後ろにいたタケシが、カイトの首筋に短剣を突きつけていた。

「そんな鈍で、人間の首を切り落とせると思っているのか?」

剣の柄から手を離さずに、カイトは、タケシに言い放つ。しかし、ちらりと見た短剣は、何故だか黒光りしている。

「鈍とは言ってくれる。たしかに元はこの町の鍛冶屋で購入した鈍だが、それに闇属性の加護を与えて聖剣にしたのがこれだ。貴様の首など、何の抵抗もなく切り落とすことが出来るぞ。」

「…分かった。」

カイトは剣の柄から手を離した。タケシは、闇の力でカイトの剣を鞘ごと腰から引きはがす。ついでにこの付近にいるすべての武器を回収し、1か所に積み上げた。突然の事の困惑するカイトと近衛兵。

カイトは、大きく深呼吸をしてヒカリを睨み付けた。

「それで、お前たちは何をしに来たんだ。こんな事をするために、わざわざここまで来たわけではないだろう。」

「そうね。まずは、ここに来るときに依頼された仕事から片付けましょう。」

ヒカリは、ニコリを微笑むと、何処からともなく取り出した1通の封書を、カイトに手渡した。

「これはなんだ?」

「その封書は、コロラド王国からの無条件降伏を突きつける書類よ。サインをして頂戴。」

「無条件降伏だと!そんなものにサインなどできるか!」

「アラ、そんなこと言っていいの?」

ヒカリは、おもむろに右手を掲げて、空裂弾エアハンマーを放つ。魔法が通過していった場所が、更地と化していく。

「あなたが降伏文書にサインするのが先か、帝都が更地になるのが先か、競争してみる?私はどちらでもいいわよ。この国が滅びようと、関係のないことだから。そろそろ時間ね。」

ヒカリは、別方向に右手を向け、空裂弾エアハンマーを放つ。

「どちらを選ぶのかは、お前次第だ。早くしないと、本当にこの町が更地になるぞ。」

タケシが、カイトの耳元で囁いた。カイトは、無条件降伏を受け入れる書面に、サインをするしか道が残されていなかった。

「確かに、第125代タリルトリア皇帝、カイト=レインス=タリルトリアの名のサインと、玉印を頂きました。これは、コロラド王国の方に渡しておきますね。」

ニコリと微笑むと、ヒカリは、何処かにカイトのサインの入った書類をしまう。この時、帝都べリングラードは、王宮を中心に、幾筋もの更地を放射線状に作り出していた。更地と化した面積は、帝都の全面積の4割を超えていた。王宮に近い貴族街は、壊滅的な被害になっていたのだ。無論、中心地である王宮の建物は、8割が既に跡形もなくなっており、その被害は後宮にも及んでいた。

「さてと、次は、私個人の用件を話したいと思います。あなた方帝国軍は、ケルンを落とした際、真っ先に鷺宮商会ケルン支店に押し入りました。」

ヒカリの言葉を聴いて、カイトが反論した。

「少し待て、俺は、占領した町に対して、略奪行為を禁止したはずだぞ。」

その反論に対して、ヒカリは、冷淡に対応する。

「たとえ伊集院君が、略奪行為を禁止していたとしても、実際問題、略奪は行われました。どんな綺麗事を並べても、その行為に対しての正当性を証明する事は出来ません。これについては、既に制裁を加えていますので、どうこう言うつもりはありません。それに、略奪を推奨したであろう司令官は、私が殺して既にこの世にはいません。

さて、ここから本題に入りたいと思います。まずは伊集院君。コロラド王国との戦争は、今日をもって終了しましたが、今現状、帝国に西側諸国との戦争が始まっていますね。」

「ああ、確かに戦争が始まっているが、何処からその情報を手に入れたのだ?」

「情報源は何処でもいいです。帝都がこの有様です。戦争を継続する能力が、この国にあると思っていますか?」

「いや、短期的にはあるだろうが、長期戦になると、じり貧になって負けるだろうな。さらに帝都の復興にも人員と金を回さないといけないから、何もできずに負ける事もあるだろう。」

ヒカリの質問に、カイトは現状を鑑みて答えた。

「それでは、その戦争を、1ヶ月以内に終わらせて見せましょう。」

「そんな事出来るのか?」

「可能よ。私が持っている二つ名『光の神子』を使えばね。」

ヒカリは、『龍神の神子』と言う存在が、世界的に見てどれだけ強大な権力を持っているのかを、カイトに懇切丁寧に伝える。

「つまり、光龍フレクシアの化身であり、名代であり、代行者である『光の神子』が、我々帝国側に付く事で、西側諸国は戦争をやめざるを得ないという事だな。」

「その通りよ。この帝都の惨状は、既に西側諸国の諜報員が、自国に伝令を飛ばしている頃よ。さらに、私と伊集院君が、こうして会談している事もね。そして、この後に、伊集院君が世界に流布するの。『仲違いしていた光の神子とは、先の会談で友好関係を結んだ。私と光の神子が、同郷の出身だったのが功を奏したのだろう。さらに鷺宮商会が中心となって、帝都の復興を手助けしてくれる確約を得た』とね。」

「それはいいが、今宮と鷺宮商会はどんな関係なんだ?鷺宮商会と言えば、コロラド王国一の大商会だ

ろ。」

「鷺宮商会は、私が作った会社よ。私は貴族でも何でもないただの商人と言うわけ。だけど、鷺宮商会は、『光の神子』が経営している商会だから、『鷺宮商会が支援している事』は、言い換えると、『光の神子が支援している事』になるの。つまり、帝都の復興は、光の神子の支援の下行われているとなるの。

私とその関係者に喧嘩を売れば、どんな結果が待ち受けているのかを、この帝都の惨状で理解できない指導者はいないわ。

これは、あなたが元私の学友だからよ。30年近く歳も離れてしまったけど、あの時、関越トンネルの事故に巻き込まれた人たちと再会できるのは、とても嬉しいのよ。帝都をこんな惨状にしてしまった事は、交渉を有利に進めるために行った事だから、戦争の一環だったと思ってちょうだい。」


それから1週間後、コロラド王国と、タリルトリア帝国の国境は、多くの資材を積んだ荷車と、それらを護衛する冒険者で賑わっていた。行先は、帝都べリングラード。通過していく町を管理する貴族は、通行税と称して荷物の一部を略奪しようと目論むが、ことごとく失敗に終わる。町の中ならばともかく、町の外でその行為を行えば、盗賊とみなされて襲撃メンバー全員が動かぬ屍と化したのだ。町の中でその行為をすれば、即貴族の屋敷が襲撃され、逮捕されて荷の一部になってしまう。皇帝から、略奪行為に対しての逮捕権を与えられた帝国の捜査官が同伴していたのだ。

ヒカリの魔法で壊滅した帝都は、いまだにその傷跡が生々しく残っている。しかし、市民は、瓦礫の山を片づけて、新たな街づくりに着手していた。カイトは、この機会を逃さず、帝都の改造計画に着手している。王宮や貴族街の復興よりも先んじて、下町の復興を急がせている事が、帝都の住まう住民に好意的にさせていた。

西方諸国との戦争は、ヒカリの予測通り、すぐさま沈静化した。帝都を壊滅させたのが『光の神子』であると知れ、鷺宮商会が復興に肩入れしたからだ。それはすなわち、大陸で最も繁栄しているコロラド王国と、タリルトリア帝国が和解し、さらには同盟まで結んだのだ。帝国との戦争は、下手をすれば光の神子の逆鱗に触れてしまうため、自重せざるを得ないからだ。

こうして帝国は、新たなパートナーを得て確実に復興していく。さらに、ヒカリが作り出した魔道具を使用する事で農地が改良され、生産能力が飛躍的に上がり、帝国全土が大穀倉地帯に生まれ変わった。


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