第39話 サトミの誕生日
今日は12月10日、サトミさんの誕生日である。ここテラフォーリアに来てから、今までバタバタしてきて、ゆっくりと家族の誕生日を祝える最初の人が、なんとサトミさんなのだ。鷺宮家にとっては、母親みたいな存在で、影から支えていてくれている。
そんなサトミさんに、ヒカリたちは、サプライズのパーティーを企画していた。もちろん鷺宮家の家族と、鷺宮商会に勤める従業員すべてが、1人ずつプレゼントを用意している。タケシたちも、この日は早めに依頼を切り上げ、夕方には全員が揃っていた。
鷺宮食堂では、家族と従業員全員が集まり、サトミを上座に据えて、誕生日会が始まった。
「サトミさん、今日は何の日かご存知ですか?」
「何?ヒカリちゃん。この感じだと、私に関係ある日だとは思うのだけど、いったい何の日なのかしら。」
「え~とですね。地球とテラフォーリアでは、5日ほどテラフォーリアの方が1年が長いのですが、それを無視して、私が勝手にみんなの誕生日をテラフォーリアの暦に合わせました。そうすると、今日が、サトミさんの誕生日となりました。
今までバタバタしていたので、個人の記念日は祝うことが出来なかったんですが、少し余裕が出て来たので、これからは、家族と従業員の誕生日は祝っていこうと決めました。
サトミさん。「「「「誕生日おめでとうございます!」」」」
これは、私からのプレゼントです。サトミさんの歳の数だけ蝋燭を立てているのは、お約束ですから。地球の時のように、蝋燭を消してください。」
サトミの前には、ヒカリが製作した直径50センチほどのホールケーキが鎮座している。ケーキは、所謂ショートケーキで、カランの市場で買ってきた果物が、ふんだんに飾り付けられている。初めてこれを見たサリュースたちは、目を点にしている。ケーキには、33本の蝋燭が火を揺らめかせていた。
「ヒカリさん、これはなんという食べ物ですか?」
疑問に思ったサリュースが、キツネ耳をピコピコさせながら聴いてきた。
「これは『ケーキ』という食べ物よ。私たちが暮らしていた地球では、お祝い事に出されるデザートの一つよ。
さあ、サトミさん、一気に吹き消してください。その前にみんな、お約束のあの歌を歌いましょう。」
ヒカリは、みんなと焚き付けて、拍手をしながら誕生日に歌うあの曲を歌う。サリュースたち、テラフォーリアで育った面々は、見よう見まねでヒカリ達に合わせた。サトミが苦笑いを浮かべながらも、蝋燭の火を一気に消していった。そしてその後に一言。
「ヒカリちゃんの誕生日の時は、覚えておきなさい。」
黒い笑顔をヒカリに向けたサトミは、…少し怖かった。その後、皆からのプレゼントが渡される。
「私とマナミからは、今日の料理をプレゼントします。今日の料理は、今までサトミさんから聞き出した好物を、製作してみました。地球のあってこちらにないモノは、代用品で出来るだけ味を再現しています。」
リョウコとマナミからは、サトミの好物料理を製作したみたいだ。
「俺からは、サトミさん専用の包丁をプレゼントします。今日に間に合うように頑張りました。」
ケンジがサトミさんに、サトミの癖を調べつくし、反映させた包丁をプレゼントした。サトミは早速その包丁で、目の前に鎮座しているケーキを切り分けた。微妙な角度に削られた柄は、サトミの手にぴったりとフィットしおり、まるで手を延長したかのように、包丁が一体化しているように感じる。包丁の重心も、それに合わせて位置が決められているようだ。まさにサトミ専用、試しにヒカリが使ってみると、何か包丁とは思えない違和感がある。短期間でよくここまで極めれたものだと、ヒカリとサトミは感心した。
「ここの料理を担当しているヒカリ、リョウコ、マナミにも誕生日の日には、同じ包丁をプレゼントする予定だ。なので、これからは、厨房を覗かせてもらうぞ。」
他のメンバーも、各々用意したプレゼントを渡していく。
そして、本日の大本命、ダイゴロウさんが最後にサトミに渡したもの、それは、テラフォーリアで、最も高い水晶を埋め込んだ指輪だった。水晶は、聖霊が宿る唯一の石として、テラフォーリアでは、最も貴重な石なのだ。
「ヒカリちゃんに頼んで水晶を分けてもらった。それにサトミの属性である水の聖霊を入れてもらった。俺のは、サトミの指輪に入っている聖霊の分身が入っている。これを使うと、離れていても会話が出来るらしいと、ヒカリちゃんから聞いた。これからは、何処にいても携帯電話のように話すことが出来るらしい。」
「できるらしいって、どんな意味なの?」
サトミは『らしい』問い表現に、疑問を呈した。それには、ヒカリが答えた。
「その指輪ね、まだまだ実験の段階で売り物ではないの。私の実験に付き合わせる形になるけど許してね。お父様が、水晶を欲しいと私の下に来た時に、最初は、水晶の代金を払う予定だったの。
ここだから言えるけど、水晶ってすごく高いのよ。私は原石ごと大量に仕入れているから、ある程度は安く加工できるけど。お父様の稼ぎでは到底買うことが出来ない。ならばと、私からこの話を持ち掛けたの。実験に付き合ってくれるなら、指輪にする加工賃だけでいいよと。
ちなみにタケシやケンジたちにも、同じものを渡して、実験に付き合ってもらっているのよ。」
ヒカリは、内情をあっさりとばらした。ダイゴロウは、そんなヒカリをジト目で見つつも、サトミの左手の薬指に指輪をはめた。その後、もう一つの指輪をサトミの渡す。
「ほら、結婚したとはいえ、ただ籍を入れただけだろう。夫婦の証と言ってはなんだが、結婚指輪の代わりだ。受け取ってくれ。」
照れくさそうにダイゴロウは、指輪にもう一つの意味をさり気なく付け足した。サトミも照れながら、ダイゴロウの左手の薬指に指輪をはめた。その後は、和気あいあいとパーティーは進んでいった。
「次は、誰が誕生日を迎えるの?」
サトミがみんなに聞く。
「多分私ですね。12月25日です。」
そう答えたのは、サリュースだ。
「その日は、私がサリュースちゃんの好物をたくさん作ってあげるわ。ヒカリちゃんはどうせまたケーキを作るでしょうから。」
ヒカリは苦笑いを浮かべている。どうも図星のようだと、サトミは心の中で笑った。
「ちなみにヒカリちゃんは何時なの?」
「私ですか。私は、4月15日です。ちなみに10日がタケシの誕生日で、25日がリョウコの誕生日です。私たち3人は、誕生日が近い言う事と、地球では今宮家の敷地内に2人の実家もあったので、小さい頃は、よく枕を並べて寝ていたそうです。どうもタケシの実の母が、私とリョウコの乳母だったみたいですね。所謂3人は、幼馴染の腐れ縁で、尚且つ乳兄妹というやつです。」
「それはすごい3拍子が揃ったねえ。じゃあ、あなたたち3人は、生まれた時から、今までずっと一緒にいるの?」
「はい、学校は親が決めた鷺宮学園に、幼稚園の頃から通っていました。そこで何故か解らないのですが、幼稚園から高校まで、つまり、テラフォーリアに流されるまで、3人とも同じクラスなんです。マナミが小学校1年の時に一緒になって、今宮家で暮らすようになってからは、4人とも同じクラスです。これはもう今宮家が、裏から手を回していたとしか思えません。いや、きっとそうです。」
ヒカリは今宮家の人間が、誰も聴いていないのをいい事に、この不可思議現象を、今宮家の仕業だと言い切った。タケシとリョウコ、マナミは、ただ苦笑いをしつつも、ヒカリの持論に同意している。
そうなると、4月は5日おきに誕生日会を開かなくちゃいけなくなるね。たしか、25日がマナシアさんで、30日がパンタジアさんだったね。」
「「はい、サトミさん、そうです。」」
マナシアとパンタジアは、サトミの問いかけに返事をした。
「5日おきに誕生日会を開くのもなんだから、4月の誕生日会は、ヒカリちゃんの誕生日の日に纏めてやりましょう。」
「なぜ私の誕生日なの?」
ヒカリがサトミの提案に、不満げに聞いた。
「それはあれでしょう。私の見解としては、ヒカリちゃんの困った顔が見てみたいと思ったからよ。それにこの面々の中で、ヒカリちゃんを差し置く事なんて、無理な話でしょう。」
「…まあ、別にいいですけど。その代わり、サトミさん、今日の仕返しに何か企んでいるのでしたら、ド派手なものを期待していますよ。」
しぶしぶ了解したヒカリは、サトミに対して、牽制球を放っておく事も忘れない。
「ヒカリちゃんが度肝を抜かすような事を計画しておくから、心して待ってなさい!」
サトミもまた、やる気満々の笑顔で答えた。その様子を、お茶を啜りながら、柔らかい目で見つめるタカヒロだった。
(サトミさんとヒカリ君は、本当の母娘みたいだな。鷺宮家は、この母娘で成り立っているようなものだ。)
タカヒロは、心の中で呟いた。
話の矛盾点を修正しつつ、加筆しています。




