第40話 テラフォーリアでの年越し①
ヒカリたちがテラフォーリアに来て、初めての新年を迎えた。ヒカリたちは、今住んでいるカランの新年行事が、どんなものなのかワクワクしていた。
大晦日の12月31日、鷺宮家一行が向かったのは、町の中心にそびえる光の大神殿だった。
カランの町は、光の大神殿を中心に、8方向に道が伸びている。この8本の道が、カランの大通りとなっており、その他の道路は、この通りを結ぶ形で、蜘蛛の巣状に広がっている。ヒカリたち鷺宮商会は、南に延びる通り沿いに、教会と城門の中間あたりに面していた。カラン城は、教会からまっすぐ北に行った場所にある。
ヒカリは、サリュースに標準的なテラフォーリアの年の越し方を聴いていた。サリュースの話では、町には大体建っている神殿に家族で行き、神官から年越しの講話を聴くのだそうだ。講話が終わる頃に、年越しとなり、教会から振る舞われる食事を頂いてから、町の東側に移動して、初日の出を見るみたいだ。カランは、高い城壁に囲まれているので、町の住民は、東側の城壁に上がるため、城壁の上は、座る事も困難なほど混雑するとカラン出身のサラが言っていた。
大神殿に着くと、既に満員状態で、椅子に座る事はすでに困難で、大きな吹き抜けの大聖堂に面したバルコニーにも、あふれんほどの人が押し寄せている。しかし何故か、真ん中付近の椅子だけぽかりと空いており、その椅子を護るかのように、騎士が周りを囲っている。ヒカリはなぜだろうと首を傾げサラに聞いてみる。
「何故中央の一角だけ、席が空いているの?あの騎士たちはいったい何でいるの?」
「あれですか。何時の頃からかは知らないですけど、あそこには、貴族たちが座る事になっているらしいですよ。そのため、貴族の人たちは、時間ぎりぎりに来ます。」
「どこの貴族も、考える事は同じなのね。」
ヒカリは、大きく溜息を吐いた。
まだ、大神官のありがたい講話が始まるのに、1時間以上時間がある。ヒカリたちは、入り口付近の壁際に陣取っていた。すると、ヒカリの肩に白い猫が突然現れる。
「あれ、フレア、いきなり現れてどうしたの?」
肩にかかる重さでヒカリが気付き、フレアと呼ばれた白猫に声をかけた。ヒカリは、胸の前でフレアを抱いて、左手でフレアの喉元を擦っている。フレアは、気持ちよさそうな顔になってご満悦な顔だ。それに真っ先に気付いたのが、サトミとリョウコだった。
「これがヒカリちゃんがいつも言っている白猫のフレアちゃん。かわいいね。ちなみに私のも見て!出ておいで、アクアちゃん。」
「何?サトミ~。」
間延びしながらサトミを呼んで、水龍が姿を現す。サトミが差し出した手の上には、手のひらサイズの小さな小さな水の妖精。何処かの絵画で見た美女の顔つき。鰭のような大きな耳を持ち、青い髪を腰までたなびかせている。背中には、蝶のような水晶の翅をもっていた。
「サトミさんのも、かわいい姿をしていますね。それがアクアちゃんですか?」
ヒカリは、サトミの手に座るアクアを見て頬が緩んでいる。
「サトミさん、何?そのちっちゃくてかわいい生物は!私のシルフちゃんは、見た目は子供だからとてもかわいいのよ。」
リョウコの後ろからは、いつの間に召喚されていたのか、緑色の髪を腰までたなびかせている少女が、リョウコの足をぎゅ~と掴んで立っていた。
「ヒカリちゃん、こんな楽しいこと、私も混ぜてよ。」
そう言いながらもちゃっかりと腕の中に動物みたいなのを抱えたマナミが、ヒカリたちの話に割り込んでくる。
「これが私のサラダンちゃんよ。見た目は真っ白なキツネちゃんだけど、尻尾の先に揺らめく炎が、この子のチャームポイントなの。」
しっかりと、サラダンの自慢をしてくるマナミ。女性4人が、自分たちの神の化身を愛でながら話している傍らでは、タケシとケンジも、それぞれ化身を呼び出して愛でていた。この一角だけ、異様な霊気を放っているのにも拘らず、誰一人として、その存在に気付く事がなかった。
「しかし、あと1時間も立っているのは、少し疲れるわね。」
そんなことをマナミがぼそりと呟く。
「「「そうよね~、疲れるわね~。」」」
全員の総意である。それを見てヒカリが少し意地悪な提案をする。
「今ここには、この国で崇められている、龍神6神とその神子が、すべて揃っているのだけど、もしその事を教会の関係者にばらしたら、どんな反応が来ると思う?後、時間ぎりぎりに来るだろうおバカな貴族連中に、お仕置きもしたいと思っていた処なのよ。」
光莉たちの視線は、ホールの中央にある空席を見つめている。誰ともなく、黒い笑顔を浮かべて、悪巧みを進めていく。その姿鵜を、隣で楽しそうに眺めている鷺宮家の関係者たち。
「それは面白そうね。おバカな貴族は置いておいて、とりあえずは、教会の反応を賭けの対象にしようか。ん~、私としては、門前払いに1000テラ。ちなみにヒカリちゃんは?」
リョウコが賭けの対象にしてしまい、お金を賭け出した。
「私は、そうだな~。タケシとケンジも出しているみたいだから、このまま龍神を引き連れて全員で押しかけたとして、…ここの大神官がその場で倒れるのに2000テラ。サトミさんは?」
ヒカリも賭けに乗ってきたようだ。周りの反応を、賭けの対象にして楽しむ気満々だ。
「ちょっと、ヒカリちゃん。それはいくらなんでもひどいんじゃない?でも私も乗っちゃおうかな。そうだな…、本当に神であり神子であるのかを、どうにか確かめる方に2000テラ。マナミちゃんは?」
「あたしですか~。リョウコちゃんと同じで、門前払いに1000テラですね。タケシとケンジはどうする?」
「もちろん参加するぞ。俺は、本物であると確認が取れた後に、ヒカリが担ぎ出されるのに1000テラ。ケンジはどうだ?」
「私まで賭けの対象にするなんて、ちょっとひどくない。」
ヒカリが抗議の声を上げるが、周りは面白がっているだけだ。
「俺は、タケシの意見に賛同し、尚且つ俺達全員、祭壇の前に立たされるのに5000テラといこうか。
全員の意見が出揃ったところで、誰が正解なのか、早速確認に行こうではないか!」
ケンジは、ヒカリたちを連れて、大神殿の奥に歩いていった。誰が賭け金を総取りするのか、皆楽しみなようだ。
「あんなことを賭けの対象にしていいのか?」
ダイゴロウが、隣で楽しそうに微笑んでいるタカヒロに訊いた。
「いいではないか。人生楽しまなきゃ損だぞ。お前さんの意見はどうじゃな。儂は、そうじゃな~、ヒカリ君たちが祭り上げられるのに、5000テラといこうかのう。」
「おっ!高く出ましたな。私は、みんながしょんぼり戻ってくる方に5000テラ賭けましょうか。」
「なかなか話の分かる御仁だ。皆もどうじゃ。こんな面白い賭け、これから先なかなかないぞい。」
タカヒロは、他のメンバーも焚き付ける。他のメンバーも、ただ立って待っているのが飽きて来たのか、賭けに参加した。
ヒカリたちは、自分たちが賭けの対象にされている事など知らずに、『関係者以外立ち入り禁止』の札がかけられたドアの前に来ていた。
「ちなみにフレアちゃん。」
「何じゃ、ヒカリ。」
「教会の関係者って、私たちが放っている空気を感じることが出来るの?」
「…、そうじゃなあ、神官クラス以上の者なら、感じる事は出来るぞい。大神官や神官になるには、神気や霊気を感じれないとなれなかったはずじゃ。…昔はな。今はどうかわからんが…。」
「今も、昔と同じであることを願おうか。じゃあいくよ。」
”コンコン”
「誰じゃ。」
中にいる人が応答したのを受けて、ヒカリがドアを開けた。
「失礼します。」
ヒカリは、ドアを開けると、一度お辞儀をしてから、部屋の中に足を踏み入れた。他の人も、ヒカリに続いて、お辞儀をして部屋の中に入る。ヒカリたちが部屋の中で1列に並んだ時、迎え入れた者たちは、皆冷や汗を垂らして固まってしまっていた。ヒカリたちが放つ神気を直接当てられたからだ。そんな部屋の主たちの反応を楽しみつつ、ヒカリは、さらなる爆弾を投げ入れることにした。
「お初にお目にかかります。大神官様。私は、ここにいる『光龍』の神子をしております鷺宮ヒカリと申します。フレア、大神官様たちに挨拶をして差し上げて。」
すると、ヒカリに抱かれていた白猫が、白い輝きとともに、真っ白な鱗を持つ龍に変身した。天井で蜷局を巻き、くるりと一周すると、また白猫の姿に戻り、ヒカリの肩に乗っかった。その光景を目のあたりにした大神官たちは硬直していた。ヒカリは、さらに爆弾を投下していく。
「それから、ここにいる5人は、それぞれ『闇の神子』、『風の神子』、『水の神子』、『火の神子』、『地の神子』であり、その傍らにいる生物が、それぞれの龍神が化身した姿です。」
5人は、ヒカリに紹介されると、優雅に一礼した。
大神官たちの思考は、すでに停止していた。古より伝え聴く神が、目の前に顕現されているのだ。さらに神を、まるでペットのようにかわいがり、意志を通じ合わせている自称『光の神子』と言った少女。先ほど天井付近を優雅に泳ぎ、今はその少女の肩に乗り、喉の下を撫でられている白猫。
伝承は謳う。
『神子とは、神と契約し、神と一身一体となった存在。
神子は、人でありまた神である。
神は、神子の御心に沿い、神子は、神の御心に沿う。
神子の発する言葉は、神の言葉であり、それゆえに神の代弁者である。
神子には、証である指輪をはめている。』
入り口から入ってきたとき、6人と6匹?からは、異様なまでの神気が満ちていた。今、目の前にいるのが、神であり神子であるならば、納得できることだった。
「そなたたちが、『龍神の神子』と言うならば、その証である指輪を見せてくれ。」
いち早く再起動を果たした大神官は、龍神の神子の証である指輪を確認したいを言ってきた。ヒカリたちは、それぞれの右手を出して、薬指に輝く指輪を見せる。指輪を確認した大神官は、ヒカリたちに着座を進めた。もちろん上座にである。何時までも神の化身たる龍神の神子を立たせておくことは出来ないからだ。
「神々に神子様。このような場所にお越しとは、何か我々に問題でもございましたか?立ち話もなんですので、どうぞこちらにお掛け下さい。
君たち、いつまでも突っ立っていないで、神子様たちをお持て成しして差し上げなさい。」
ヒカリたちは、大神官に勧められた席に着席した。それを見届けて大神官は、ヒカリに対面するように着席をする。
話の矛盾点を修正しつつ、加筆しています。




