第41話 テラフォーリアでの年越し②
ヒカリたちと大神官が席に着くと、秘書らしき女の人が、お茶と茶菓子を皆の前に配り、部屋を出ていった。今この部屋にいるのは、ヒカリたち6人と大神官。あとは、補佐をする神官数人だけだ。出されたお茶を一口飲むと、大神官が口を開いた。
「神子様の当然のご訪問、ご用件は何でございましょうか。先ほども申しましたが、こちら側が、何か不手際でも起こしましたでしょうか。」
あくまで下手に出ている大神官。
ヒカリはふと考えた。何か要件をでっち上げないといけない。バカ正直に、「暇つぶしにちょっと賭けをしまして…」などとは、口が裂けても言えない。そうだ!とりあえずは、あれから言ってみよう。
「今日は教会の中にたくさん人がいますね。」
「ああ、いつもはもっと少ないんですよ。今日は、年越しの講話を聴くために、町中の人がここに集まっているんです。」
「大神官さんのありがたいお話ですね。私も初めて聴くので、とても楽しみにしております。」
ヒカリは、膝の上にいるフレアを撫でながら話していく。
「光の神子様に聞いていただけるとは、光栄の極みです。拙い話ですが、最後までお聞き下さるとうれしいです。」
「はい、そうさせていただきます。あと、それに関連してお尋ねしたい事があります。」
「何でしょうか。」
「何故、ホールの中央付近の椅子には、誰も座っていないのですか?」
「それはですね、今までの慣習から、そこの椅子に座れるのは、貴族とその従者、あとは、カランの城主とその家族だけと決まっておりまして。」
「そんな決まり、誰が何時作ったんですか?まさか、ただの貴族特権で強制されただけじゃないのですか?少なくとも、フレア…、光龍に聞いた限りでは、そんな決まりは昔はなかったと言っていますが。」
「…、はい、お恥ずかしいお話ですが、何代か前に、カランの城主が押し切りまして、それが今に続いているのです。我々の権限では、その決まりを変更することが出来ずにいます。」
ヒカリは、少し考えた、大神官に示した。
「それじゃあ、私の、いや、『光龍』の名で、今すぐお触れを出してください。そうですね、文面はこうしましょう。
『光龍から天啓。
今後一切、教会の行う神事において、貴族特権を行使することを禁じる。この禁を守らない貴族は、6神の加護を永代失う事とする。
これは、コロラド王国にあるすべての教会に適応する。
今回の神事に関しては、今現在教会内にいる者が、椅子に座る優先順位を得る。
たとえ国王だろうが、城主であろうが、この決定を覆す事は出来ない。
教会の敷地内では、一切の暴力を禁ずる。
この禁を破り、先に着座している者を、無理やり退かす事があった場合、それを指示した者と実行した者は、その場で神の裁きを受ける。』
これで行きましょう。もし何かいちゃもんをつけてくる貴族がいたら、この部屋までご足労願ってください。その時にはちゃんと、
『文句があるんなら、今奥の部屋で、光龍様が顕現されているので、直接話してください。』
と言ってくれていいです。まあ、その貴族の言い訳に納得できたら、今回の天啓を取り下げましょうか。理論立てて、私を説得できる人などいないでしょうけど。
とりあえずは、この教会のみの適用となりますが、可及的速やかに、国内のすべての教会に、お触れを回したください。」
「分かりました。早速、『光龍様からの天啓』という形でそのお触れを教会の外に出します。大聖堂の中にいる者には、好きな席に座ってもよいとお触れを出します。
君、早速お触書を製作して、外に張り出しなさい。
この天啓は、数日以内には、国内にあるすべての教会に行き渡るように手配いたします。」
神殿の人が素早く動き、お触書が教会の外に出された。それと同時に、大聖堂の中にいる者たちにもお触れが出され、程なくしてすべての椅子が埋まった。それは、いつものように時間ぎりぎりに来た貴族たちの目に留まり、座っている者たちを強引にどかそうと試みるも、それをすることが出来なかった。
実際にに、強引にどかそうとした者は、その場で動かぬ彫像と化し、触った途端に砂となって崩れてしまったのだ。もちろん指示を出した貴族も、同じ運命を辿っていった。それを見せつけられた貴族たちは、教会の案内の下、ヒカリと面会する。しかし、ヒカリに対して、理論立てをしながら説得する事は出来なかった。
「貴族は平民よりも偉く、上の存在だ。」
だと誰かが説けば、
「我々神々は、貴族だの平民だのと言う身分を認めたことは、過去一度たりともない。身分とは、人族が人族を支配していくのに必要だったため、勝手に決められたこと。神の前においては、すべからずここテラフォーリアで暮らすすべての生命が平等である。」
と説かれる。これを説き伏せれる貴族はいなかった。さらにごねた貴族には、追い打ちがかけられたのだ。
「それでは、そなたたちの言う『貴族』とは何か?『平民』とは何か?我に教えてくれぬか。我がその答えに納得できれば、今回の天啓は、なかったことにしようぞ。」
と言われる。しかし、貴族が、いや、自分たちが支配するために決めた制度を、神々に納得できるように話せる者などいるはずがない。押し問答をしているうちに、始まりの鐘が鳴り響いた。
こうして、貴族であろうとも、教会の敷地にすら入れないものが続出したのである。
鷺宮家の面々は、そんな阿呆な貴族たちを差し置いて、お触れが出された瞬間に、近くの席をいち早く確保し、全員が席に座る事が出来た。別に、最前列で大神官の講話を聴こうだのと言う考えを持った人はいなかったのだ。
ヒカリたち6人は、なぜか最前列に作られた特等席に座っていた。それも、立派な法衣を身に纏って。
ヒカリは、
「別にみなと同じでいい」
と、一度は断ったのだが、
「それでは、教会としての示しがつかない。神子を蔑ろにするような考えは、持ち合わせていない。」
と言われ、しぶしぶ特等席に座った。そして、大神官の講話の最後に、ヒカリたちは、壇上に呼ばれた。これも、パフォーマンスの一環だと思い壇上に上がった。ここで神子だと宣言されても別にいいかと、ヒカリを含めた6人は、諦めたように達観したいた。
「…、今年の年越しには、喜ばしいことが出来た。それは、6神の神子がすべて揃っていることだ。
聖書にはこう書かれている。
『神子とは、神そのものであり、神の代弁者である。
神子の意志に逆らう行為は、神の意志に逆らう行為。』
だと。それは神事が始まる前にすでに示された通りである。
光の神子様、こちらへお越しください。」
大神官い招かれて、ヒカリは、壇上の一番高い場所まで上がってきた。その際、大神官に次いで偉い神官が、ヒカリをエスコートしていた。
「間もなく年越しの時間になる。光満ちる新しい年を、『光の神子』様とともに祝おうぞ。」
程なくして、年越しの鐘が鳴り響いた。この後、ヒカリには、大神官から1つ仕事を受けていた。最も重要で、最も大事な一言を、大神官に代わり言わなければならない。
年越しの鐘が鳴り終わると、ヒカリは、その大事な仕事をするため、大神官の傍らで話はじめた。
「我、『光の神子』が宣言する。今、新たな1年が始まった。この1年が素晴らしい年であるよう、我等が神、『光龍』とともに歩んでいきましょう。」
ヒカリが宣言すれば、大聖堂内ではヒカリの言葉で、割れんばかりの大声援が起こった。
大聖堂での講話の後、ヒカリだけ先ほどの部屋に通され、今後の予定について大神官から話がなされた。
「光の神子様、本年度は、とても良い1年になりそうです。それでこちらからお願いがございます。」
「何でしょうか、大神官様。」
「私に『様』付けは不要です。どうぞアキヒロとお呼びください。」
「『光の神子』は呼びにくいでしょう。私の事はでどうぞヒカリとだけお呼び下さい。アキヒロというと、あなたの祖先もしくは、あなたは元日本人ですか?」
「はい、ヒカリ様。私の本名は、『大岩彰浩』と申します。この世界に来たのは、今から50年ほど前でしょうか。ここに来た当時は、まだ10歳でした。
私の記憶では、50年前に起こった事なのですが、…あの日、関越トンネルを父が運転する車で走っておりまして、気が付いたらこちらに来ておりました。私は、心霊の類を見、話すことが出来たので、神殿に引き取られ今に至っております。兄は、カラン城で騎士をしております。両親は、兄と一緒に暮らしております。先程ヒカリ様をエスコートしていた者が、私の息子で、ヒロカズといいます。どうぞお見知りおきを。ヒカリ様も、『鷺宮』を言うことは、日本からいらしたのですか?」
「はい、私も日本出身です。私もあの日、関越トンネルを学校の行事のため、バスで走行していました。こちらに来たのは、約10カ月前ですが、…不思議ですね。同じトンネルを通過していたのに、こちらに流れ着いた時間が、50年離れているなんて。
『鷺宮ヒカリ』は、こちらに来てからそのバスに乗っていた者で家族になった時に、名乗った名前です。日本の本名は、『今宮光莉』と言います。今は、もう『鷺宮ヒカリ』の方が気に入っており、『今宮光莉』と名乗る気はありませんが。」
「ヒカリ様もあの日、関越トンネルにいらしたんですか。…すると、私の乗った車の後ろにいたバスの隊列のうちの1台に、乗っていらしたんでしょうね。確かに不思議ですね。あの日、あの真っ白な光の中に入ったのは、ほんの数秒の差だっははずなのに。」
まあ、こういう事もあるでしょう。なんせ、次元の裂け目を通過したのです。あれは謎だらけの現象ですので。たかが数秒の差が、数十年の差になったとしても不思議ではありません。50年という月日は開きましたが、あの時、たまたま同じ空間にいた者たちが、こうして再び出会うことが出来たのです。この奇跡の出会いを大事にしていきましょう。
それはともかく、私に何のご用でしょうか?アキヒロさん。」
「まあ、世間話はこの次、お互い暇な時にでもしましょう。
本題は、今日から5日間に日程で行われる、新年の神事にも参加してほしいと思い、こうしてお願いをした次第です。
ヒカリ様がすでに『光の神子』であるという事実は、カラン中に知れ渡っております。今日の年越しの神事は、こちらの都合で急遽出ていただきました。あのお触れの後に、最前列にわざわざ席まで設けて座っていただいた方々が、何者なのかを知れ渡らせるためのごり押しでした。しかし、もう一度ヒカリ様達を見ようと、住民が神殿を離れようとしておりません。混乱を避けるためにも、新年に行われる神事すべてに参加してもらいたいのです。
神殿といたしましては、ヒカリ様達を大々的にお迎えしたいを思っております。これは、ヒカリ様達を馬鹿な考えを起こす貴族共からお守りする目的もございます。」
「そうですね。私たちを取り込もうと考えるバカどもは、必ずいますね。まあ、そのことは、追々考えていきましょう。神事の事は、お受けいたします。こちらが突然押しかけた事ですし、混乱を最小限にするためにも、新年の神事くらいは、何とかしましょう。ところでこの話は、私以外の5人も参加するんでしょうか?」
「できれば御参加して頂きたいのですが、ヒカリ様以外は、任意のご参加で結構ですよ。」
「分かりました後で話してみます。」
こうしてヒカリの、新年の神事の参加が決まった。
話の矛盾点を修正しつつ、加筆しています。




