第67話 ヒカリの戦争参加表明
カランの北に延びる街道、そのまま北上すれば、国境の山脈『ケール山脈』に到達する。この街道を抜けるには、広大な森を抜けなくてはいけないのだが、商人たち旅人は、危険と知りながらもこの街道を使っていた。なぜならば、北方の国『タリルトリア帝国』へと抜ける最短ルートだからだ。
今、その街道を、数万に及ぶ軍勢が南下していた。彼らは、国境の砦を数日前に落とし、コロラド王国に進軍してきた帝国の軍勢だった。
帝国と王国は、つい先日、帝国側の一方的な攻撃によって、戦争状態に突入していった。国境の町ケロットを占領した帝国軍は、数日の準備期間を開け、ケルンの町を蹂躙した。そのまま勢いを殺さずに南下を始め、街道沿いの町を次々と蹂躙していく。そして、帝国軍は、カランまであと数日と言う距離まで迫っていた。
今現在、カランの町に入る城門は、固く閉ざされている。
カラン城の中にある領主の執務室では、帝国軍の進行状況が報告されていた。後数日先には、カランの防衛線上に帝国軍が来襲するため、今後の対応を王都から派遣された将軍とともに協議していた。
「状況報告をいたします。」
斥候の兵士が、領主と将軍の前で、偵察の報告をしていた。
「申せ。」
「はっ!まずは、帝国軍の現在位置から報告します。
帝国軍は現在、カランの北約200キロ地点を南下中。後数日でカランの防衛線に到達予定。
偵察部隊によりますと、道中にある村や町は、すでに帝国軍に蹂躙されており、食料、医薬品などが不足しており、衛生状態が著しく悪化している模様。
帝国軍による略奪や強姦などが散発し、住民の半数以上が、帝国軍の監視を掻い潜って脱走しています。
斥候部隊は、現地の司令官の指示で、一部を除いて住民の脱走の手助けをしています。現地の司令官から、『独断で部隊を動かしていることを、お許しください』との伝言を預かっております。
また、王国側の奪還作戦のため、各地で局地的な戦闘がおこっておりますが、物資等の不足で状況は芳しくありません。
次に帝国軍の現在の部隊編成について報告します。
帝国軍は、現在約15000人規模の主力部隊と、約20000匹の魔物、魔獣とそれを使役する魔術師が、前衛として主力軍の前方に展開しています。後の約20000の部隊は、占領した町や村の進駐軍としてそれぞれに配置している模様。
以上で報告を終わります。」
「分かった。現地の司令官に『貴君の独断で住民の大多数が避難できたこと感謝する。引き続き、住民の避難を最優先に、奪還作戦を指揮せよ』と伝言を頼む。
それから、補給部隊を3師団連れて行け。部隊の配置は現地司令官に任せる。これが命令書だ。」
「伝言確かに受け取りました。それでは失礼します。」
斥候は、領主がその場で書いた命令書を受け取ると、部屋を退出した。
将軍は、深い溜息とともに、現状を整理した。
「帝国軍は、魔物や魔獣を含めて約25000、対してこちらは、私の部隊と、領主様の部隊を合わせてやく、15000。冒険者を傭兵として雇っても、現状カラン周辺には、約5000人いるかいないか…、その中でも、専つに参加できるランクC以上となると、さらに減る。さて、どうしたものかのう…。」
「それでもこの戦、死ぬ気で戦うしかないでしょう。カランがとられれば、コロラド王国は片手を捥がれたと同じ事です。
なるべく多くの冒険者が傭兵として参加するよう、ギルドへの依頼金を増額しましょう。」
この時、領主たちは知らなかった。冒険者の中に、一騎当千の冒険者パーティーが、カランに根を張って暮らしていたことを…。その者たちが戦争に参加するかどうかは別として…。
ところ変わって、鷺宮商会では、普段通りの営業をしながら、対策会議が開かれていた。参加者は、リーダーのヒカリと、タケシ、ケンジ、キャロル、スレイブ、タケル、冒険者仲間で、時々一緒に魔物や魔獣狩りをしているケイトとその仲間4人。皆Aランクの冒険者だ。それから冒険者ギルドから、ギルドマスターがアドバイザーとして直接会議に参加していた。
「とりあえず、私たちは、この戦争に参加する方向でいます。参加する理由は、『カランが好きだから。まだ1年も暮らしていませんが、この町が、蹂躙されるのを黙って見ていることはできません。
私たちのメンバーの中には、まだ、盗賊の討伐に参加していないものもいて、人殺しに慣れていない者もいますが、何も戦争には、最前線での人殺し意外にも、やらなくてはいけないことがたくさんあります。むしろ、後方部隊のほうが重要でしょう。
ケイトたちは、どうしますか?」
「俺たちは、もちろん参加するぜ。あちらの前衛の魔物共を、おれたち冒険者ができる限り潰せれば、騎士さんたちの仕事がやりやすくなるだろう。ここカランまでの町や村の防衛線は、前衛の魔物共の戦闘で疲れ切ったところをやられているからな。」
「ギルドマスター、私たち『パーティー鷺宮』と『暁のトラ』は、カラン防衛線に参加することをこの場で宣言します。」
「俺たち『炎帝の鉾』も参加を宣言するぜ。」
「ありがとう。君たち、カランで活躍する冒険者のトップのパーティー3組が参加してくれるのならば、この防衛線、かなり有利に運べるはずだ。
これから、城内で作戦会議が開かれる。できればそちらにも参加してもらえないだろうか?」
「そうですね。作戦の突合せは必要だと思います。
タケシとキャロル、スレイブは、私と一緒に来てください。それ以外は、部隊の編成をお願いします。ケイトさんのところも、今から編成作業をお願いします。ケイトさんと、後メンバーから2~3人は、私たちと一緒にカラン城の会議に参加してください。
それではギルドマスター、カラン城に行きましょうか。」
ヒカリは、そう言うと立ち上がった。後のメンバーも、ヒカリに賛同するかのように立ち上がり、カラン城へと歩いていった。
カラン城の作戦会議室では、領主側と、冒険者ギルド側の顔合わせが行われていた。
「忙しい中お集まりいただき、恐悦至極にございます。会議の進行役を務めさせていただく、ナリスタリアの州宰を務めている『カカリア=ドンホーテ』と申します。
まずは、こちら側の紹介をさせてもらいます。私の右手におりますのが、カラン城の城主で、この州の州牧であらせます『カトリア=センダレス』様です。その隣が、王国カラン防衛線派遣将軍の『タリス=テテリス』様、カラン騎士団隊長の『トーマス=クック』です。
では、そちらの紹介をしてください。」
カカリアは、バトンをヒカリたちに渡した。ヒカリたちの紹介は、ギルドマスターがしてくれた。
「それでは、こちら側の紹介は、カランのギルドマスターをしている『ドルマン=タリリア』がさせていただきます。
私の隣から、『パーティー鷺宮』のメンバーのヒカリ君、タケシ君、キャロル君、スレイブ君、『炎帝の鉾』のメンバーのケイト君、サリー君、トミー君です。後、参加を表明している冒険者は、私が代表として、ここで決定した作戦など詳細を伝える予定です。」
一通りの紹介が終わると、スレイブが口を挟んだ。
「元気だったか?トーマス。ずいぶんと出世したな。」
「スレイブさんこそ、こんなところでお会いできるとは思いませんでした。」
「スレイブさん、騎士隊隊長とは、お知り合いでしたか?」
ヒカリが疑問を出した。
「ああ、そういえば言ってなかったな。俺は、5年前までは騎士団の隊長をしていたんだ。トーマスは、その時俺の下で第一大隊の隊長をしていたんだ。
まあ、再開の挨拶は、とりあえずここまでにして、本題に移ろうか。カカリア、続きを頼む。」
州宰も旧知の仲らしいスレイブは、話を戻すために、バトンを戻した。
「そうだな、それでは、最新の帝国軍の状況から説明する。」
こうして、領主側と冒険者側との合同会議は始まった。最新の戦況報告を受けた後、ギルドマスターのドルマンは、ギルド側の参加条件を示した。
「ギルド側としましては、帝国側の前衛部隊の魔物と魔獣、それを使役する魔法使いを相手に戦いたいと思います。そのあとに控える主力部隊は、騎士団で対応していただきたいと思うのですが、どうでしょうか?」
ドルマンの提案に、将軍のタリスが答えた。
「その提案はありがたい。今までは、魔物たちの戦闘の後に出てくる主力部隊との戦闘でやられていたからな。それなら、こちらの戦力も温存できるから帝国側との戦闘も余裕をもって挑める。
こちら側からも、ぜひお願いししたい。それから、魔物共の掃討が終わってから、もし余裕があったら、主力部隊との戦闘にも協力してほしいのだが。」
「多分魔物共の掃討は、そう時間をかけずに終わると思うので、それは構いませんよ。ただし、『傭兵』として、戦闘に参加できる人数は限られてきますが。」
「それは構わない。こちらとしては、少しでも頭数を増やしておきたいだけだから。戦に勝利した後に決行する予定の奪還作戦の兵を少しでも多く残しておきたいからな。」
「この作戦で、不確定要素としては、帝国軍にいる魔法使いの数と、戦略が解らないという事ですな。
ここを見余ると、痛い目を見るからな。」
「そうですな。それについては、ギリギリまで偵察を行うとして、魔物共の掃討作戦については、ギルド側で作戦の全権をもらいたいのですが、いいでしょうか?」
「俺たち騎士側はその作戦には参加しないから、もちろん全権をギルド側に預けるつもりだ。」
「ありがとうございます。一応、結構前日までには、作戦内容を纏めてそちら側に提出する予定ですが、決行直前や、作戦途中で変更する場合があるので、その時は許してください。
それから、こちら側でも密偵を飛ばしますが、そちら側の情報も共有させてほしいのですが。」
「それは別に構わない。依頼しているのは王国側なのだ。情報の共有は、今後の関係もあるので、拒む理由はない。」
ドルマンとタリスは、双方の作戦責任者として話し合っていた。
「作戦の全容が決まったところで、少し話をしていいか。」
領主のカトリアが、2人の話に割り込んだ。2人の了解を得ると、咳払いをしてから話し出した。
「冒険者諸君には、この戦争に参加してくれたこと、とても嬉しく思う。
すでに知っているかと思うが、我等がナリスタリアの北半分は、帝国軍に落ちてしまっている。逃げ遅れた領民には、苦しい思いをさせていると自覚している。
ここカランが、帝国軍に落ちれば、ナリスタリア州全土が落ちたも同じだ。ここが正念場でもあるわけだが。
私からもお願いする。どうか、この戦闘に勝利して、帝国軍からナリスタリアの土地を取り戻してほしい。」
カトリアが座ったまま深くお辞儀をした時、ヒカリから提案があった。
「ドルマンさん、試してみたい魔術があるのですが、この戦闘で試してみてもいいですか?」
ドルマンとタリス、カトリアは目線で確認しあい、ヒカリに詳細を聴いた。
「どんな魔術だね、ヒカリ君。できるならここで説明してもらえないかね。」
「すいません。ここからは、帝国軍の斥候に聞かれたくないので、音声遮断魔法をこの部屋にかけさせてもらいます。」
「ヒカリ君も斥候が聞いているのを知っていたのか?」
「はい、私たちが雁首揃えたあたりからいることは知っていました。何か理由があるから放置してあるのだろうと思っていたので黙っていましたが。
ここからは、聞かれたくないので魔法を使わせてもらいます。
『風と地の力を借りて、この部屋と音を外部より切り離す。空間分離』」
「ヒカリ君、ちなみにこの魔法は、どんな効果があるのかね。」
「この魔法は、術者が指定した空間ごと別次元に移動させる魔法です。切り離された空間は、別次元にあるため、外部に音が漏れる心配はありません。今は、この部屋を指定しています。内緒話をするのに適した魔法です。
それでは、魔法の説明をします。今までは、地形を変えてしまう恐れがあるので試し打ちもしていませんが、構想だけはできているものがあります。カトリア様の許可が得られれば、使用したいのですが…。」
「…地形を変えるほどの魔術か。ここで説明できるか?許可はそれからでもよいか?」
カトリアの問いにヒカリが答える。
「はい、私の説明の後で、使用許可を出してください。
まずは、先ほどの帝国軍の展開状況がこの魔法の使用条件に丁度いいので使いたいと思います。
帝国軍は現在、カランを囲むように、左右の軍を前進させて行軍しています。主力軍が中央を、左右には魔物、魔獣を主力とした部隊が担っています。
この魔法は、術者を中心とした半円状に展開します。だからこの帝国軍の進軍状況はうってつけというわけです。
まずは、地の魔法で半円状に幅約1キロ、深さ約数百メートルの穴を、術者を中心に、半径10キロ程の距離で掘ります。注ぎ込む魔力に応じて、この範囲は変わっていきますが、魔術が発動する最低限の魔力でもここくらいの規模になります。これが地形を変える要因です。
ここからが本題ですが、この魔法で開けた穴は、瞬間的に陥没させるので、帝国軍の大多数が、発動する範囲に入った時に、魔法を発動させて帝国軍を穴の中に落とします。
そして、穴の中では、6属の刃が無数に発生して、穴の中の帝国軍に襲い掛かり、穴の中にあるものをすべて切り刻みます。
これで帝国軍の大多数を掃討できると思います。後は瓦解した小数を圧倒的大多数で掃討するだけです。」
「そんな大規模魔法、本当にできるのか?」
「はい、私なら可能です。キャロルから話すのを止められていますが、ここにいるメンバー以外、他には誰にも話さないでください。
私は、すべての龍神と大精霊と契約をしています。これが『可能』の答えです。
それから私の魔力量ですが、この魔法を成功させてもまだ半分近く残っているほどあります。なので魔法の成功確率は、95%といったところでしょうか。」
「その魔法でできた穴は再び元に戻すことはできるのかね?」
「元に戻すのは可能ですが、地面がそのまませり上がりますので、その時は、穴の中で行われた惨劇の後を見ることになりますね。それに耐えれるのなら戻しますが。」
「そういう意味で『地形が変わる』か。確かに切り刻まれた肉塊を見るのはごめんだ。
…、その穴は、今後カランの防衛線の要になりそうだから残しておいてもいいな。
それにこちらの兵力を温存できるメリットもある。
よし、ヒカリ君。魔法の使用を許可しよう。思う存分やりたまえ。
タリス、魔法が成功した後の残党の掃討作戦を練っておいてくれ。
そうだ。カランの北にあるトンビ村の住民をすべて避難させたのち、トンビ村にあるすべてに食料に激痛を伴う下剤を仕込んでおけ。井戸の水には何も入れなくてもよい。」
「かしこまりました。それでは、私は、準備のためこの場を退席いたします。それともう一つ、ここカランに結界を張ります。」
ヒカリは、そこまで言うと、会議室を退室した。




